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2019年1月14日

「僕は日中友好という言葉は嫌い」中国で活躍するドキュメンタリー監督・竹内亮さんインタビュー

 「世界に“和み”を広げたい。異文化への偏見を、我々の映像で“和らげたい”」。そんなコンセプトを元に株式会社ワノユメを立ち上げ、中国でドキュメンタリー番組『我住在这里的理由』(『私がここに住む理由』)を制作する竹内亮さん。かつて日本で『未来世紀ジパング』や『ガイアの夜明け』の制作に携わっていた竹内さんは、中国に住む日本人や日本に住む中国人に密着し、異国の地で頑張る彼らを等身大に描いている。中国の大手動画サイトbilibiliやYouTubeなどで公開されている同番組は中国で大きな反響を呼んでおり、動画の再生回数は約5億回に上る。「影響力のある旅行動画ベスト10」に選ばれたほどだ。体験活動プログラムを通じた東大生との交流もある竹内さんに、番組にかける思いや中国や世界との向き合い方について話を聞いた。

(取材・楊海沙)

 

写真は竹内さん提供

 

──竹内さんは日本にいた時から中国に関する番組を制作しています。そもそも中国に興味を持ったきっかけは何でしょうか。

 中国人の妻がきっかけですね。番組制作時に通訳として雇ったときに出会いました。もともといろんな国に行って番組を作りたいという夢はありましたが、中国に特化していったのは完全に彼女のおかげです。やっぱり好きな人がどんなところで生まれて、どんなところで育ったのか知りたいじゃないですか。そんな個人的な興味から入り、だんだん中国の長い歴史やスケールの大きさという、取材してもしきれない奥深さに引かれていきました。

 

 

中国で受けた衝撃がきっかけに

 

──そんな中でなぜ中国で『私がここに住む理由』を制作するに至ったのでしょうか。

 2010年にNHKで『長江 天と地の大紀行』という番組を制作するために、1年間かけて長江流域に住む人々の生活に密着しました。そこで、現地の人が現代日本について何も知らないという現実を知ったんです。僕が日本人だと分かると「小日本」「日本鬼子」(中国人が日本人に対して使う蔑称 )と言われたり、「高倉健や山口百恵は元気か」と聞かれました。

 

 もともと、1980年代には日本ドラマが中国に入ってきて、日本ブームが起こったんです。しかし1990年代の愛国教育や2000年代の日中関係の悪化などを背景に日本の情報がそこで止まってしまいました。そんな事情があって2010年当時の時点でも1980年代の日本の話しかされないことにショックを受けました。

 

 そこで「現代の日本文化や日本人のあり方を中国人に伝えたい」と思い、中国人向けに日本を紹介する番組を作ることを決意して2013年に南京に引っ越したんです。当時は中国語が片言しかできなかったので、まずは南京大学に入学して中国語を学びました。

 

写真は竹内さん提供

 

──『私がここに住む理由』という番組名にもあるように、人々がその地に住む理由に着目したのはなぜでしょうか。

 単純に現代日本の文化を中国人に伝えたい時に、日本文化そのものを説明するのは難しいし興味も集めづらい。例えば歌舞伎だけを撮影しても「何これ知らない」となると思います。どうやって日本文化に興味を持つハードルを下げるか考えていた時に、妻が「日本に住む中国人の視点から描いたら」と提案してくれたんです。同じ歌舞伎でも、歌舞伎座で働く中国人の目線で描けば一気にハードルが下がりますよね。僕はもともと人を撮るのが好きでしたし、日本に住む中国人の目線で描くことにしました。

 

 

全ての主人公がいとしい

 

──『私がここに住む理由』の制作において、どのようなことを心がけていますか。

 

 一番大事なのは密着する主人公をどう選ぶか。主人公でその回の人気は大体決まりますから、そこに視聴者に共感してもらえる物語があることが絶対条件です。苦労話や貧乏でありながらも自分の夢をかなえようとする物語など、目標に向かって頑張っている人を取り上げることで視聴者の多くを占める若者の励みになるものを作りたいと思っています。

