INTERVIEW / OBOG 2015年9月25日

“CGで医療を変える”:東大医学部卒サイエンスCGクリエイター瀬尾拡史さん前編

「『東大の授業なんて出る意味がない』と言っている人には、『それを言えるだけ東大の授業に出たことがあるの?』と思ってしまう」

そう語るのは、東大医学部とデジタルハリウッドとをダブルスクールし、現在は株式会社サイアメントの代表取締役として活躍する瀬尾拡史(せお・ひろふみ)さんだ。

サイエンスCGクリエイターとして、サイエンスの専門的な世界と、エンターテイメントに使われるCGの世界という、まったく異なる2つの分野をつなぐ仕事をしている瀬尾さんに、異分野をつなぎ新しいビジネスを作ることの困難さについて伺った。

 

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専門家にも素人にも楽しめるサイエンスCGを作る

 

――「サイエンスCGクリエイター」というとあまり聞き慣れない言葉ですが、どういった活動をされているのでしょうか?

 

「サイエンスCGクリエイター」は僕の造語ですが、一言で言えば「サイエンスの世界とCGの世界を繋ぐ」ことが仕事ですね。「サイエンスを、正しく、楽しく。」をモットーに、初めて見る人にでも分かりやすく、科学の専門的な知識が伝わるような3DCGコンテンツを作っています。単に繋ぐだけなら指揮をするだけの監督のような役目もありえますが、僕の場合は作品の制作部分も少なからず自分でやるようにしています。僕は医学部を出て医師免許も持っていますし、CGに関しては専門学校に通っていたので、自分である程度の専門性を持った上で世界を繋ぐということですね。

 

――サイエンスの専門知識を「正しく」伝えることと、「楽しく」伝えることはどのように両立させているのでしょうか?

 

正しさの部分に関しては、専門の先生方にきちんと最終的なチェックをしてもらうようにしています。「楽しく」には「見やすく・分かりやすく・直感的に操作しやすく」といった意味も込められていて、アカデミックな分野ではまったく使われていないけれど、3DCG映画などのエンタメ作品では当たり前に使われているようなCGの手法を使うようにしています。ただ、必ずしも最先端のCG技術を使っているというわけではなくて、作品に合わせてそのときどきで適切な手法を使っています。あとは、ストーリーがしっかりしている、全体を通して分かりやすくなっている、見ていて綺麗で、最後まで見たくなるといった部分も心がけていますね。どの作品でどのような見せ方をすると楽しい作品になるかといったバランスをうまくコントロールできるかが腕の見せ所であり、醍醐味にもなっています。

 

(※英語版は https://youtu.be/2LPboySOSvo)

 

たとえばこのUT-Heartの可視化映像作品では、心臓が拍動する動きを東大久田・杉浦・鷲尾・岡田研究室が中心となってスーパーコンピュータ「京」を使って正確にシミュレーションしたものが映像の「キャラクター」代わりになっています。「この心臓一拍分のデータをどうやって分かりやすく見せますか?」というところがビジュアライゼーションと呼ばれるもので、目的に合わせた作り込みをしています。たとえば研究者の先生であればふつう、「今はATPの消費量が見たいからここを見よう」だとか「この断面が見たい」だとかいう目的があって見るわけですよね。「その目的のためには、どういう順番でどの部分が見えたら分かりやすいか?」ということを考えてストーリーに落としこんであります。UT-Heartの場合は心臓の各部分を網羅的に見せる教科書風の作りになっていますが、目的に合わせてフォーカスする部分を変えることももちろんできます。たとえば、もっと詳細な部分を見せたり、見せる順番を変えたりというような見せ方ができますね。

 

――このUT-Heartは、「世界最大かつ最高のCGの祭典」と名高いCG技術の国際学会であるSIGGRAPH2015でBEST VISUALIZATION OR SIMULATION賞を受賞されましたよね。CG関係の研究者の間でもかなり話題になっているのを聞きました。

 

ありがとうございます。優秀作品が約2時間半放映されるElectronic Theaterというイベントがあったんですが、ディズニーとかピクサーとか、映画も多くて。その中で心臓しか登場しない作品が流されるって、すごくシュールでした(笑)。でも、評判はなかなかよかったようです。

 

――エンタメ作品以外ではCG技術はあまり有効に使われていないということですか?

 

いえ、CG技術自体は可視化の領域で今も昔も沢山使われていますよ。ただ、僕の作っているようなエンタメ要素を織り交ぜたものとはそもそも根本的に質や目的が違うので、昔ながらの一般的なCGによる可視化がまったく評価するに値しないということではないと思います。目的が違うので、ストーリーがないのが一概に悪いという話ではないです。ただ、エンタメ要素をいれてみることで、これまで専門的な分野だけで閉じられていた世界が広がるという点がSIGGRAPHでは評価されたのだと理解しています。

 

 

「医工連携」が上手くいかない理由

 

――専門的な医療分野とIT技術とは相性がいいと思うのですが、実際にはそれぞれの分野だけで世界が閉じられてしまっている気がします。

 

最近「医工連携」って言葉が流行ったりもしていますが、実際のところあまり上手くいってないんですよね。「これが出来ると治療に役立つはず」という医者側のニーズを実現するための技術が、必ずしも工学的に最先端技術でないからだと思います。そうすると、工学的には研究にならないので、工学系研究者はやりたがらない。それで医者側は企業とタイアップしようとしますが、今度はビジネス的に成り立つのかという別の問題が生じてきてしまいます。課題を解決するということが一番大事な目的のはずなのですが、それぞれの立場だけで物事を考えると、うまく目的を達成することができないんですね。

 

――瀬尾さんは、サイエンスの世界とCGの世界をどのようにして繋いでいるのでしょうか?

