INTERVIEW / OBOG 2019年4月4日

「日本のマンガ・アニメで世界の幸福を最大化する」株式会社ダブルエル代表取締役社長・保手濱彰人さん

 2019年度4月~7月の火曜日、経済学研究科で講義「ICTと産業」が開講される。第2回からは毎回、ICTにより産業にイノベーションを起こしている企業の経営層をゲストに招き、Q&A を中心とした少人数のゼミ形式での講義が行われる。第2回のゲスト講師として登壇予定なのが、株式会社ダブルエル代表取締役社長・保手濱彰人さんだ。

 

 「世界一になりたい」──夢物語のような言葉を、現実味を帯びた目標として語る保手濱さんは、多くの起業家を輩出してきた東大起業サークルTNKの創設者でもある。2014年からは株式会社ダブルエルの代表取締役社長を務め、世界に向けて日本のマンガ・アニメを発信している。500人を超える著名マンガ家とのネットワークという他にない強みを武器に事業を展開。「日本がGDPで世界一位になることは難しいかもしれない。けれど、世界で最も尊敬される国家となることはできる」。そう力強く語る保手濱さんに、日本のコンテンツに関する思いや学生へのメッセージについて話を聞いた。

(取材・森友亮)

 

 

「世界一になりたい」とは

 

──ダブルエルは、ミッションとして「マンガ・ゲーム・アニメを通して優しい世界をつくる」ことを掲げていますね。

 

 私自身、大のマンガオタクで、一カ月に100冊のマンガを読みます。一方で、活字は大の苦手です。高校在学中は教科書を読むことが苦痛で、学年最下位を取ることもありました。でも、マンガを使うことで勉強をすることができた。古典は『あさきゆめみし』、英語は『ドラえもん』の英訳版を使って勉強しました。

 

 生まれたときから目立ちたがりで、「世界一になりたい」と思ってきました。「世界一」と言ったとき、定義を尋ねられることがあります。でも、細かな定義は必要ない。『ワンピース』の主人公・ルフィの名台詞に「海賊王におれはなる」がありますが、海賊王は定義があるものではなくて、みんなが「あいつが海賊王だ」と認めるもの。強いて言えば、ルフィの言う「この海で一番自由なやつ」が定義になります。同様に、私の考える「世界一」は「世界で最も人に良い影響を与える人」。「世界一になる」とは、「世界の幸福を最大化すること」とも言えます。

 

 そして、日本のマンガ・アニメは、相互理解に役立つと思っています。たとえば、『ドラゴンボール』で、最初は敵役として登場するピッコロ大魔王やベジータは、やがて仲間として活躍するようになります。マーベルやディズニーの作品では、悪は悪として倒される。一方、日本の作品は、「覇道ではなく王道」で、東洋的な「分け与える文化」がある。こうした世界観・感覚は、良い影響を世界に与え、「優しい世界」に繋がるはずだと考えています。

 

 

コンテンツの魅力で、日本を「世界で最も尊敬される国家」に

 

 

──日本のマンガ・アニメを海外に発信する事業を展開しています。

 

 コンテンツ産業において、ビジネスの参入障壁となっているのは、権利関係の難しさです。著作権などの権利を誰が持っており、誰の許諾をもらえば海外への展開などが可能になるのか。これをクリアできたのが、ダブルエルの強みです。例えばダブルエルの取締役である鈴木雄大さんの父親が、イーブックイニシアティブジャパンの創業者だったことも大きな助けになりました。同社は電子書籍を扱っていますが、創業当時は電子書籍に抵抗がある関係者が多く、苦労があったと聞いています。作家さんを一人ずつ口説いて、人脈を築いていったのです。そうして作り上げたネットワークを鈴木さんが引き継いでいること、そして私がそれまでに培ってきた経営のスキルなどと組み合わせることで、ダブルエルのビジネスを成立させることができました。マンガ家さんとのネットワークは、既にご協力をいただいているマンガ家さんからの紹介や、新しくマンガ家になられた若手の方との繋がりなどで、現在は500人を超える規模になっています。

