FEATURE

2020年4月16日

「学びを捉え直すきっかけに」新型コロナで休校中の子どもに授業するスマホ学園・西岡壱誠さんインタビュー

 新型コロナウイルスの影響で全国の小中高校が一斉休校されてから1カ月あまり。休校で自宅待機を余儀なくされている子どもたちのために、有志の東大生が運営する「スマホ学園」という団体がYouTubeで「授業」を投稿している。ライターとして活躍する傍らスマホ学園のメンバーとして運営にも携わる西岡壱誠さんに、活動目的や活動を通して得た実感について聞く。

*取材日=2020年3月24日

(取材・杉田英輝)

 

スマホ学園のロゴ(スマホ学園Twitterより)

 

━━どのような目的意識で活動していますか。

 

 まず大前提として、「やることがなくて困っている」「勉強したくても学校で勉強できない」という高校生の声や、「休校中に家に一緒にいる子どもに勉強させるにはどうしたらいいか」という小学生世代の子どもがいる親御さんからのニーズに応えることを目的としています。2月27日に公立の小中高校の休校が決定された直後、Twitterで「オンラインで授業を配信するサービスをやろうと思うのですがどうですか?」と投稿したところ、「ぜひやってほしい」と多くの要望が寄せられました。それも相まって、普段子どもたちが学校にいる時間に授業を開講しようと決めました。

 

 その一方、せっかくサービスを提供するなら単に学校の機能を補完するだけでなく、学校ではなかなか教えてもらえない事柄も伝えられたらと思いました。具体的には、なぜ教科書に従って勉強をするのかなど「学び」を一歩引いて捉え直す力、さらには大学入学共通テストの導入を筆頭とする入試改革や高等学校の「歴史総合」「地理総合」など学習指導要領の変更の根底にある、ものを多角的に見る力の重要性を考えることを通じて、「学びの楽しさ」を感じてもらいたいと考えています。

 

━━授業全体として大切にしていることはありますか。

 

 授業のスタイルに関しては基本的に講師に任せています。ただどの講師も、小さい子どもにも興味を持ってもらえるようにすること、誰にとっても親しみのある材料を使うこと、物事や事象の理由・背景としての「なぜ」を解説することを心掛けています。

 

━━対象を小中高生と幅広く設定していることでどのような効果がありますか。

 

 休校措置の影響を受けている子どもたちに学習環境などを提供することが目的の根底にあるため、対象範囲を狭めないことを大前提としています。その上で、幅広い対象設定に基づき授業を構成することで、小学生に対しては今は分からなくても将来役立つかもしれない内容を、中高生には過去と現在の学びのつながりや広がりを感じてもらえるような内容を盛り込むことができます。こうして、現在の学校教育では意識として断絶しがちな「学びの一体性」を感じてもらえたらうれしいです。

 

 YouTubeで配信される授業は、子どもたちにとって学びの機会のみならず、コミュニケーションの場にもなっています。ライブのチャット機能では子供たち同士で教え合ったり、雑談が繰り広げられたりして、現実の学校や学級のような空間が形成されています。会話の様子を見ていて、現代の子どもたちは顔の見えない相手とのコミュニケーションへの抵抗が比較的薄いのだなあと感じました。

 

 

━━授業だけでなく、著名な人物による講演なども企画されていますが、それはなぜでしょうか。

 

 より多くの人の学びになるように、学校では得がたい多様なコンテンツを提供するためです。インタビューの場合は、インターネット上の匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設したひろゆきさんのように「子どもたちや学生向けに話したい」と先方のご厚意で実施することもあれば、ユーザーの皆さんのニーズに合わせ私たちが人選しお願いすることもあります。お金や経済の仕組みを分かりやすく伝える経済青春小説『おカネの教室』(インプレス)の著者・高井浩章さんに「なぜ働くのか?」というテーマで講演をしてもらったのはその例です。その他、5浪を経て理科Ⅲ類に合格し、自身も講師としてスマホ学園で授業を持つYouTuber・阿修羅さんに自身の受験体験を語ってもらった企画などもあります。

 

━━ユーザーからの反応は運用面にどのように反映していますか。

 

 授業について言えば、例えば私が講師を務める世界史の授業で「宗教について詳しく知りたい」というコメントが寄せられた時には、知り合いの文学部宗教史学専修課程の学生に来てもらい、各宗教について簡単に紹介し、宗教にまつわるよくある誤解を一緒に考える企画をやってもらいました。他にも、その日の授業が終わった後に「放課後」という時間をゲリラ的に設け、そこでユーザーから授業内容についての質問や、授業とは関係のないことについて相談を受けたり、雑談したりしています。放課後には、授業時間内に触れられなかった内容の解説やこぼれ話、参考書籍の紹介などもします。

 

━━今後の活動の展望について教えてください。

 

 明確に決めてはいませんが、とりあえず4月以降も続けようと思っています。これまで活動していて、確かに授業内容のクオリティーの高さは他のオンライン授業配信サービスに劣りますが、生で授業を配信することの「価値」を実感できました。コメント機能でユーザーたちが教え合い、ユーザーの質問に講師がその場で答えるなど授業がインタラクティブに展開され、コミュニティーもできつつあります。これがユーザーに安心感を与えているのか、ユーザーから強い継続要望も来ています。そのため、現在の状況が収束したら即サービス終了というのも何か違う気がしています。

 

 私は、今回の休校で「学校」の在り方自体が問われていると思います。スマホ学園の活動を通して、授業や子どもたちのコミュニケーションの面はデジタルでも代替できることが分かったからです。そして、既存の学校に対してデジタル教育の可能性を示すことで、デジタル教育の性質を正しく理解することを促す良いきっかけになったのではないでしょうか。

 

西岡壱誠さん(経・4年)

 

スマホ学園Twitter:https://twitter.com/sumagaku2020

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る