INTERVIEW / OBOG 2016年9月17日

研究者と官僚の理想の関係とは? 東大農学部卒の総務省審議官に聞く

 現在約8000万人いる労働力人口は、 2060年には4500万人程度に減ると言われている。今後、人口減少が進むなかで、私たちは今の所得水準を維持し、労働者数と同じくらいの数のお年寄りとともに、安心して暮らしていくことができるのだろうか。

 

 総務省の審議官である鈴木茂樹さんは、人口が減っていく未来の日本で人々が活力のある暮らしを営むためには、ICT(情報通信技術)をはじめとする科学技術を、効率的に社会に応用していくことが必要だと言う。

 

 しかし科学技術を社会に応用するためには、既得権益との調整や、新しい技術の負の側面を減らすルール作りなど、多くの課題がある。官僚機構の効率の悪さや、研究者が自分の専門に偏りすぎているという「タコツボ化」問題が注目されるなか、今後、技術や研究を、効率的に社会に応用するためには何が必要なのだろうか。

 

 東大農学部を卒業し、総務省事務方のナンバー2として、情報通信政策を担当する鈴木茂樹・総務審議官に話を聞いた。

 

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――総務省のホームページを見ると、「2020年に向けた」という文言がよく出てきます。

 

 2020年を意識しているのは、オリンピックとパラリンピックの盛り上がりを利用して通常のペースでは出来なかったインフラの整備をすることが目的です。

 

 2020年には、団塊の世代が70歳を超え、人口減少が顕著になってきます。一方で世界的にみると人口は増えてきて、今まで低開発国と呼ばれてきた国々が経済的に力を付け、新興国として日本のライバルになります。かつて日本は欧米にキャッチアップすることを目標にしてきましたが、今や日本は欧米と並んで、他の国からキャッチアップされる立場になっています。2020年頃を目指して経済社会のインフラを整備して、その後の資産(レガシー)にしたいと考えています。

 

 人口が1億を割る時代にも、ICTを経済のあらゆるところで使って生産性を上げることで、活力を保ち、人口の3分の1が高齢者であっても豊かで安定した国でいられるでしょう。更には、それを世界に広げて、アジアや中南米、中近東やアフリカの国々にも広めたい。それによって低開発国が持続的成長の軌道に乗り、人々が貧困から解放される世界が出来れば良いと思ってます。

 

――そんな理想の2020年のためにICTをどう活用するのでしょうか?

 

 注目すべきことは、送受信できるデータの量が、ますます大きくなっていることです。光ファイバーや、第5世代移動通信システムによって、気象や生体情報など、モノについての莫大な情報を素早くやりとりすることができるようになりつつあります。IoTが注目されているのは、たくさんのセンサーからあらゆる事象のデータを集め、蓄積されたビッグデータを解析することで、最適な活動を推測したり、最悪な事態を未然に防いだりできるからです。

 

 さらにそのビッグデータの解析を、AIに任せることもできます(参考:スマートデータで金融は変わる? 三井住友アセットマネジメント社長 横山邦男さん)。保険の査定で、住所に間違いがないかとか、過去に同じ内容の請求がないかといったレベルであれば、すぐにでも機械で代用することができるでしょう。

 

 

テクノロジーの光と影。行政が果たすべき役割とは?


――新しいテクノロジーが実用化されるとき、既得権益との利害調整が難しいですよね。

 

 そうですね。最近はUberやAirbnbなどが注目されています。かつて日本は白タク(無許可タクシー)が横行していて、ぼったくりや乗車拒否などが頻発していました。そのためタクシー運転手を登録制にし、タクシー近代化センターを設けて、安心してタクシーに乗れる仕組みを作ってきたんです。

 

 Uberはウェブ上でドライバーを評価する仕組みがありますが、負の面をなくすシステムが十分整備されているとは言えません。実際に外国では、Uberの運転手が女性に乱暴をするというような、日本のタクシーでは考えられないような事件が起きていると聞きます。

 

 Airbnbも同じです。日本の旅館業は、火事になったときのためにスプリンクラーや火災報知機を設置しているなど、負の面を無くすための努力をずっとしてきました。ではAirbnbの宿泊者が火事を起こしてしまったとき、彼らは責任を取れるのか。アパートに住んでいる人と同じような責任感で、Airbnbの利用者も火元の管理をするのか。どうすれば周りの住人と安心して共存できるのでしょうか。

 