 

そもそもサイエンスの専門家とCGの専門家では共通言語がないので、うまくコミュニケーションが取れないことが多いんです。その共通言語として、今回のように映像を作る場合には、僕は必ずビデオコンテを作るようにしています。作品制作の流れとしては、まず初めに研究所や製薬会社さんなどから依頼があって、たとえば心臓だったらこの断面がほしいな、とかいうイメージを頭の中で作ります。頭の中である程度考えたあとで、次に実際にプロトタイプを作って、いろいろと動かして実験をしてみるんですね。そのあとでほぼ完成作品に近い、ストーリーまで盛り込んだビデオコンテを作ります。このビデオコンテがあって、ようやくデザイナーさんや先生方と具体的な部分について話し合うことができます。

最後の映像の作り込みの部分に関してはデザイナーさんに任せることになりますが、「ここの心拍数をもうちょっと調整してみたい」だとか、デザイナーさんが考えそうなことは予め考えておいて、心拍数を調整できるスライダーを用意しておいたりしてあります。あとは、「確かにこれ表現できたらかっこいいけど、それは今のCGの技術では無理だよね」というCGの限界が意識できた上で設計をしているので、「設計図だけはかっこいいけれど、作れないものを作れと言われて技術者側が困ってしまう」というありがちな齟齬を生じさせず、スムーズにコミュニケーションができるようにしています。

 

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やるべきことをやってから、やりたいことをせよ

 

――2つの分野を融合させる学際的な領域では、どちらの分野から見ても中途半端になるだけで新たな価値を生み出せないという例がありがちですが、気をつけていることはありますか?

 

僕はハリウッド映画を作れるわけでもないし、医師としての本格的な治療をできるわけじゃない、どちらの分野でも二流で中途半端な人間です。でも、2つの分野の掛けあわせで生きていくときには、どちらの分野の超一流の人とも話をしなきゃいけないですよね。自分より明らかに能力の低い人と話すのって、誰であれ普通は面倒だと思うんです。だけど、分かっていないんだけどちゃんと勉強をしていて分かろうという姿勢を見せている人か、本当にただの興味本位で聞いてるだけの人かってのは見れば分かりますよね。なので、後者にならないようには気をつけています。

あと、僕は自分ひとりで作品全部を作るといったことはないです。「この人にだったらこの仕事を任せて大丈夫だな」と思える人には、思い切ってその部分は任せます。ただ、任せられるかを判断するには、判断できるだけの知識が必要になってきて、適切な判断をするためにはやはりある程度経験を積んで感覚を養うしかないと思いますね。例えばエンジニアとしての出来がいいかどうかを判断するには、ソースコードのどういう部分を見るかがだいたい決まってきますよね。CGクリエイターの場合も同じで、ある程度判断するポイントが経験から見えてきます。あとは少なくとも一人、信頼の置ける人がいればその人に判断を任せるというのも手です。プログラミングに関しては自分はまだまだだと思っているので、よく人に聞いたりしますよ。

 

――医学部とデジハリとのダブルスクールも、普通はどちらも中途半端になってしまうように思うのですが、こちらも何か意識していましたか?

 

「やるべきことをやってから、やりたいことをやろう」というのはいつも思っていますね。「東大の授業なんて出る意味がない」と言っている人に対しては、「それを言えるだけ東大の授業に出たことがあるの?」と思っちゃいます。僕はデジハリとダブルスクールしながら医学部の授業も全部ちゃんと出席して、単位もひとつも落としたことはなかったです。やるべきことをやらずに自分勝手にやりたいことをやっているだけだと、人から信用されなくなりますし、結果的に損するんじゃないかなと思います。

 

――今後はどういった作品を作られていく予定なのでしょうか?

 

「根っこの部分で自分はお医者さんなんだな」という意識が自分の中にあって、治療そのものの進歩に自分の作品を役立てていく方向性に今は興味があります。たとえば、今まで作ってきた作品では標準的な心臓のデータを使って一つの映像作品に仕上げていましたが、現場の医者の立場からすると一旦停止して裏側を見たいだとか、診療中の患者の心臓のデータを取り込んで表示したいだとか、よりインタラクティブなものが欲しいわけです。技術的には、リアルタイムのレンダリングや、CTスキャンから目的の臓器の部分だけ取り出すような画像処理は既に可能になってきています。ただ現場で実際に役立つものをどう作るかという部分はまだこれからなので、僕の得意とするビジュアライゼーションを活かして、「見やすさ」「使いやすさ」を実現していきたいですね。

 

(取材:小川奈美、須田英太郎、井手佑翼 文:小川奈美 写真:須田英太郎)

 


 

瀬尾拡史(せお・ひろふみ)

東大医学部医学科卒、株式会社サイアメント代表取締役。3DCGの専門学校であるデジタルハリウッドとのダブルスクールにより身につけた医学とCGの専門知識を用いて、「サイエンスCGクリエイター」として活躍中。大学3年時に裁判員制度での3DCGの利用を最高検察庁に提案し、その功績から東京大学総長大賞を受賞。また2014年には総務省の異能(Inno)vation 事業に採択され「国家認定の“変な人”」の最初の10人に選ばれる。さらに今年8月に開かれた世界最大かつ最高のCG技術に関する国際学会のSIGGRAPH2015ではBEST VISUALIZATION OR SIMULATION賞を受賞。

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