COLUMN 2019年12月29日

【福島訪問記】③処理水と人の心

 この記事は、工学部システム創成学科E&Eコースに通う三上晃良さん(工・3年)が事故から8年が経った福島第一原発・原発がある福島県双葉郡浪江町を訪れた際に見た現地の状況を伝えてもらう連載の第3回です。

(寄稿=システム創成学科E&Eコース 3年 三上晃良)


 第2回の記事で触れた燃料デブリは、東京電力の中長期ロードマップによると、2021年から取り出しが開始される。燃料取り出し完了には、それから数十年の年月が必要になるという。その燃料デブリが存在する原子炉建屋には、地下水が流入し、汚染水が現在も発生し続け、その浄化処理をした処理水の増加が問題になっている。この汚染水・処理水の現状、社会との関わりについて見ていく。

 

 福島第一原子力発電所内には、汚染水を保存するための大型のタンクが乱立していた。(写真1)なぜタンクは増え続けているのだろうか。原子炉建屋に流入する地下水は様々な策、主に凍土壁や流入前の地下水の汲み上げなどにより、流入量が2015年に平均500t/日から2018年には、170t/日まで大幅に減少しているが、それでも1日170t/日、汚染水は発生している。(写真2)汚染水は、ALPSという大半の放射性物質を除去できる施設によって浄化される。この水は一般に処理水と呼ばれる。完全に浄化されていれば、何も問題なく、海に放出できるが、トリチウムは除去しきれないため、処理水は陸上で保管される。一つのタンクの容量は約1000tであるので、処理水保管のために、現在でも6日に1つ、つまり年間で大型タンクが60個ほど増設されている。

 

(写真1)福島第一原発内の処理水保管用タンク
撮影日 2019年8月5日
(写真2)地下水の流入量の低下を示すグラフ(経済産業省 資源エネルギー庁のホームページより)

 

 そもそもトリチウムとはなんだろうか。多くの人は聞き馴染みがないのではないのだろうか。元素オタクだった私も初めてトリチウムという言葉を耳にした時、元素周期表を探してもどこにも存在しないので、大変混乱した。理系の方はご存知だろうが、実はトリチウムは水素だ。放射性物質であるという点が異なっているだけなのだ。なぜトリチウムだけは、放射性セシウムの様に、放射性水素と呼ばれないのだろうか。このことが社会的な混乱の一因になっていると思う。

 

 トリチウムは、水素と似たような性質を持つために、水を構成する放射性でない水素との分離が極めて難しい。トリチウム自体は、現在の技術では、経済合理的に取り除けないとされている。そのため、他の放射性物質は取り除くことができても、トリチウムだけは溜まり続けている。

 

 「トリチウムは、日本のどの原子力発電所でも発生していて、基準値を下回れば環境中に放出できるんですけどね」。東京電力職員はボヤいた。そう、実はトリチウムはどの原発でも微量に発生してしまう。そのため、基準値以下のトリチウムを含む水が排出されている。福島第一原発でも、現在の方針では、国が定める基準値以下になるようにトリチウムを含む処理水を薄めて、海に放出することになっている。確かに基準値以下であれば問題はない。ただし、それならば風評被害対策に全力を投じ無ければならない。

 

凍土壁作成装置
撮影日 2019年8月5日

 

 先日、本郷キャンパスで開かれた「未来の原子力技術」というシンポジウムで、福島第一原発の立地自治体、大熊町商工会議所の蜂巣賀さんが、放射性物質について語っていた。「地域住民は、放射性物質について事故前は何も知らなかった」。蜂須賀さんは、「最強の素人」と呼ばれ、原子力の問題に積極的にお話をされている方であるが、事故前までは、「花屋の母ちゃん」だったそうで、あくまで一般人の目線で話をされる。これまでに、数々の福島第一原子力発電所事故関連の勉強をしてきているはずだが、いまだに個人的な意見では、目に見えない放射性物質については怖いと思うらしい。特に「ベクレル」や「シーベルト」はとても分かり辛いと語っていた。

 

 この話を聞いて、ハッとした。当事者として関わってきてもなお不安に思うのならば、やはり、日本全体ではトリチウムを含む放射性物質の風評被害の影響は避けられないかもしれない。放射線は目に見えず、行政の基準値も何を根拠として作られているのか分かり辛い。「わからないこと」から生まれる「不安」、これが大きな障壁になっている。私も、2013年頃から話題になり始めたマダニが媒介する重症熱性血小板現象症候群(SFTS)の情報が足りなく、当時マダニが生息するという野山に入ることをとても躊躇った記憶がある。

 

 廃炉資料館から富岡町までの帰り道、若手の東電社員の方が私たちを車で送ってくださった。聞くと彼は原発事故当時、建屋内で働いていたらしい。事故当時のことを、彼は何も嫌な顔をせずに「いい経験になりました。」と語った。彼は、放射性物質の知識をかなり蓄えているからそういう発言ができるのかもしれない。最近、放射性物質の知識に関する報道はほとんどない。トリチウムを含んだ処理水に対処できない以上、デブリの取り出しなどの計画にも支障をきたすと東京電力は、語っている。海洋放出が経済的、技術的に1番の合理的な政策ならば、東京電力は、トリチウムのことについて、教育界、マスコミだけでなく、SNS、YouTuber等を巻き込んで、今以上に全国的に議論を進めていくべきではないだろうか。

 

 この辺りで、いったん福島原子力発電所内の話は、終わりにする。丁寧に説明してくださった、東電の社員の方に感謝はしている。私に説明をしてくださった方は信用できると思った。どんな質問をしても、的確に答え、回答に困る時には、横に置いてある分厚い冊子を持ち出して、真摯に答えてくださった。ただ、東電の職員の方から頂く情報は、理路整然としていた。いや、整然とし過ぎていたとも言える。私が見たものは、東電の社員の方が見せたいものだったかもしれない。

 

【連載 福島訪問記】

【福島訪問記】①福島第一原発事故後の現状〜廃炉と町の復興〜

【福島訪問記】②8年越しの福島〜福島の現在と原発の未来〜

【福島訪問記】③処理水と人の心

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