 便利なものには光と影があるので、どうやって害を減らして利便性を早く広めるのかということが課題になります。私たち行政は、なにか新しいテクノロジーが実用化されたら、もちろんそれを広めたいと思いますが、まずはその負の面を最小にしなければいけません。アメリカ的な民間資本のように、まずやってみてから考えよう、というやり方には害もありますから。

 

 総務省の仕事には、既得権益者や他の省庁間の調整というのが大きな部分を占めています。政策を作ったら、他省庁にコメントをもらう。有識者会議を開いて議論してもらう。国会議員の先生や利害関係者に直接出向いて「心配するのももっともですので、こういう措置をしましょう」という妥協点を探る。そういった仕事が、テクノロジーの負の面を減らすために重要なのです。

 

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日本とアメリカの風土の違い


――アメリカと比べて、日本は行政の力が強いように感じます。科学技術をどう社会に役立てるかなどは、将来を見通して判断するのは難しいのではないでしょうか。

 

 行政が全知全能の神様みたいに、将来を見通すのは無理です。私たちが技術について持つビジョンは、3年から5年くらいのもので、今見えている技術がどのように普及するかを考えるというようなものです。私たちがしているのは、新しい技術を使った民間企業のサービスに後から追認を与えたり、従来の規制でグレーの部分について法整備をして白と黒に分け、安定した法制度の下での新技術の普及を図ったり、ということなのです。

 

 一方、アメリカは「法律で禁止されていないことはやってしまえという考え方」が主流で、それを社会が追認していく文化があるし、禁止されたら撤退すれば良いという企業風土があります。

 

 例えば2000年代初めに話題になったナップスターというファイル共有サービスは、著作権の問題から後に違法となり、当時のサービスは姿を消しました。「だれもやっていない新しいことを真っ先にやってみよう。ダメだったときには撤退しよう」という勇気が民間企業にどの程度あるのか? というのも、日本とアメリカの違いだと思います。

 

 日本の企業によく見られるのは、「このサービスは現行法律上問題がないのか、役所に聞いてこい」「役所に問い合わせましたが、まったく問題がないとは言えないそうです」「ではしばらく様子を見よう」という安全志向だとか、「他の会社がやり始めました」「よし私たちもやろう」というような先例主義です。もしかしたら、フロンティアを開拓して発展していった国と、住人同士で水を分け合いながら水田を広げていった国との国民性の違いなのかもしれません。

 

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研究者の役割と官僚の役割


――理系の研究開発が効率よく社会に応用されていくために、研究者に求めたいことは何ですか?

 

 研究開発をしている人には、自分たちの成果をビジネスを通じて社会に広げようという意識を持ってほしいです。研究の成果を、論文に書いて、発表し、特許を取って終わるのではなく、それを実用にまで開発し、普及させるところまで関与してほしい。

 

 青色ダイオードやiPS細胞の研究が上手く行った際には、照明器具に応用するとか医療に応用するということまで行われました。自分でベンチャーを起こしてもいいし、大企業と提携してもいい。そこでは、最高性能や世界初を追求するだけではなく、既にあるものを改良したり組み合わせたりすることも重要です。応用・実用に関わることで、研究成果を世界に広めてください。

 私たち官僚は、研究者が開発した技術が、社会に活きるように、制度や業界の慣行を変えてきました。研究者や学生の皆さんは、必ずしも役人になる必要はないですが、新しい技術水準に合った経済や社会の大きな枠組みを変える意識を持って研究に取り組んでください。

 

 この観点から、当方と経済産業省の方とで協力して、東京大学ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム(GCLプログラム)に「『The 官僚』…この国を、経済・社会をデザインする…」という講座を設けています。

 

 この国の様々な課題に対して、中央省庁で活躍している幹部の方を講師として、政府の取組みを語っていただき、この国をどのようにしていくのかのデザインを議論する講座です。外交、経済・財政、観光、農林水産のあり方、国土政策の在り方、情報通信の発展や、電子政府・マイナンバーの導入、サイバーセキュリティ対策などの大きな分野とともに、ドローン、IoT/ビックデータなどの直近の動きまで、カバーしています。

 

 技術を研究し、その水準と可能性を知りうる研究者の方達には、技術の経済社会に与えるインパクトとそれへの対処を考える上で、是非とも、受講いただきたいと思っています。

 

(取材・文 須田英太郎 写真 千代田修平)


2016年Aセメスターの「The官僚」の初回講義は、9月30日(金)18:45-20:30 工3号館2階GCL Labで行われる。

 

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※この記事はGCLプログラムとの共同企画です。

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