INTERVIEW / OBOG 2015年2月8日

大学演劇を超えて -劇団を主宰するとは- 【後編】

対談は、 大学演劇を超えて -劇団を主宰するとは- 【前編】より続きます。

演劇人生に立ちはだかる、30歳の壁

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「カムヰヤッセン」代表 北川さん(左)、「ミームの心臓」代表 酒井さん(右)

―小劇場で「食っていく」のは難しいのでしょうか?

酒井:
劇団って、”仕事”って意識でやっている人が少ないと思います。

北川:

劇団員が劇団に所属するというのは、会社や事務所のような「ここ以外での活動を禁じる」というような契約ではないけれど、「この人じゃないといけないという意識をお互いに共有する」契約だと思う。けれど、こういう信頼性をずっと保ち続けるのは本当に難しい。僕が今狙っているのは、「この人達がいるからこそ楽しい」という場を作ること。

僕はいつも劇団員に対して「彼らでなくちゃだめ」と思っているけれど、時々「他にもいい役者がいるのでは?」と考えることがあるのも事実。劇団の活動が上り調子の時はいいけれど、うまくいかない時は劇団員全員にとって本当に厳しい時間だと思う。

酒井:
演劇をやっている人って、30歳くらいで疲れてくる人が多い気がしています。若くても、20年も生きていたら、作品にして世界に伝えたいと思うことは幾つも出てきますよね。自分が「こういう作品を作りたい」と考えた時にそれについてきてくれる人がいて、作品を作ることが出来て、お客さんも見に来てくれて…、という時はいいけれど、その勢いがなくなって、公演の客入りも1000人くらいで頭打ちになって…みたいなことになっている人が小劇場に多い。けれど、それで消費されちゃう演劇人になりたくない。

北川:
今活動をしていても、「話題に上がらなくなるのではないか」とか、「お客さんが入らなくなるのではないか」とか、「活動ができなくなるのではないか」といった不安は僕にも常にある。君が今一度活動を「やめる」というのは本当に勇気ある決断だと思います。社会で働くというのは、「消費される」波を受入れることだよね。でも、はっきり言ってしまうと、消費されることに甘んじるとどんどんつまらなくなるよね。

酒井:
でも、それで終わったらその程度なのだろうな、と思います。
実は、2月に打つ『東の地で』は僕にとって1年半ぶりの舞台です。1年半の間ずっと、作品を作ることをやめていて。創作活動を再開するきっかけになったのは、就職活動でした。若松英輔さんという批評家の方に「一生書いて生きていきたいのなら働いたほうがいい」とアドバイスをいただき、何故かと聞いたら「働いてみないと働く意味なんて分からないよ」と、禅問答のような答えを返されてしまいました。

僕は作品を書く時に、どうしても自分語りがでてきてしまう。ただそれを抜け切らないと、ちゃんとお客さんの人に届かないのかな、と思っていて。自分の殻に閉じこもって「これが自分ですよ」とアピールするのではなく、ある意味自分を無私の存在にして、 今後作品を創っていけるようになるために、企業の中で働いてみようと思いました。

北川:
じゃあ、「ミームの心臓」のこれからの展望は?

酒井:
最終的にはまた創作活動に戻りたいと思っています。

小劇場は、機能不全を起こしている

酒井:
北川さんは、今まで演劇一本で続けてきたのですよね。

北川:
僕は一応、今演劇活動で「食べて」います。でも、実際問題、小劇場で上演するだけでは東京じゃ生きていけない。お金があるって幸せだなあ、とは思います。僕にはボーナスがなくて、企業に就職していった友だちにはボーナスがあって、そのボーナスで車を買う彼のことを羨ましいと思っちゃうのは、事実。

正直言って、小劇場は飯が食えるか食えるかのギリギリラインですね。僕は細々した書き仕事をしながら、劇場で稼ぐ以上のお給料をもらっています。僕は劇場では芸術監督という役職をもらっていますが、多い時でも、たまにちょっといい食事ができるくらいの額ですね。

酒井:
やっぱり、小劇場だけで生きていくのは難しいのでしょうか。

北川:
小劇場は機能不全を起こしていると思います。劇団の多くの人たちは30歳くらいで息切れして、演劇をやめてしまう。いつまで「演劇」という形の芸術や娯楽は存続することが出来るのだろう、とすごく考えてしまう。これからの10年、20年の間に”小劇場”の形は変わっていってしまうと思う。どんどんお客さんが減ってしまうような気もしています。

けれどそれと同時に、小劇場は形や生き方を変えることで続いていくのではないかな、とも思っています。例えば、落語だって小屋は減ったけれど営業やスタイルを時代に合わせて変えることで今でも続いている。自分で劇団を主宰して演劇を続けていくことは確かに厳しいことかもしれないけれど。小劇場というシステムにはイノベーションが必要だと考えています。それをどうやって違う形にしていくかが僕らの世代の課題じゃないかな。

