INTERVIEW / FEATURE 2016年8月16日

注力すべきはデバイスかコンテンツか?VRシアター黒田貴泰さんの描くエンタメの未来

 3Dホログラフィックを映し出すことのできる世界最新鋭の劇場が横浜にある。DMM VRシアターと呼ばれるその劇場では、存在しない人物やキャラクターがまるでそこにいるようにパフォーマンスを行うライブ公演など、これまでのエンターテイメントの枠にとらわれない新世代の体験を提供してきた。

 

 このDMM VRシアターを手がけたのは、株式会社DMM.futureworksの代表取締役、黒田貴泰さんだ。大学生の頃から音楽や映像といったクリエイティブな仕事に携わってきた黒田さんは、プロデューサーとしての能力を磨くために、大学卒業後は証券会社に就職する。クリエイターとしての背景を持ちながら、ビジネスパーソンとして世界のVRエンターテイメントを牽引する黒田さんに、若いうちから第一線で活躍する方法を聞いた。

 

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初音ミクのライブコンサートが生まれるまで


 

――黒田さんは最先端の技術を用いたエンターテイメントを扱っています。どうして現在の仕事をするようになったのですか?

 

 僕がコンテンツをプロデュースするときは、「こういうものが好きだから作る」という考え方よりも「これから市場が大きくなるか」ということを判断の材料にしています。

 

 日本のエンターテイメントはすごく作家性が強いんです。つまり、そのコンテンツが好きな人たちが集まって、自分の好きなものを作るプロダクツアウトの形です。そんなエンタメ業界で、自分のクリエイターとしての力だけで勝負をすると、ずっと自分の好きなモノを作り続けてきた、年上の人や実績のある人にはなかなか勝てない。

 

 「好き」というだけで勝負することの難しさを、20代から感じるようになって、どうすれば若い自分が勝てるんだろうということを考えました。「これからマーケットが大きくなりそうなフィールドにあるコンテンツを、先行者投資としてプロデュースしていく」という当たり前のようでコンテンツ業界においては珍しいマーケットイン戦略を取るようになったのはそのころからです。

 

――何かきっかけがあったのですか?

 

 新卒で就職した証券会社をやめた後の2006年ころ、インターネットを使ってアーティストをプロデュースするというやり方を模索していました。当時は、インターネットで発表された作品が大きく取り上げられるということのなかった時代です。初め、僕は日本のSNSブームの先駆けとなったmixiにアーティストを支援する仕組みを提案していたんです。それがうまくいかないなと思っていた矢先に、ネット上のクリエイターたちのアウトプット先としてニコニコ動画が登場しました。

 

 ここで結果的に当初目論んでいた、インターネットのフィールドでコンテンツを発表しているクリエイターを、アーティストとしてレコード会社やアニメ制作などの商業ラインに送り出していくことが可能になりました。

 

 元々僕の中ではそういった形でのプロデュースにある程度のグランドデザインがあったので、運良くというよりも確信犯的にVOCALOIDをはじめとしたクリエイタームーブメントの中で業界の方々を驚かせるような突飛な新人ヒット作品を幾つもプロデュースできています。2009年にはsupercellというアーティストが日本ゴールドディスク大賞の新人賞を取っていますし、当時のフォーマットが今に至るまで様々なメジャーレコードレーベルのアーティスト発掘・商品開発のテンプレートとなっている気がします。

 

 音楽業界のセオリーで行くと、CDをリリースして楽曲が浸透したらライブをするんですが、当初初音ミクをボーカルに据えていたsupercellも同様にライブをやろう、やりたい、という話になりました。 そこから「じゃあどうやって?」という検討がはじまったのですが、結果的にそれが、今のVRシアターのプロジェクトにつながっていきます。 存在しないキャラクターを、ステージ上に投影してコンサートを行うという試みが始まりました。

 

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――実際に黒田さんがプロデュースした初音ミクのホログラムライブは、2011年にロサンゼルスでも成功を収めて大きな話題になりましたよね。

 

 そうですね。あれは、Youtubeにアップされた映像で、架空のキャラクターである初音ミクが、ステージ上でパフォーマンスを行って観客を魅了しているという動画が世界中の興味を引く形になり各国からライブ制作のオファーを頂く結果になりました。

 

 この体験を本質的に紐解いていくと、ニコ動をはじめとしたCGM(ユーザーがコンテンツを作成するメディア:「消費者生成メディア」)を背景に置いている日本における初音ミクと、ホログラムキャラクターとして認知され広がった海外における初音ミクの差分が仕掛け手側には見えてきて、VRパフォーマンスのコンテンツそのものではなく、VRパフォーマンスを送り出すプラットフォームの構築に可能性を感じるようになりました。

 

 

コンテンツではなくプラットフォームを


 

 ビジネスの観点からすると、プラットフォームを扱うことは、コンテンツを扱うことにはない魅力があります。プラットフォームが機能すれば、優れたコンテンツが自発的に集まるようになりプラットフォームとしての展開をさらに加速することができる。好循環が生まれます。

 

 2000年代にインターネットが一般化して以降まだまだコンテンツのあり方は過渡期にあり、例えば音楽であれば、CD商品が売れなくなって、ネットにつながったデバイスで音楽が楽しまれるようになった(参考:初音ミクでエンタメはどう変わったのか? 東京大学初のボカロPによるゼミに迫る)。こういったコンテンツメディア、つまりプラットフォームの変化の中で、我々は新しいコンテンツ体験とそれらを送りだすプラットフォームをシステムとして構築しようと考えたんです。

