COLUMN 2019年6月24日

【セミが見た高知③】んん..思ってたのと違うぞ? セミ現実を知る。

高知大副学長 受田浩之先生
高知での地方創生に長年携わり、県の産業振興計画の立案に深く関わってこられた、まさに「キーパーソン」だ

 

高知は人 

 

 地方創生と言ったときに、各地方大学の存在抜きに語るわけにはいかない。今回の旅でも、高知で長年地方創生に携わってこられた高知大副学長の受田浩之先生に話を聞きに行った。

 

 開口一番「先生、高知は人が温かいところですね」と僕が言うと、受田先生の表情が和らいだ。「高知を一言でいうならば『人』だと私は思います」

 

 話は前の晩お世話になったひろめ市場に。ひろめ市場の盛り上がりは、全国で多くの市場施設の参考にされているという。しかし、あの雰囲気は食材や土地の違いうんぬんより、高知の「人」がいてこそ。五感に訴える訴求力が魅力の源泉ではないかというのが先生の考えだ。実際、他の施設はほとんどひろめ市場のようにはうまくいっていないのだという。なんだか分かる気がする。あの「人」との距離の近さ、先生はそれを「ラテン系」と言った。実際に行って体感すると、この「ラテン系」という言葉がやけにしっくりくるのが不思議だ。

 

 産業振興計画のキーマンでもある受田先生。知事にも「10年先まで見通しましょう」と進言し、KPI(Key Performance Indicator:目標達成の度合いを計測するための指標)がはやりだす前から、計画内でいち早く設定した。そうして、今では、高知の人たちに「高知が上向いた」と口をそろえて言われる計画を作り上げた。

 

「あなた」から「私たち」に変われるか

 

 そして話題は「地方創生」の核心部分へ。

 

 地方創生には主語が3つのフェーズがある。まず最初は主語が「あなた」の「依存」の段階。次に主語が「私」になる自立の段階。そして、「私たち」になる相互依存へ。

 

 今、高知は相互依存へ移行できるかの局面なのだという。

 

 そして、心に響いたのは、

 

 「矢口君たちがやろうとしていることはまさに『刺激』なんです。その刺激に対する地域の反応はおそらく、『もっと強い良い刺激を』というものになることが多い。依存が深まってしまうんです」

 

 そうだ。「地方創生」という文脈で東大でもFSプログラム(フィールドスタディ型政策協働プログラム:地域の課題解決のための道筋の提案を事前調査、現地活動、事後調査を通じて学生が行う東大の公式プログラム)などがあるが、実態はまさに「刺激」で終わってしまっているのではないか。各地の現場から今までにも聞いていたが、地域では「東大生さま」として丁重に迎えられ、お高く留まった「ご視察」で終わっていないか。それではどこまでいっても、僕たちは「あなた」のままなのだ。この後の日程でこのことを痛感することになる。

 

傷口をえぐる

 

 そんな「刺激」で終わっている例ならまだいい。

 

 地域で生きる人たちは、「泥臭い」取り組みに苦労し、悩み、迷い、失敗しながら生きている。しかし、「地方創生」のために外から来る人の多くは都会からやってきて、提案だけをして帰っていく。どうやって進めていけばいいのかを踏み込んで示すことはまれだし、ともに成功も失敗もしていくなんてことはほとんどないのだろう。

 

 「『なぜこの町はだめなのか』現状を強烈に批判して帰っていく。解決策を示すことなく、傷口をえぐって帰っていくんです」

 

 この言葉を聞いて、胸が痛くなった。自分はまさに「東大生さま」の態度で来なかっただろうか。「優秀な」自分が地方の問題を「簡単に」解決しよう、そんな態度じゃなかったか。お高く留まって、軽い気持ちで、一生懸命その地で生きる人たちの人生に口をはさみに行く。そんなのただの迷惑じゃないか。

 

 誰かの人生にお邪魔をする。そのことの重さを痛感した瞬間だった。

 

個性が光り輝く日本に

 

 雑談の中で出てきた話題で面白かったものがある。福岡伸一さんの動的平衡論の中の√nの法則。母集団nの中で平均から逸脱した個体は√n個あるという法則だ。これを地方に当てはめてみてはどうだろうというのが受田先生のアイデアだ。

 

 この法則で行けば、100万人の都市なら1000人で0.1%、一方100人の村なら10人で10%。地方ほど平均から逸脱した人材が割合として多いことになる。地方ほど、innovativeな人材がいて、個性が光り輝くのではないか。今までの高度経済成長時代とは違う。これからの日本は光り輝く個性がリードする時代じゃないのか。

 

 「変革は辺境の地から。そう言うでしょう?」

 

高知商工会議所

 

 そして、次に向かったのは高知商工会議所だ。両親が三重で会社を経営していることもあり、小さいころから「商工会議所」という言葉をよく耳にしていた。今回は高知市の「商工会議所」に伺い、高知商工会議所の阿部浩之さん、高知県商工会連合会の梅原浩一さんにお話を伺った。

 

高知商工会議所にて。梅原浩一さん(写真左)、阿部浩之さん(写真右)

 

 2008年のリーマンショック以降、全国的には景気が持ち直して好景気だといわれている。実際、僕の両親も商売をしているから、少なくとも「悪くない」という印象を受ける。しかし、全国的に工業出荷額の低い高知では「景気が良くなっている」という実感はほとんどないのだという。

 

 高知として現在深刻な問題は、人手不足。商工会議所への相談内容の半分は人手不足についてだという。かつてはハローワークに求人を出せば集まっていたが、今はそれも難しい。外国人材の必要性は大きいが、特に高知は今までうまく活用できていないのが現実なのだという。

 

後継者問題?簡単ですよ、もうかればいいんです。

 

 そして、商店街でも何度も耳にした後継者問題についても聞いてみると、はっとさせられた。

 

「それは簡単なことで、もうかっていたら戻ってくる。もうかっていなければ帰ってこない。それだけの事なんです。」

 

「後継者問題は、いかに今あるビジネスをもうかるビジネスに変えるかなんです。0から創業するより、少しでもプラスのところからやる方が有利ですよね?今はそれが何千万、何億という借金を背負ってのマイナススタートだから、商売するにしても「継ぐ」という選択にはならないです」

 

 そんな簡単なことさえも見えていなかった。後継者問題を机の上で論じるとき、どうしても「うまくいってるのに後継ぎが見つからない」というケースを頭に浮かべてしまうものだ。それをああでもないこうでもないと考える。でも、本当に「うまく」いっているのなら、従業員だろうが、子供だろうが、誰かは継ぐのだ。要は「うまく」いっていないから後継者がいない。両親が商売をしている姿を小さいころから見ていたはずの自分がこんなことさえ見えていなかったのかと恥ずかしい。

 

 そして、もう一つ印象に残ったことがある。

 

 「東京のベンチャーと地方のベンチャーは全くイメージが違うんです。IT系でばーんと成功してというのはなくて、スキルを磨いて、お店を出して…というのが一般的なベンチャーなんです。」

 

 これも、「東大生さま」が見えてないことの一つかもしれない。

 

文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・工学部機械工学科3年)

 

【セミが見た高知 シリーズ】

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