僕は、自分の劇団の生存戦略として、公的なお金をもらって作れるような劇団になろう、と考えました。そこでちょうど都内の公共団体からの助成金をもらえるようになって。

酒井:
演劇の助成金って、倍率は高くないのですか?僕は今まで助成金に応募したことはありませんが、どうしたら通るものなのでしょうか。

北川:
どうしたら助成金が通るかは、企業秘密です(笑)。助成金の申請は、自分の活動の意義やテーマなどを文章でアピールすることになります。「社会的意義とは、とか聞かれると、「うーん…」とか思ってしまうのですが。アート性がある、とか、社会問題にユニークな形で立直しているとか、アピールポイントがあることが重要なのかもしれませんね。ただ、助成金については、劇団の実績だけが重視されるわけではないので、演劇を本気でやりたい人は助成金について調べてみるといいのではないでしょうか。

演劇を続けるとは、多くの人の思いを引き受けること

―劇団を主宰しようと考えている人に一言お願いします。

酒井:
劇団を「立ち上げる」こと自体は簡単ですよ。劇団は任意団体だから、劇団の名前を考えて「いまから劇団作ります!」って宣言すれば誰にでも出来ます。けれどそれから名前を知られていって、認められるようになるにはそれなりの時間と努力が必要ですよね。

公演を打つというのは、俳優やスタッフといった多くの人の思いを背負っていくことでもあります。もちろん、応援してくれる人、劇場に足を運んでくれる人がいることでそれは成り立ちます。つまり劇団を立ち上げることで、多くの「関わり合い」が生じるわけです。その人と人との「関わり合い」の中で、あなたは何を届けたいのか、なぜ届けたいのか、本当にそうしなければならないのか、を問い続けること。それによって、よりよい劇団の形が、見えてくるはずと思います。「自分が何をしたいのか」ということを考えていないと、演劇をやっていても何も生まれてこない。頭でっかちになってはいけないけど、走りながら考え続けないと、と思います。

リルケの『若き詩人への手紙』という本の中に、「必然から生れる時に、芸術作品はよいのです」と書いてあって。僕は本当にその通りだと思っています。「この作品を作らないといけない」という必然性がないと、自己満足のものしか生まれないと思います。

北川:
なるほど。僕はちょっと違う意見かな。演劇をやりたい人には、「まず走れ」と言いたい。安牌を選ぶなら演劇にはまず来ないよね。僕が演劇を選ぶときには、さすがに「自分がそれを書かないと死ぬ」、という意識ではなかったけれど、どうにかしてたくさんの人に自分が考えていることや想いを届けたいと思ってここまで必死にやって来た。僕が今も演劇をやり続けているのは、演劇に大事なことがあると考えているから。僕が稽古場でよく言っているのは、「真ん中を射抜く能力」が大事だということです。

一個だけ、劇団をやるっていうことは、まあ大概の場合は自分が作家・演出家を兼ねる場合が多いだろうからその人達に何か伝えられることがあるとすれば、それは「真ん中を射抜く能力」が今後職能として最も求められる、ということ。

何が物事の本質なのかを見極める能力ですね。そして、その能力を最も鍛える事ができるのが僕は大学時代だと思っていて、自分の真ん中を、大事なことを考えるのはそのまま自分の将来について考えることに通じるのではないかと思います。大事なものが何かを考えて、それが演劇なら走ればいい。大事なものを大事にしていけば自ずと道は見えてくるのではないでしょうか。

酒井:
北川さんにとって演劇の中で大事なこととは何ですか?

北川:
人に「触る」ことができることかな。演劇を作っていく中で、絶望することは多いです。作品について説明しても分かってもらえなかったり、舞台をつまらないって言われたり…。

演劇をやるには、交渉能力だったり頭の良さだったりセンスだったりと色んな『力』が大事だと思います。演劇を作る上で自分1人じゃどうしようもないこともあるし。でも、そういった問題を越えて「人に作用する」ことができたら最高だな、と考えています。酒井君にとって演劇で大切なことって?

酒井:
「同じ空間を共有できること」です。「舞台をその場で見ている」という直接的なライブ性だけではなくて、時空をも超えて無意識に共有されるものが演劇にはあると思います。例えば、何百年もある劇場に、何人もの人が出入りして涙を流し笑ってきたことで生まれた同時性というか。

 一つの場所に色々な人の魂が集まって、そこで作品が上映されることによって、生まれる空間性がありますよね。演劇にはそうした「魂と魂のふれあい」があるのだと信じています。

(文責:後藤美波)

次回公演予定

カムヰヤッセン

城崎国際アートセンター アーティスト・イン・レジデンス2014製作/下北沢演劇祭参加作品
北川企画 その1

「午前五時、立岩展望台にて」

脚本・演出 北川大輔

2015年2月18日~22日 下北沢 小劇場 楽園にて

舞台監督 相内唯史(at will・大阪公演)/杣谷昌洋(東京公演)

照明 加藤直子(DASH COMPANY)

宣伝美術 大原渉平(劇団しようよ)

制作 秋津ねを(ねをぱぁく)

「午前五時、立岩展望台にて」公演URL

ミームの心臓

リバイバル公演

「東の地で」

2015年2月6日~2月10日 両国門天ホールにて

脚本・演出:酒井一途 音楽・ピアノ演奏:酒本信太

出演:有吉宣人 / 小林依通子 チェロ演奏:グレイ理沙 / 稲本有彩

「東の地で」公演URL

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