 

 ソーシャルゲームを除くエンターテイメントの世界では、インドアマーケットは縮小していく一方、アウトドアマーケットが拡大しています。となれば、家でのエンタメのためのプラットフォームを開発するより、外出先で体験するエンタメのプラットフォームを狙ったほうがいい。ホログラムのVRシアターというのは、こういった市場予測から出てきたものでもあります。

 

 

大学時代の成功体験から、自分に必要なものを知った


 

――第一印象はクリエイター風だと感じましたが、お話を伺っているうちに高い分析力を持ったビジネスパーソンという印象が強くなりました。大学卒業後は証券会社に就職したそうですが、大学時代はどのような生活を送っていたのですか?

 

 大学時代は、学外で音楽や映像などクリエイティブ系の仕事をしていました。仕事と言ってもプロのプロデューサーのアシスタントみたいなことで、楽器を弾いたり映像をつくったりといった具合です。たまたまその作業の中で、大きなヒットが出たんです。そのヒットコンテンツに関わって一つの成功体験を得たことで、自分の経験も人脈も大きく広がったんですね。

 ただ、ヒットに関わった結果、こういった成功体験を得るためには、音楽以外のスキルが必要だということを実感したんです。

 

 僕が関わったヒットコンテンツも、良い物を作ったから売れたという面と同じくらい、プロジェクト全体としての価値や希少性が高かったから売れた面が大きかった。商品を生み出して市場に送り出す入り口から出口までには、広範なノウハウや経験が必要になります。良いモノを作れることは大前提として、それを広げるためには様々な要素が必要で、その中で最も汎用的に求められるスキルがファイナンス能力だと思いました。

 

 僕は一つのものを深く掘り下げるよりも、浅くいろんなことを見られる能力を身に着けたいと考えていたので、ファイナンスを学ぼうと決意して大学卒業後は証券会社に就職しています。

 

 

――学生時代にやっておいて良かったことはありますか?

 

 学生時代から実践的な仕事をして、成功体験を得られたのは人生においてとても重要なターニングポイントになりました。労働条件が悪くても、とりあえず実践的な仕事に触れてみて、できればそこで何がしかの成功体験を得ることは、その後のビジネスキャリアにとってとても大事です。

 

 学生時代に何をするかを選ぶときに、給料や環境などの条件ではなく、「ここだったら成功に近いかもしれない」という尺度で選んだ方が良いです。表向きの条件が良いところは人が集まり競争が激しいので、むしろ逆張りでニッチだからこそ勝算が高そうなところを積極的に選んでみてはどうでしょうか。実務経験以上に成功体験は大きな資産になります。

 

 「若い時の苦労は買ってでもしろ」と言うように、そういった取り組みは何年か後には必ずアドバンテージとして帰ってきます。ただ、間違いなく言えるのは、辛いだけで得るものがない環境というのも存在するので、見極めは重要ですが(笑)。

 

 

VRデバイスの開発だけでは利益はでない


 

――最後に今後の展望を教えていただけますか。VRシアターはどのように広めていくんでしょうか

 

 VRシアターには、音楽コンサートや演劇、企業説明会、教育、e-Sports(コンピューターゲームの対戦)など色々な可能性があります。2〜3年という長い期間で、何がこのシアターの仕組みにハマるのかを模索していこうと思っています。

 

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 コンテンツのアウトプットは、プラットフォームとなるモノがあって初めて生まれることが多いんです。そのために、リスクを覚悟でVRシアターのプラットフォームを作りました。これからは、業界や会社の枠にとらわれず、このシアターをどう使うかというアイデアを皆で出していく。

 

 どんなプラットフォームであれ、ユーザーが集まりはじめた転機にはその場所がアーリーアダプターを捉える最初のステージがあったはずです。そのきっかけとなるのは概ねの場合、意図しなかった小さな成功の方が多いように思いますが、それがなんであれ小さくても最初の成功事例があれば、そこに人が集まりコンテンツも増える。僕たちも今は、ビジネスモデルのために体系化できそうな成功を2〜3年かけて模索しようと大きな石や小さな石を投げ続けている段階です。

 

――ヒットするためのコンテンツや企画づくりに力を入れていくのですね。

 

 はい。プラットフォームにおいて重要なのは、VRの機能ではなくて、そのプラットフォームで扱われるコンテンツの量と質です。どんなに良いデバイスでも、面白いコンテンツがなければ使われない。むしろデバイスのクオリティは劣っていても優良な1000個のコンテンツを楽しめるものがあれば間違いなく売れると思います。

 

 個人的にVRの技術開発のみに特化している会社さんは向けるべきエネルギーの方向性が間違っていると思っていて、むしろ彼らがやるべきことは技術開発と同じか、それ以上の労力をかけて、コンテンツの制作と獲得に力をいれることではないでしょうか

 

 事実、僕たちがいま力を入れているのは、アニメやマンガ、ゲームなどのコンテンツを、ホログラフィックの舞台にするためのライセンスを獲得することです。最近は1年の半分を海外で過ごしていて、グローバルな競争力のあるコンテンツを増やす交渉をしています。

 

――これからのVRシアターが楽しみです。ありがとうございました。

 

(取材・文 須田英太郎、 取材・写真 千代田修平)

 

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