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2022年12月8日

【東大と電力②】電力不足に向け、東大が行うべき「節電」とは?

 

 今後も続くと考えられる電力価格高騰は大学研究にどのような影響を及ぼすだろうか。本企画では東大における電力不足の現状を調査するとともに、冬場の電力危機に向けて東大ができることについて考える。第二回では、東日本大震災後に東大の節電対策を担当した江崎浩教授(情報理工学系研究科)とともに当時の電力危機の教訓を振り返った。(取材・伊藤凜花)

 

前回の記事はこちら:東大の電力事情① 迫る冬の電力不足 東大の現状は

 

震災後は「見える化」と「クラウド化」

 

 東日本大震災後、福島第一原子力発電所を含む原子力発電所の停止や発電所の設備被害により電力供給が不足し、大規模な電力危機が発生した。東大はどのような節電対策を行い危機を乗り越えたのだろうか。当時、電力危機対策チームの一員として節電対策を主導したのが江崎浩教授(東大大学院情報理工学系研究科)だ。

 

 情報ネットワークに関する研究を行う江崎教授は、東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)の代表として震災以前からITを利用した省エネルギーな施設インフラの開発を行っていた。2008年には実証実験として、工学部2号館の照明や空調をインターネットと接続し、オンオフを自動でコントロールしたり使用状況をモニタリングしたりできるよう「スマート化」した。震災による電力危機を受け、これを東大全体で実現しようと江崎教授に声が掛かったという。

 

 節電対策を検討するにあたり「研究や教育のパフォーマンスを下げないことを最重要とする方針を立てました。研究以外の部分でいかに節電するかを工夫しましたね」と話す。「夏のピーク時の電力使用量前年比の30%減」という目標を達成すべく、東大は主に二つの節電対策を行った。

 

 一つ目は全学での電力使用状況の「見える化」だ。インターネットを通じて各建物の照明や空調の電力使用量データを統合するシステムを構築し、電力がどのキャンパスでどれだけ使われているか、東大のホームページなどでいつでも誰でも確認できるようになった(図1)。さらに学生や教職員は、学内ポータルサイトから建物ごとの詳細な情報も見られるようになった。自分たちの電力使用状況を見て、各自で節電対策を見直すことが期待された。

 

(図1)現在もウェブサイトでキャンパス別の電力使用状況を見ることができる。学生・教職員は学内サイトから建物ごとの使用状況も確認できる

 

 二つ目はクラウドコンピューティングの利用だ(図2)。研究においてデータ解析やシミュレーションなどに使われるサーバーをインターネット経由で利用できるようにすることで、サーバーが集約化され節電になる。放熱するサーバーが不要になることで研究室の冷房効率が上がり、空間も広くなる。江崎教授は震災直後、自身の研究室のコンピューターのクラウド化を行い、約75%もの節電効果を得たという。

 

(図2)クラウドコンピューティングを利用した研究用サーバーの集約化

 

 しかし、いきなりクラウド化を行うのは難しいため、他にもいくつか選択肢を提示していたという。例えばコンピューターの電力効率は日々向上しているため、サーバーを新品に替えると大幅な節電になる。サーバーを情報基盤センターのサーバールームに移設することで部屋の冷房効率を上げられる。それも難しい場合は、100円均一ショップで手に入るビニールやテープを使って空間の構成を工夫するだけでも、空調による消費電力を抑えられるという。

 

 他にも、研究時間を夕方にシフトし冷房による消費電力を抑えるなどの対策が行われた。東大病院では、冷房に必要な冷水の生成を夜間に行い、昼間は中止することで大きな節電効果を得た。

 

 これらの節電対策の結果、平均で約20%、ピーク時で約30%の節電を達成した。「省エネルギーの実現は地球温暖化防止のためにも全学のコンセンサスであり、協力してもらうことができました」

 

震災での経験を国全体に活かす

 

 ウクライナ侵攻などにより、再び電力危機が叫ばれている。江崎教授は「光熱費の負担が増えているのは事実で、何とかしなければ今後研究費を圧迫し得るというのはみんなかなり気にしている」と語る。大学としては現状大きな問題はないものの、国全体では既に重大な影響を受けているといえるだろう。

 

 今後考えられる危機として、電力価格高騰よりもエネルギー輸出国によるエネルギー供給の停止を注視しているという。「今回のウクライナ侵攻で、ロシアがEUへのガスの供給を停止し、大きな混乱が生じました。エネルギーは経済活動の生命線で、安定した供給の確保は不可欠です。このことを世界中が認識し考えるようになったのが2022年です」。これを契機に、今後エネルギーのグローバルサプライチェーンが大きく変容すると話す。

 

 では日本、そして東大はどのような行動を取るべきだろうか。江崎教授は「東日本大震災時のように、各研究者に節電をお願いするのは正しい政策ではない」と語る。「国として、安くて安定したエネルギーを提供できる産業を作り対応するべきです」

 

 その上で、災害などの危機が起こったときのシステムも整える必要があるという。「震災時の東大のような、電力危機が起きたときに節電できるシステムがある事業者に対して電力価格を下げるような取引(相対取引)があります」。国の公共政策として相対取引を行うためには、要請に応じて節電する技術が必要だ。例えば太陽光などの再生可能エネルギーで発電し余った電気を、捨てずに蓄電するためのバッテリーやシステムの開発。実際に、効率の良いバッテリーを作るため半導体研究に予算が多く割かれているという。

 

 工学部2号館では照明や空調のコントロールが行われているが、社会インフラに対してもインターネットを利用したコントロールを適用する計画がある。例えばAmazonやGoogleでは、コンピューターの集積するデータセンターをインターネット経由でコントロールする取り組みが始まっているという。必要な情報を受信しながら効率的に車を動かす自動運転や、インターネットを利用してドライバーと相乗り希望者をマッチングするライドシェアリングによってもエネルギー消費を抑えられる。「社会インフラをオンラインでコントロールする場合、サイバーセキュリティも重要です。攻撃されないためのセキュリティシステム開発にも取り組んでいます」。このような計画は政府の提唱するSociety5.0にも盛り込まれている。

 

 東大におけるクラウドコンピューティングの利用や照明、空調のコントロールなどは、震災直後と比較すれば増えたものの、まだ導入していない組織も多い。全学で行うためにはコンセンサスが必要であり、大学の運用にも関わる。現状に対して「実際に危機が起こればみんな対策しますが、それまでは『うちは絶対大丈夫だ』と考えて対策しません。それをうまく規制して促進するのが政策です」と話す。例えば、単発で与えられる科学研究費補助金は、継続的な費用が必要なクラウドコンピューティングには不適だ。研究予算の形式を見直すことで、さらなる普及を目指せるという。

 

 予想される電力危機に向け東大は、東日本大震災での経験を生かし、国全体のエネルギー政策を考えていく必要がある。江崎教授は「東大は国のために考え、チャレンジする責任があります」と語った。

 

 

江崎浩(えさき・ひろし)教授(東京大学大学院情報理工学系研究科) 98年論文博士(東京大学)。博士(工学)。東大大型計算機センター助教授(当時)などを経て現職。

 

 

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