 

 この番組に台本はありません。人と人とのコミュニケーションをリアルに撮影するために事前に余計な情報は入れないようにして、主人公とはその場でゼロから関係を作ります。そして極限までリアルに撮るために、普通のドキュメンタリー番組とは違いスタッフ総動員で撮影します。

 

写真は竹内さん提供

 

──これまでの回の中で、特に視聴者からの反響が大きかったものを教えてください。

 

 一番再生回数が多かったのは、中国で乃木坂46の齋藤飛鳥さんやGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太さんに密着したスター編ですね。一般人でいうと、中国で暮らす日本人に密着した中国編の人気が高いです。もともと日本に住む中国人に密着するものがメインでしたが、スピンオフ企画として中国編を作ったらかなり受けました。今では中国編と日本編を約半々の割合にしています。

 

 

 中国人が日本に行く大体の理由はお金儲けのためか夢を追いかけるためのどっちかです。それに対し、日本人が中国に住む理由は本当にバラバラなんです。例えば、定年退職後に大してもうからず中国語もできないのに武漢でカレー屋をやっているおじいちゃんとか。中国人からすると理解不能ですよね。このように、日本人が中国に住む理由は、中国人の想像をはるかに超えてくるんです。それが面白くて、視聴者に受けたのではないかと思います。

 

 

──竹内さん自身の印象に特に残っている回はありますか。

 

 ありません。僕にとっては全ての主人公がいとしく、大切な人たちなんです。 それぞれの主人公に学ぶことがあって面白いです。取材が終わるともう連絡を取らないっていう人はほぼゼロで、一緒に新しいビジネスを始めたりすることもあります。単に取材側と取材先という関係ではなく、基本的にずっと友達です。

 

 

中国の「庶民」にも目を向けて

 

──中国人と日本人の間では、お互いの国に対する興味にどのような違いがあるのでしょうか。

 

 中国人の若者は漫画、アニメ、ドラマ、ゲーム、芸能人、グルメなど日本のポップカルチャーが好きですね。90年代の若者は日本のアニメを見て育っていますし。日本が好きな中国人はマニアックなところまで知っていて驚かされます。

 

 一方で日本人は中国の文化にあまり興味がないですよね。文化に興味があるといっても三国志などがほとんど。文化面で中国の特集が組まれている日本のテレビや雑誌って少ないですし。多くの日本人はあくまでもビジネス相手として、中国の経済や先進的な技術への関心を持っています。

 

──竹内さんは中国のどのようなところを日本人にもっと知ってほしいですか。

 

 生活や文化についてもっと知ってほしいです。日本のメディアを通じて中国の政治経済といった表面的な部分しか見ていない人が多いと思います。中国が閉ざされていて何を考えているか分からず、怖い国と捉えている人もいますよね。もっと「老百姓」(=庶民)を見てほしいです。彼らは普段、政治とは何の関係もないですし。

 

 日本人にもっと中国を知ってもらおうと、『私がここに住む理由』の日本語版も制作中です。そもそも中国に関心がない人が多いので、人々の物語を通じて中国に興味を持つきっかけを与えられたらと思います。

 

写真は竹内さん提供

 

──竹内さんは中国のどのようなところに魅力を感じていますか。

 

 まず、中国人の正直な性格に引かれています。日本人って、奥歯に物が挟まったように本音を言わなくて、何を考えているか分からない人が多いじゃないですか。僕は正直に生きてきたので、中国人の素直にバシッと言う性格に合います。変に探り合いを全くしないので人間関係にストレスがたまることもほとんどなく一緒にいて気持ちいいですね。

 

 加えて、中国はスケールが大きくて楽しいです。やることがとにかく大胆で、発想が面白いんですよ。例えば、最近中国のある大手メディアから、10世帯の家族を10年間追うドキュメンタリー番組の企画を持ちかけられました。そんなにスケールの大きい話はそれまで聞いたことがなかった。まず、日本ではあり得ません(笑)