 

 私は、日本で生まれ育ったことで、日本へのこだわりが強くあります。私自身が世界一を目指すにあたり、日本が世界一になってほしい。GDPで一位になるのは難しくても、世界で最も尊敬される国家にはなれると思います。鍵となるのは、既に世界中で人気を博しているマンガやアニメなどのコンテンツ発信だと考えています。しかし、世界のコンテンツ市場は2022年には約81兆円になると見込まれる一方で、日本のマンガ・アニメは人気にも関わらず、ビジネスとしてあまり稼げていない。日本発の人気コンテンツの多くが公式には海外に出ていっておらず、海賊版で見られてしまっている現状があるからです。日本のコンテンツ産業が国内に十分大きな市場を持ち、外需に目を向けてこなかったため、海外向けの正規品がないのが原因です。でも、少子高齢化の影響もあり、そういう時代ではなくなっている。

 

 我々は「コンテンツ業界を再編し和製ディズニーになる」をビジョンに掲げ、日本のマンガを起点として、世界中で愛されるコンテンツを展開することに取り組んでいます。「キャラアート事業」では、最新のヒット作から過去の名作まで、直筆サインや描き下ろしイラストの商品化、複製原画の販売などを行っています。最近では、「機動警察パトレイバー30周年記念展~30th HEADGEAR EXHIBITION~」を開催し、連日多くのファンを呼び寄せました。「ゲームリブート事業」では、新しいゲームを開発するのではなく、過去の名作を活用して「Nintendo Switch」や「Steam」などの現代のプラットフォームに蘇らせるという、独自のビジネスモデルを持っています。

 

自由な時代、縛られずにガンガン動いて

 

 

──時間を遡り、学生時代のことを伺いたく思います。在学当時と現在とで、東大生の印象は変わっているでしょうか。

 

 幼い頃から「世界一になりたい」という思いがありましたが、世界一になる方法を学校では教えてくれません。何をしたら良いのか迷っていたのですが、学部3年に在学中の2005年、書店で起業に関する一冊の本に偶然出会い、電撃に打たれたような衝撃を受けました。「ベンチャーの道に進むことで、世界一になれる」と確信したのです。

 

 振り返ってみれば、たいしたことが書かれた本ではありませんでした。しかし、自分には起業についての前提知識がまるでない状態でした。だからこそ、大きな刺激を受ける下地があったのでしょう。自分とは縁遠いと思うようなものでも色んな世界に触れることを、ぜひ心掛けてほしい。これは、起業に限ったことではありません。新しく触れた世界には様々な可能性があって、不慣れな分野だけに、たいしたことがないものからも「電撃を受けたような」刺激を得られるかもしれません。

 

 TNKに所属する現役の学生と話をしていると、10年前にはクレイジーだった学生起業という選択肢が当たり前になってきたと感じます。いま20歳の学生は、高度経済成長期が終わり、バブルが弾けた後の日本しか知らない世代です。彼らは自由で、縛られていないという印象です。のびのびと才能を発揮でき、面白そうだという理由で起業を積極的に選ぶことができる。日本に世界一になってほしいと思う私としては、東大生にはぜひ日本で起業という道を選んでほしいと思います。

 

──読者へのメッセージをお願いします。

 

 いまはインターネットも起業もある、自由な時代です。学生には、縛られずにガンガン自由に動いてほしいですね。

 4月16日の「ICTと産業」の講義では、ICT、起業、ベンチャーといった事柄の実態を伝えたいという。「実情を知って、ガンガン起業をしてほしい」。起業の入り口は、高収入や時間的余裕などの欲望で構わない。「どうせ、起業をしたら苦労するので」と保手濱さんは笑う。「でも、今の学生は、お金や時間ではなく、『楽しい』とか『面白い』などの気持ちをモチベーションに起業を選ぶ気がしますね」

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