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2020年8月21日

弱みは雑談のみ? オンライン授業の改善策は【検証:東大のオンライン授業③】

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)収束の見通しが立たない中、今後オンライン授業とはどのように向き合っていけばいいのか。東大で授業のオンライン化支援に当たった大学総合教育研究センター(大総)の教員に、現時点で見えている改善点や、今後の動きについて聞いた。見えてきたのは、インフォーマルなやり取りをどうオンラインで補完するかが問題となっている現状だ。

(取材・高橋祐貴)

 

ハイブリッド授業、キャンパスのインフラが障壁に

 

 東大の情報基盤センターと共に「オンライン授業・Web会議ポータルサイト@東京大学(以下、ポータルサイト)」を立ち上げた、大総の栗田佳代子准教授と吉田塁特任講師は、オンライン授業の優位性を強調する。特にしばらくCOVID-19の流行が続く見通しの現在、対面でできることは限られる。吉田特任講師は少し前にとある企業の対面研修の講師を務めた経験を振り返り「ソーシャルディスタンシングを保ったままのグループワークは難しい。話せない対面授業の価値を再検討する必要がある」と語る。現状ではオンライン授業の方が双方向性を確保しやすいという。

 

 COVID-19収束後にも期待される選択肢として、オンラインと対面それぞれの良さを組み合わせたハイブリッド授業が挙げられるが「オンライン・対面授業双方を受けるためにはキャンパスのインフラを整備しなければならない」と栗田准教授は懸念する。まず、キャンパス内の全ての建物でWi-Fiに接続できるわけではないため、通信環境を整えなくてはならない。

 

 より大きな問題は学習スペースの不足だ。キャンパス内に多数の学生が同時に別のオンライン授業を受けられるような空間がないため、対面授業を受けに来た学生は通学時間を気にしてオンライン授業の履修を組むことになる。従って、ハイブリッド授業実現のためには例えば全学で曜日ごとに授業の実施方式を決めるなど時間割の調整が必要となる可能性もあるという。

 

 差し当たっての目標はすでに実施が見込まれているAセメスターのオンライン授業だが、今後どうオンライン授業を改善していくべきか。4月以降、ウェブ上で行ってきたオンライン授業情報交換会などで、各部局の一部の教員から良い実践の例がいくつか挙げられているが「今は主に大総側からの情報提供になっていますが、グッドプラクティスの収集はこれからやりたいというところですね」と吉田特任講師。各部局の教員の取り組みを互いに紹介し合う場を設けたいが、今のところリソース不足もありきちんと実現できていない。

 

 これまで集まった知見は全てポータルサイトに集約されており、例えばZoomのブレイクアウトセッションで声による指示出しができない問題を、Google Meetに多重ログインすることで擬似的に実現する方法などは「素晴らしい活用方法だと感動した」(吉田特任講師)という。

 

ゼミ授業はむしろオンラインですべき? オンライン授業の強み

 

 講義・ゼミ・実験実習それぞれの授業について、オンラインで行うにはどのような工夫が必要なのか。講義型の授業については「教員側から質問をして投票をしてもらう、途中でブレイクアウトルームを作って学生に議論をしてもらうといった取り組みができるようになれば一段良い授業になるのではなはいか」と吉田特任講師は話す。

 

 本紙実施のアンケートでCOVID-19収束後もオンライン化の継続を希望する学生が約1割に留まったゼミ授業についても「基本的なことはオンラインで代替できてしまう」と吉田特任講師。オンライン授業は対面授業よりも個々人の考えを共有するのに向いている。発言の記録を残せる上、「MURAL」(オンラインホワイトボード)などのツールを使えば画面上で考えを容易に共有でき、ゼミ授業との親和性も高い。いわば全員が最前列に座るのと同じ環境となるため、学生のコミット度合いはむしろ上がるともいえる。

 

 Sセメスターに双方向的な授業を受け持った栗田准教授も「これはどうしても対面じゃないとできない、という要素はほとんどなかったと感じた」と漏らす。大学院生および教職員向けに大学での教授法を教える東京大学フューチャーファカルティプログラム(FFP)では、模擬授業やポスターツアーといった取り組みもオンラインで問題なく行えたという。

 

 学生から対面での再開を要望する声が上がる理系の実験実習については、「器具の操作の学習などは確かに対面でないと難しい」(吉田特任講師)という。海外で仮想現実(VR)を用いて擬似的に実験操作を学ばせる事例もないわけではないが、東大で全学的に実施しようとするとVR機器をどう該当学生全員分用意するかという問題があるため、あまり現実的ではない。

 

 一方、実験で得られるデータを分析することに主眼を置く授業であれば、教員やティーチングアシスタントが行った実験のデータを学生に配布し、分析のレポートを提出してもらう形で学習効果を見込める授業がオンラインでもできる。「実験で何を学んでもらいたいかという目標によりますね。論理的な思考や仮説検証のプロセスを学んでもらいたいのであれば実験の動画配信などで代替も可能です」と栗田准教授は話す。

 

東大のオンライン授業の今後は? まずはSセメスターの評価を

 

 逆にオンライン授業の弱みは、対面なら起きるはずの雑談など、非公式な交流が難しく、コミュニティー化が困難な点にある。Sセメスターに授業を受け持った栗田准教授も「明確な質疑応答以外のやりとりがない分オンライン授業では教員と受講生との間に距離を感じたし、受講生相互が授業後に自然な流れで会話することが難しい」と語る。対策としては学習管理システム(ITC-LMS)などの掲示板活用や「ゆるい」コミュニケーションを目的とした場の設定が考えられる。授業のオンライン化を継続する場合、いかに雑談ができ仲が深まる空間をオンラインで生み出すかも課題の一つだといえそうだ。

 

 今後の東大のオンライン授業を改善していくに当たって、まず必要なのは関係者による評価だ。大総や情報基盤センターなどからなる「オンライン授業検討会」では学生や教員に対するアンケートを実施し、Sセメスターの取り組みを検証するという。例年、授業評価アンケートは部局ごとに行っており、今回も個別の授業の評価アンケートは部局ごとに実施されたが、総合的にオンライン授業の評価を聞くアンケートは全学共通のものが実施される。これらの調査を通じ「残すべきものを残し、改善すべきものを改善していきたい」と吉田特任講師。

 

 栗田准教授によると、COVID-19収束後も以前の状態に戻ることは考えにくいため「今回の調査の結果は恒常的な東大の教育設計に活かしていけると良いと思います」。栗田准教授の認識では、日本の大学教育のオンライン化はかなり遅れている。「COVID-19は確かに深刻な問題ですが、大学としてもこれを機に教育を大きく前に進めるような捉え方をしていきたいですね」

 

 

※次回は全面的なオンライン授業で有名なミネルバ大学などの米国大の事例を通じて、オンライン授業の改善策を模索します。

 

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