 

 ただ、「本当にそれをやるの?」という眉唾ものもありますし、途中で投げ出すものもあります。それに対し、やると決めたら絶対にやるというのは日本のいいところだと思います。

 

写真は竹内さん提供

 

──今後の日本と中国の関係を考える上で、どのようなことに心がければいいのでしょうか。

 

 まず、僕は「日中友好」という言葉が嫌いです。元々はいい言葉で言葉自体に何の罪もないと思うのですが、あまりにも安易に使われすぎていると思います。大して日本や中国が好きでなくても、表面的に「日中友好」をうたってイベントを行ったり利益を得ようとしたりする人が多いように感じます。そういう人には、「本当に日中友好を考えているの?」って思ってしまいますね。

 

 そして、「日中友好」を前提に人付き合いをしたくないです。僕だって、嫌いな中国人はいます。「日中友好」というと中国人全員と仲良くしなければいけない感じがしますが、好きな人とは付き合うし、そうでない人とは付き合わなくていいのではと思います。幼稚園の時に友達100人作ろうとするのとは話が違いますからね。

 

 政治的な関係には波があります。1980年代に関係が良くなって、1990年代にちょっと悪くなって、2000年代に超悪くなって、そのあとちょっと改善したけど、2010年に尖閣諸島問題で悪くなって、またそこからどんどん良くなっているというように。良くなったり悪くなったりの繰り返しだし、もう国同士の関係は気にしなくていいんじゃないですか(笑)「中国」をひとくくりにして嫌いになるのではなく、個人同士で関係を築けばいいと思います。

 

世界と本気で向き合えているか

 

──竹内さんは東大の体験活動プログラムの一環としてワノユメを訪れる東大生と交流しています。東大生との交流を通じて感じたことをお聞かせください。

 

 一番衝撃的だったのは、数年前に訪れた東大生たちの8割くらいが南京大虐殺のことをほとんど知らなかったことです。知らない彼らが悪いというよりは、日本の教育に問題があると思います。授業や教科書でしっかり教えていれば、東大生はちゃんと覚えているはずなので。

 

 一方で東大生から積極的に質問が出て、中国について知りたいという思いはすごく伝わってきて良かったと思います。ただ、あくまでも興味を持っているだけという人が多く、実際に中国で何かをしたいという人は予想より少なかったですね。どうするかはそれぞれの自由ですが(笑)

 

2018年に行われた東大生との交流

 

──最後に、東大生に向けてメッセージをお願いします。

 

 世界と本気で向き合って欲しいですね。経済や政治、社会におけるパワーバランスでいうと、世界での日本の地位なんてどんどん下がっています。中国の若者がどんどん世界に出ているのに対し、日本人は日本のルールで、日本人同士だけで生きている人が多いことに危機感を感じています。最近の入管法改正による外国人労働者の受け入れ拡大や民泊に関する法律を見ていても、日本人を守るための内向きの法律という感じで外国人のことが十分に考えられていません。世界と向き合わなければいけない時代に、日本しか見られていない。

 

 ですから、東大生にはこれから国を引っ張っていくリーダーとして、もっと世界に目を向けて、もっと世界に出てほしいと思いますね。

 

***

 

 国同士の不安定で表面的なつながりよりも、相互理解に基づいた草の根レベルでのつながりが大事だと話した竹内さん。たとえその国に対してネガティブなイメージを抱いていたとしても、そこで暮らす人々の人情に触れることで見方が変わってくるのではないか。学生のうちに世界と向き合い、視野を広げることも必要なのかもしれない。

 

竹内亮さん(ドキュメンタリー監督)

ドキュメンタリー番組の監督として、15年以上のキャリアを持つ。テレビ東京「ガイアの夜明け」「未来世紀ジパング」NHK「世界遺産」「長江 天と地の大紀行」などを制作。2007年、ギャラクシー作品賞を受賞。2014年、中国人の妻と南京市で「和之夢文化伝播有限公司」を設立。

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