INTERVIEW / FEATURE 2017年2月8日

現役学生ラッパーに聞く 東大生こそヒップホップ

 「フリースタイル」や「サイファー」という言葉を聞いたことがある人も少なくないだろう。どちらもヒップホップの多彩な楽しみ方を示す言葉だ。ヒップホップ特集第2弾では、ヒップホップの歴史や楽しみ方、またその普及に尽力する学生の活動を紹介する。

(取材・日隈脩一郎)

 

乗せて、乗って

 

 音楽の一ジャンルとしてのヒップホップの起源については諸説あるものの、ひとまず1960年代にさかのぼることができる。誕生の地はニューヨークのブロンクス。元来アイルランド系の移民やユダヤ系の人々が比較的多かったこの地区では、60年代を境にヒスパニック系や黒人の人口比率が上昇していく。

 

 そうした背景の中で、若者が公民館や公園で移動式の音響機材を用いたパーティーを行うようになり、それに伴う一連の文化が形成された。そのためヒップホップと言った場合、ダンスやグラフィティ(建物の壁面などを使った装飾)をも含めることが一般的だ。

 

 その一角を占める音楽ジャンルとしてのヒップホップの二大特徴は、サンプリングと打ち込みにあるといわれる。和歌の技法の一つである本歌取りのように楽曲の一部を抽出し(サンプリング)、正確に再現できるようにあらかじめ専用の機器に入力しておく(打ち込み)。DJと呼ばれる人が機器を操作する様子を見たことのある人もいるだろう。ヒップホップと混同されがちなラップとは本来、ヒップホップに乗せて小節の最後で韻を踏んだり、メロディーを自在に変えたりすることによる歌唱法のことを指した。

 

 また、既製の楽曲を聞くだけではなく、時にBGMもない状況で自由にラップをするというのも、ヒップホップの特徴だろう。これがいわゆるフリースタイルと呼ばれるもので、複数人でフリースタイルラップを行えばサイファーと称される。日本でのサイファーには、新曲宣伝の場としての機能も期待されていたという。

 

 単にラップをし合うだけでなく、相手のリリック(歌詞)を批判する要素が加われば、それはフリースタイルバトルとなる。日本語ラップは今、このフリースタイルラップという側面から注目を浴びがちだが、それ以外にも豊かな魅力があることをぜひ知っておきたい。

 

『文化系のためのヒップホップ入門』 長谷川町蔵・大和田俊之著

ヒップホップの歴史などについて知りたい人にお薦め

アルテスパブリッシング、本体1800円(税別)

 

『ユリイカ』2016年6月号

日本語ラップ特集として、昨今のバトルブームやヒップホップの現在を紹介

青土社、本体1500円(税別)

 

「等身大の文化」

 

 「ストリートから東大に挑む」を標語にヒップホップ文化を伝える活動を行う傍ら、自身もyossi 2 the futureの名で大学生ラップ選手権に出場するなどの経歴を持つ鎌田頼人さん(理Ⅱ・1年)は、ヒップホップの内容を大きく二つに分けて語る。

 

 一つは特にニューヨークで生まれた草創期のUSヒップホップに特徴的なスタイルで、ヒップホップでビッグになることを宣言するような内容を主として持つもの。もう一つは自らの暗い過去、決して幸せとはいえない出自を包み隠さず、ありのままの自分を歌うスタイルで、鎌田さんはとりわけ後者に心を寄せる。

 

 鎌田さんは北海道の進学校出身。学校全体の学歴、成績至上志向が個人の評価に影響する学校社会に嫌悪感を覚えた。一方で、生まれ育った地元には性風俗で生活の資を得る母親を持つ友人が、自殺未遂に陥ったこともあった。しかしそれを巡っての周囲の大人たちへの相談は、ことごとくむげにされたという。そのため鎌田さんは「東大に入って見返してやろう」と考えた。そんな彼にとってはヒップホップこそが地元の友人たちと共有できる「等身大の文化」だったという。

 

 鎌田さんは、読者に聞いてほしい作品として、BAD HOPの『Life Style』とAnarchyの『Fate』を挙げる。前者はテレビ朝日で放送中の『フリースタイルダンジョン』に出演するT-Pablowさんが参加する楽曲で、ハードな環境の中でも地元のホーミー(仲間)達といる幸せを歌う。一方後者は、地元の友人をどこか思い出させる内容を持つ。とはいえ、ヒップホップは現状を無批判に認めるだけではなく、その現状を超克しようとする価値観を根底に持っている。鎌田さんをヒップホップに誘ったTHA BLUE HERBの楽曲などは社会の現状に対して強いメッセージ性を込めた作品が多い。

 

鎌田さん(左)。TEDxUTokyoなど、学内のイベントでも積極的にヒップホップカルチャーの普及に努める

 

偏見と戦い続ける

 

 巷間(こうかん)に流布する東大生は保守的だというイメージや、逆に東大生が自分とは違う人たちへの理解がないことへの反感を抱く鎌田さん。おととしにはイベントサークル「Vasquiat(バスキア)」を友人と立ち上げ、駒場祭でのラップバトルなどを企画し、ヒップホップを純粋に楽しんでもらうための活動を精力的に行う。

 

 17年度のSセメスターには、ヒップホップカルチャーを扱う自主ゼミの開講を予定している。音楽やダンスのジャンルとしてのヒップホップの歴史や言語的な構造を考察したり、「落書き」として違法とみなされるグラフィティが、行政により認められた事例を検討したりすることで、ストリートカルチャー全般への理解へと射程を広げる。

 

 昨年6月には改正風俗営業法(風営法)の施行でダンス営業の規制が緩和されたが、改正を目指す運動に対する風向きを見て、鎌田さんは行政や企業の責任者のストリートカルチャーに対する無理解や偏見が規制の背景にあるのではないかと感じたという。「将来制度設計に携わるような東大生に、ぜひ偏見をなくしてもらおうと思っています」と、開講への意気込みを語る。東大はストリート化し得るのか。鎌田さんの挑戦はまだ始まったばかりだ。

 

 

【関連記事】

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この記事は、2017年1月24日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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