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2020年8月8日

回答者の7割「満足」も下級生は不満あり 【検証:東大のオンライン授業①】

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で授業が初めて全面オンラインに移行したSセメスターが終わりを迎えた。今後もオンライン授業が続くことが予測される今、どのようにオンライン授業を改善していくべきか。本連載では、今学期の授業への評価や専門家の意見、米国大の事例などを基に、その方法を探っていく。

 

 初回の今回は、学生を対象に行った緊急アンケートの結果を基に、東大生が今学期の授業をどう評価したのかを分析。アンケートを通して見えてきたのは、7割近くの学生がオンライン授業に満足している現状だった。

 

(構成・高橋祐貴)

 

学年間で満足度に差

 

3〜4がつの東大による授業のオンライン化に対する評価

 

 アンケート調査では、東大による授業のオンライン化対応を評価する声が目立つ。「3〜4月の東大による授業のオンライン化対応をどのように評価しますか」という質問に対しては、48.8%が「非常に評価する」、45.6%が「まあ評価する」と答え、「あまり評価しない」「全く評価しない」と答えた人は合計5.6%にとどまった(図1)。評価する理由としては「他大学に比べて素早い対応だった(法・3年)」など対応の早さを称賛する声が多数見られる。

 

オンライン授業への満足度

 

 オンライン授業への満足度を聞く質問には、回答者の20.0%が「とても満足している」、49.6%が「まあ満足している」と回答(図2)。学年別では、学部1、2年で「とても満足している」「まあ満足している」の合計がそれぞれ5割弱、6割弱にとどまったのに対し、学部3、4年はどちらも8割を超えた(図3)。学年が低いほどオンライン授業への満足度が低いことがうかがえる。

 

学年別オンライン授業への満足度

 

 特にキャンパスでの大学生活を体験できていない新入生からは、対面授業を切望する声が。「毎日部屋で一人で授業を聞いて課題をやるということが大学生活の全てであって良いわけがない(文Ⅲ・1年)」「友達と呼べるような人も新しくできません。一部の授業でも良いので駒場に通いたいです。浪人期と同じ、下手したらそれ以上につらいです(文Ⅰ・1年)」など、現状への不満は大きい。

 

 一方上級生からは「講義は全面的にオンラインの方が良い。対面は実習のみで充分(医・3年)」や「可能であるなら対面である必要のない科目は全てオンライン化をポストコロナ社会でも継続してほしい(文・4年)」など、オンライン授業を積極的に評価する声が上がる。中には社会人大学院生からの「勤め先より学期途中からの地方赴任を命じられましたが、オンライン授業であるからこそ距離や時間に囚われず学びを継続することができました(法学政治学・修士1年)」という声も。

 

 COVID-19収束後も継続してほしいオンライン授業の形態を聞く質問では、全体の66.4%が講義授業のオンデマンドオンライン化を、48.4%が講義授業のリアルタイムオンライン化を希望。講義のオンライン化支持が目立った。「双方向的な性格に乏しい講義は、オンデマンドで配信していただければ、加速して短時間で受講を終わらせられるし、その方がむしろ冗長であるよりも集中できるので、ぜひオンデマンド化の推進を検討していただきたい(文Ⅰ・1年)」など、講義のオンライン化は一部の下級生にも支持されている。一方、ゼミ授業のリアルタイムオンライン化と実験・実習授業の一部オンライン化の支持はそれぞれ12.8%、12.4%と、およそ1割にとどまった。

 

対面授業と比較した際のオンライン授業の特徴

 

 対面授業と比べた際のオンライン授業の特徴について項目を提示し尋ねる質問では「オンライン授業では対面授業より質問がしやすい」という項目に同意する学生が65.6%を占めた。一方「オンライン授業は対面授業より疲れる」という項目では「当てはまらない」と答えた学生が52.0%と過半数を占め「当てはまる」の34.0%を上回った(図4)

 

授業がオンライン化したことによる行動の変化

 

 授業がオンライン化したことにより行動がどう変化したかを選択肢を示して問う質問では、49.6%の学生が「授業中の内職が増えた」と回答。「勉強に費やす時間が増えた」を選択した人も回答者の35.6%に上った(図5)

 

試験の改善求める声多数 大学は学生と協働を

 

 来学期以降もオンライン授業を継続する場合、改善を希望する声が多数寄せられたのが試験方法だ。「ウェブカメラの設置やガイドラインの読み込みなど、学習以外の準備に時間と手間がかかりすぎる(文Ⅲ・2年)」「カメラをオンにしたからといって、対面と同じ条件で試験ができるわけがないし、プライバシーの侵害になるので、レポート対応なり、持ち込み可能試験にするなど、工夫して欲しい(工・3年)」など、試験方法の見直しを求める声は根強い。

 

 「座学はオンラインでもやむを得ないかと思いますが、実習はやはり手を動かさないと身につかないことも多いので対面にしていただくことを強く希望します(薬・3年)」など、実験や実習に関して対面での再開を求める意見も多い。一方で7月13日に1週間後からの対面実験再開を通知した理学部物理学科の対応には、学科生から帰省中の学生や期末とバッティングすることでの課題負担への配慮が足りないと反対の声が多数挙がる。「学生側の意見をもっと聞いてほしい(理・3年)」との言葉通り、未曽有の事態に学生と協働する姿勢が大学側に求められている。

 

※次回は当時授業のオンライン化対応の中心を担った教員の話から、東大の対応を検証します。

 

 

 本アンケートは、7月15~19日にインターネット上で実施。東大生のみが所属するクローズドなSNSのグループなどで協力を呼び掛け、学部1年から修士1年まで合計250件の回答を得た。回答者の属性は以下の通り。

学年:学部1年=46人、学部2年=49人、学部3年=105人、学部4年=46人、修士1年=3人、その他=1人

学部・研究科:理科Ⅰ類=20人、理科Ⅱ類=9人、理科Ⅲ類=3人、文科Ⅰ類=23人、文科Ⅱ類=6人、文科Ⅲ類=37人、法学部=16人、医学部=29人、工学部=26人、文学部=14人、理学部=24人、経済学部=9人、薬学部=15人、教育学部=3人、教養学部=9人、農学部=3人、法学政治学研究科=1人、教育学研究科=1人、総合文化研究科=1人、農学生命科学研究科=1人

 

【連載 検証:オンライン授業】
  1. 回答者の7割「満足」も下級生は不満あり <- 本記事
  2. 「走りながら考えた」 中心教員が振り返る初期対応
  3. 弱みは雑談のみ? オンライン授業の改善策は
  4. 問題は日米共通? ミネルバ大から得られるヒントは

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