COLUMN 2019年12月20日

【福島訪問記】②8年越しの福島〜福島の現在と原発の未来〜

 この記事は、工学部システム創成学科E&Eコースに通う三上晃良さん(工・3年)が事故から8年が経った福島第一原発・原発がある福島県双葉郡浪江町を訪れた際に見た現地の状況を伝えてもらう連載の第2回です。

(寄稿=システム創成学科E&Eコース 3年 三上晃良)


困難と希望

 

 第1回の記事では、事故現場の状況は大きく改善されていることを伝えた。一方で、8年たった今も、原子炉内の溶け落ちた燃料は1粒も取り出されていないなど、課題は山積している。原発内では、普通の作業でさえ、一手間二手間もかけないといけないという状況が、作業を更に難しくしている。例えば、敷地内に廃炉のための新規設備を作るために、伐採された木材。敷地内にある木材は多量の放射性物質を含んでいるため、専用の焼却装置等を自前で用意し、更にその焼却灰も放射性物質として管理する必要があると言う。なるほど、世間一般の常識が原発敷地内では通じない。

 

 そう言えば、これからの話では、放射性物質に関する話題が多く出てくる予定である。少々専門的な話になるが、「放射性物質」に関する言葉の確認をしたい。科学的には、「放射線」とは「高エネルギーの電磁波や粒子の流れ」のことで、「放射性物質」とは、「放射線を放出する物質」である。「放射能」は科学者の間では、「放射性物質がどれくらい、たくさん放射線を放出しているか」を表す量として使われている。この三つの言葉の関係は、「ライト」が「放射性物質」で、「光」が「放射線」、「光の強さ」が「放射能」にあたると考えるとわかりやすいかもしれない。原爆の漫画として有名な「はだしのゲン」やマスメディア等では、「放射能」は「放射性物質」の意味でも使われているが、これは科学の世界では間違い。工学部生として、この記事の中では厳密に言葉を使い分ける。

 

 原発内に話を戻そう。廃炉作業中の原子炉建屋を間近で見ていてふと気づいた。1-4号機まである原子炉建屋の見た目が一つひとつ違う。1号機は、水素爆発が起こった直後かのように、鉄骨の骨組みが剥き出しの状態にもかかわらず(写真1)、2号機の外壁は、何も起こらなかったかのように綺麗だ(写真2)。3号機の上部には、円柱の出っ張りがついている(写真3)。廃炉資料館の展示によると、原子炉建屋の現在の状況が個々で違う。そのため廃炉に対して別々のアプローチを取る必要があり、建屋の外見も大きく異なっているというのだ。例えば、1-4号機のうち2号機は水素爆発をしなかった、3号機は、原子炉建屋内の水位が高い、4号機は事故当時運転してなかったなどの違いがある。

 

(写真1)福島第一原発1号機の現在の様子
撮影日 2019年8月4日
(写真2)福島第一原発2号機の現在の様子
撮影日 2019年8月4日
(写真3)福島第一原発3号機の現在の様子
撮影日 2019年8月4日

 

 一つの原子炉建屋を廃炉にするだけでも困難であるが、その対象が四つも存在し、しかも別々の対応をせざるを得ないという現状に、やるせない気持ちを感じた。事故当時運転をしていなかった4号機を除く1-3号機内では、原子炉内に、事故時に溶け落ちた核燃料が、デブリ(溶けた燃料とコンクリート等が混ざって固まったもの)として堆積している。実はこのデブリを建屋内から取り出す作業が、廃炉に関して最も重要にして、最難関の作業、いわばゲームのラスボスだ。デブリ周辺では、放射線量が高く、最高で70sv/h(人間が数分で死に至るレベル)を計測されたこともあり、人が炉内に入ることはもちろん、ロボットでさえも即座に故障をしてしまう。その結果、事故後の7年程で、デブリに対して直接行えたことといえば、炉内の状況を確認することだけであった。東京電力によれば、今年に入って燃料デブリを持ち上げる試験には成功した。しかし、依然デブリの取り出しには至っていない。そのせいか、東京電力職員からは、デブリの取り出しに関しては多くは聞けなかった。

 

 このような、困難な敵にはどう立ち向かえば良いのか。特にカメラなどの精密機器は、放射線の影響を受け、炉内の強烈な放射線で壊れやすい。このような経緯から放射線に強い材料等の選定など、腰を据えて新技術を開発する必要がある。そのため、福島第一原子力発電所の近くでは、廃炉ロボットの技術開発関連施設が建設されている。

 

 これらのロボット研究開発施設、そして他の廃炉関連の産業施設が福島県の沿岸部には集積する傾向がある。そのため、福島第一原発周辺には、福島イノベーション・コースト構想(写真4)というものがあると、廃炉資料館で知った。県、県民としては複雑な気持ちではあるだろうが、最新技術の集積地になり、復興や地域の経済活性につながる可能性がある。更に言えば、他国には、これ程の困難な放射線環境は存在しない。世界エネルギー機関(IEA)によれば、この先25年間で、世界全体にある約200基の原子炉が閉鎖される予定で、廃炉ビジネスの魅力度は高まっている。例えば、ロシアの原子力メーカー、ロスアトムが福島第一原発の廃炉作業に参加した理由も、この極限環境に対処する技術を習得したいからだろう。世界との廃炉の流れとも絡んで、この誰が見ても困難な状況が、希望の光になるかもしれない。

 

福島イノベーション・コースト構想(ふくしま復興ステーションのウェブページより引用)

 

 元米原子力規制委員会の専門家は、「福島第一原発の廃炉の問題は、月に行くぐらいは難しい」と語っている。月面着陸は、当時の科学技術を総動員してやっと、アメリカ合衆国のみが達成した事業だ。廃炉の事業が相当な努力が必要な分野であることがわかる。あるいはこうも言えるかもしれない。福島第一原発の廃炉は、月に行くぐらい、未知なる物に遭遇できる分野なのかもしれない。私たち若い世代が好奇心を持って、困難な廃炉という作業に挑戦してもよいのではないだろうか。

 

【連載 福島訪問記】

【福島訪問記】①福島第一原発事故後の現状〜廃炉と町の復興〜

【福島訪問記】②8年越しの福島〜福島の現在と原発の未来〜

【福島訪問記】③処理水と人の心

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