インタビュー

2014年10月27日

東大生よ、能力相関を考えよ 松尾豊准教授インタビュー3

「研究とビジネス」の両方を視野に入れるという稀有な研究者、松尾豊氏。連載企画の第一回では、人工知能界のイノベーションであるディープラーニングについて、第二回では、ディープラーニングが私たちの社会・ビジネスに与える変化と、日本の人工知能研究が海外でどう戦うかを聞いた。最終回の今回は、東大生に関するコメントをいただいた。

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――先生の研究室には、ビジネスと研究を両立するような学生も出てきていますよね。

はい。しかしやはり両立は難しいと思います。だから僕としては、ビジネスで成功する人がたくさん出てくればいいと思います。研究者として成功するためには最初は若干アホじゃなきゃいけないんですよ(笑)。よく分からないものを研究しなければいけないのですから。生涯賃金等の功利的な選択ができないような人が、でも自身の知的好奇心に従ってやり続けていると、すごい価値を生むという世界だと思います。研究者って、晩成であらざるを得ない。

 

――なるほど。では、東大生に足りないところはどういったところだとお考えでしょうか。

東大生は、「能力相関」について考えてみて欲しいんです。例えば、大学入試で高得点を獲得する能力と、官僚として仕事をする能力はかなり相関すると思う。決められたことをきっちりやる力や、複数の文書の整合性を整えたりする力などです。

ただ、例えば「多くの人が思っている潜在ニーズを発見する力」や「自分と反対の意見の人を説得する力」となると、端的に言って無相関ですよね。「他人の気持ちを感じ取る力」となると、もはや逆相関ではないのかと(笑)。

――なるほど、確かにそういう相関はありそうですね(笑)

だから、東大生は「確率に対する認識」を変えるべきです。例えば、東大入試で言うと、これは3000分の1くらいの確率をくぐり抜けている訳ですよ。そこを勝ち抜いてきているという意識になると、他の勝負で例えば100分の1と言われても、勝てる気になってしまう。50人に一人しか受からない試験に受かったり、就活で1000人受けて1人しか取らない企業に採用されたり。しかしこれは能力の相関が高い場合の確率でしょう。

能力が無相関の場合、100分の1と言ったら本当に100分の1なんですよ。ベンチャー起業だって、100社起業して1社残ればいいという確率でしょう。しかもベンチャービジネスで生き残る力なんて、入試の力とは無相関です。例えば、不遇の少年時代を送って、潜在的なニーズを見分けるのがすごく得意で、しかも気合いと根性でがんばっちゃうような起業家たちと戦っていくわけですよ。

だからどうすればいいかと言うと、どの領域で勝負したら能力の相関が高くなるかを必死に考えるべきです。

仕事に必要な能力セットと、自分が持っている能力セットの相関値がどのくらいなのかは考える価値があります。そうしたら勝率も上がるのではないかと。

――先生自身も東大生ですが、どのようにして研究者を目指されるようになったのでしょうか。

最初は、東大生にありがちだとも思いますけど、数学とか物理を見て「これは美しい世界だな」と(笑)。でもそのときは、例えば物理の公式、E=mc²も、僕にはobjectにしか見えなかった。つまり、Eやmc間の関係性としてしか認識できなかった。

ただ徐々に、こういう僕の捉え方も、物事の捉え方の一面にしかすぎないのだろうなと感じるようになりました。世界がこう見えているというのは、人間の認知の制約に過ぎないのではないかと。そうして、「人間の作りだしている認知」の方が不思議だなと思うようになり、哲学にも興味を持ち始めたのですが、工学部だったこともあり、認知を人工的に作りだすという当時かなり実現困難であろうと言われた研究分野があると聞いて、それが面白そうだと思って人工知能の研究を始めました。だから世の中のことが分かって始めたわけではなかったし、「数式は美しい」とか、全く社会と関係ないところから始まっていますね(笑)。

しかしそうして研究を進めていくと、研究費を申請する際に「研究の社会的インパクトを説明せよ」と言われるようになります。すると、どう考えても僕が論文一本書くよりも、Google作っている人の方が偉いな、と思わざるを得なかった(笑)。何の目的で研究やっているのだろうと悩むようにもなりました。だから、研究で何かを見つけたものを、たくさんの人が有り難いと思う形に変換するにはどうすればいいんだろうという方向に興味が移ってきました。そして、人口知能のような先端技術を扱うベンチャーキャピタルとか金融って何なのだろうとか、それを支えている社会って何なのだろうという風にも考えるようにもなりましたね。

(文責 沢津橋紀洋)

2015.8.10 タイトルを変更いたしました。

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