学術

2019年8月14日

【著者に聞く】リノベーション建築の旅はいかが? 専門家が語る新旧融合の魅力

『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』

常松祐介著、講談社、税込み2052円

 

 夏休み、旅行をしようと考えている学生も多いだろう。普段は行かない地方に行くのもよし。東京を散歩するのもよし。そんな人にぜひ読んでもらいたいのが、建築を専門とする常松祐介さん(工学系・博士1年)が書いた『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』だ。

 

 古い建物に現代のデザインを取り入れ大胆な増改築を行うリノベーションは、近年建築業界で注目を集めつつある建築手法だ。歴史的建造物の深みと現代建築の格好良さを同時に味わえるリノベーション建築には、新築にはない魅力がある。本書は日本国内に存在するリノベーション建築の中から、北は北海道、南は香川まで、えりすぐりの22事例を紹介。元の建物の歴史から、改装に当たってのデザイン上の工夫まで、専門家ならではの詳細な説明でその魅力を語り尽くす。

 

 大学院でリノベーション建築の研究をしていた常松さん。しかし研究する中で「リノベーション建築は研究対象として扱うのではなく、実際の事例を伝えた方が価値がある」と思うようになったという。特に、旅をして土地の雰囲気を感じながらリノベーション建築を見る経験の豊かさをより多くの人に知ってもらいたい。その思いを、学生が自分のアイデアをプレゼンして本の出版を勝ち取る競技会「出版甲子園」にぶつけ、見事出版を勝ち取った。

 

 本書では既存建物を尊重しながら歴史的な建造物を改修した事例について、「対比」「同化」「転用」「記憶」の四つの特徴で分類して紹介している。最初は専門的な内容は書かないつもりだったが「今や簡単な紹介はネット上にあふれている」との編集者の指摘で方針を転換。建物の歴史、地域の物語、改修設計に当たっての工夫を解説にふんだんに盛り込んだ。執筆に際しては、各建築の施設運営と設計それぞれの担当者に取材し、地域の郷土資料館にも足を運んで調べたという。新旧の大胆な対比が特徴の国際子ども図書館や、既存建物への見事な同化を図りつつ新しさを加えた東京駅など、代表的な作品には10ページ以上を割く。

 「実は建物を巡る文化は奥深い。そのことを自覚した途端に建物の見方が変わるはず」と常松さん。特に地域振興の分野で、リノベーションというハード面からのアプローチがあることに目を向けてもらいたいと語る。「旅やリノベーション建築をきっかけに、古い建物が持つポテンシャルに気づいてもらえたら嬉しいですね」

(高橋祐貴)

 

常松祐介さん

 「著者に聞く」では、本の著者に取材して執筆の背景や著作に込めた思いを掘り下げます。


この記事は、2019年7月30日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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