INTERVIEW / OBOG 2017年10月3日

ショートショート界の旗手・田丸雅智さんインタビュー 5分で飛べる非日常

 作家の田丸雅智さんは、工学系研究科修士課程を修了した後、現代ショートショートの第一人者として活躍を続ける。ショートショートとは短い中に不思議なアイデアや印象的な結末が描かれる小説のジャンルの一つで、日本ではかつて星新一が人気を博した。田丸さんに、ショートショートの魅力や、自身の作品に込めた思いを聞いた。

(取材・石井達也 撮影・矢野祐佳)

 

 

日常に不思議を作る

 

――小説家を志したきっかけを教えてください

 もともとは高校時代になんとなく小説を書いたのが始まり。大学時代は、学業としての理系の研究以外に、自分の軸となるものを持ちたかったんです。作品を生み出すことが好きだったこともあり、最終的に音楽か文学という二つの道で迷いました。それでギターを触り始めたんですが「なんだか違うな」と思い、高校時代に書いていた小説に取り組み始めました。

 

 当時は、書いた作品を自分で勝手に小冊子にして友人に配ったりもしていましたね。生協でA4の紙を買い、学生会館の裁断機でA6サイズにして、文庫のように整えて。半年に1冊くらい作っていました。

 

――大学時代の研究内容を教えてください

 自動車の軽量化、特に軽量化した車の修理について研究していました。自作の中で研究内容そのものを描く機会はなかなかありませんが、テーマとしていた環境エネルギーの話題を取り上げることは多いです。

 

――身近な題材を取り扱った作品が多いのはなぜでしょうか

 日常の隙間に不思議を生み出すことで、読者に「日常から非日常へ」という飛躍を味わってほしいんです。日常に潜む不思議の要素は、見方を変えるだけで見えてきます。例えばこのインタビューが載る新聞を題材にしてみると、字が黒で印刷されていますよね。ならば、この字のインクは、実はイカ墨から取っていたとしたらどうだろう、印刷専用の特別なイカがいたらどうだろう、それは新世代のバイオテクノロジーかもしれない……といった具合に空想を広げるわけです(笑)。

 

――小説家としての強みはどこにあると思いますか

 好きなことがいっぱいあるということですかね。ショートショートを仕事としていくためには、たくさんの作品を書かなければなりません。「いっぱい書かなければ」と考える人もいるでしょうが、僕にとっては「いっぱい書ける」という発想。興味のあることを物語に「閉じ込める」作業がたくさんでき、ワクワクします。これは心構えというよりも、もっと自分の欲求に近いものだと考えています。

 

――特に気に入っている作品を教えてください

 『海色の壜(びん)』にある「海酒(うみしゅ)」ですね。「海酒」は海の記憶を閉じ込めて作る架空の酒にまつわる話で、コンテストのグランプリを目指して大学院生時代に書いた作品。自分の人生そのものを閉じ込めた作品を書くために、生まれ育った海沿いの街をテーマに、かつて海で体験したことをエッセンスとして閉じ込めました。

 

 不思議なことに、海で育ったわけではない読者に「懐かしさを覚えた」と言われることがあります。これは、僕が目指していることの一つ。自分のものでしかなかった記憶が誰かの想像力を刺激できるということは、とてもうれしく、ある種の感慨もあります。

 

 

気軽で身近な作家に

 

――ショートショートの魅力は何でしょうか

 ショートショートは、1話5分程度で非日常に飛んでいけます。忙しくて時間がない現代人に長編小説を薦めても、なかなか読んでもらえません。ちょっとした時間で読めることが最大の強みです。

 

 陸上の長距離走・短距離走と同じで、長編小説とショートショートでは楽しみ方も違います。ですが、これまでは両者が文学という一つの土俵で語られてきてしまいました。それぞれに良い点があるし、ショートショートは独立して評価されるべきだと考えます。

 

 かつて「読書はしないけど星新一は読む」という読者層がありました。僕も、そのように気軽で身近な作家になりたいですね。「読書はしないけれどショートショートは読む」という人も増やしたいです。

 

――ショートショートの可能性を教えてください

 すぐに読めてしまうので、時間が取れない現代こそ潜在的に非常に多くの読者を抱えていると考えています。また、ショートショートを読むことで物事の捉え方が変わったり新しい視点を得られたりするのですが、それは仕事にも学業にも生かせるものです。人生を楽しくすることにもつながりますので、大きな可能性を秘めていると思っています。

 

――今後、どのようにショートショート界に携わっていくつもりですか

 書き手としての活動と、ジャンルを盛り上げる活動の2軸で動きます。いまも、トップを走り続けるために精進すると同時に、書き方講座を開いたり、ショートショート大賞という文学賞を立ち上げたり、いろいろな活動を行っています。講座で裾野を広げ、大賞を登竜門とする。そしてそのトップに自分がいられれば最高ですね。

 

 時々「ライバルを自分で増やしてどうするの?」と言われますが、ショートショート全体を盛り上げるには書き手の充実は不可欠ですし、全体が盛り上がれば必ず自分にも返ってくるものがあると信じています。パイは「奪い合うもの」ではなく「広げ合っていくもの」という考えもありますね。

 

 今後も、誰かが動いてくれるのを待つのではなく、自分から積極的に動きます。これがやるべきことであり、やりたいことです。

田丸雅智(たまる・まさとも)さん (ショートショート作家)

 87年に愛媛県で生まれる。06年理Ⅰ入学、10年工学部卒業、12年工学系研究科修士課程修了。11年に『物語のルミナリエ』(光文社文庫)で「桜」を発表して小説家デビュー。他、『夢巻』(出版芸術社)『海色の壜』(同)など多数の著書がある。


この記事は2017年10月3日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

インタビュー:5分で飛べる非日常 ショートショート界の旗手に聞く 田丸雅智さん(ショートショート作家)
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