COLUMN 2018年10月26日

東大職員、人材登用改革の成果は? 高度化と多様化を目指す

 「東大で働いています」と言われれば、ほとんどの人が教員として研究・教育に従事する姿を思い浮かべるだろう。しかし、教育支援、研究推進、社会貢献、組織運営……、と部局の仕事を現場で動かす職員の奮闘を忘れてはいけない。学生・教員と並んで東大を支える存在、事務職員の姿に迫る。

 

 

改革の気運高めて

 

上杉 道世(うえすぎ・みちよ)さん
(大正大学理事長特別補佐)

 

 従来国立大学として国の内部組織だった東大が、「国立大学法人」として自律的な大学経営に移行したのは2004年のこと。少し前の2003年に文部科学省から東大に着任し、事務局長・理事として法人化に携わった上杉道世さんは、改革の一環として職員の働き方の見直しを始めた。

 

 打ち出したのは「職員の高度化と多様化」。「教員の言うことを聞いていれば大丈夫」という職員の空気を一掃し、職員それぞれに多様な専門性を身に付けさせることが始まりだった。「昔は教員の側も職員に期待していない部分があった。佐々木毅総長(当時)から改革の命を受けたのです」と上杉さん。

 

 例えば、自らの職務が学生へのサービス業でもある点を職員たちに理解させること。主体性・協調性のなさを改善し、あいさつ一つから見直そうという気運を生んだ。学生生活実態調査に書かれた学生から職員への悪口も、上杉さん本人から職員に報告したという。「愛想が悪いとか、すぐに書類を突っ返すとか、いろいろ書いてありましたよ」と当時を振り返る。

 

 最も重点を置いたのは、人材登用の改革だ。これまでの公務員試験の系譜を継ぐ国立大学法人等職員採用試験合格者のみならず、民間企業の就活と変わらない独自採用を始めた。「東大なら単独で採用しても優秀な人材が集まるだろう」と踏み、1期生採用時には上杉さんが自ら説明会に出向いた。「これまでとは違い職務はチャレンジング、ゆったりとした雰囲気の職場ではないと強調しました」

 

 効果はてきめんで、採用者には優秀な学生が並び、自ら課題を発見、企画を提案する能力を職場で遺憾なく発揮していった。他の国立大学も独自採用を始めて効果を出し、従来「公務員Ⅱ種試験」というイメージだった「大学職員」という職種が、就活生内で隠れた人気を誇るまでになった。

 

 

 優秀な新人を採用し職場の雰囲気を変えるという目標への道のりは、実はまだ道半ばだ。「改革された選抜方式をくぐり抜けた若手たちは優秀でも、その上司が以前のまま変わっていないというケースがあります。若手部下がやりにくかったり、下手すると悪影響を受けたりする」と言い、今度はベテラン職員の啓発が求められている。

 

 今後特に職員の力が必要になるのは「教職協働」の推進だ。事務仕事に教員が忙殺され、本業の学術研究に打ち込めない現状がある。「以前のように『職員は会議の末席でメモだけ取る』のではダメ。職員側主導で業務を処理できるようにしないと」と、教員・職員の「フラット化」が必要だと唱える。

 

 東大で4年間改革に携わった上杉さんはその後慶應義塾大学に入職、現在は大正大学の運営を手掛ける。「自立した運営をせざるを得ない私大の職員の方が、大学にとっての学生の重要性を実感している気がしますね」。職員の姿勢をとっても大学ごとに特色はあると上杉さん。例えば立命館大学では職員間の議論が活発な傾向があるという。

 

 「今後も職員の方には、情熱と愛着をもって職務に当たってもらえれば。常に改革することを頭に入れておいてほしい」と上杉さん。大学職員という仕事は、学生と教員を相手にする特殊性がある。3者で手を取り合い、大学改革を進める必要があるだろう。

 

新規の取り組みに挑戦

 

小野里 拓(おのざと・たく)さん (本部経営戦略課)

 

 大学経営に携わる現役の東大職員はどのような思いを抱いているのか。独自採用試験合格者1期生の小野里拓さんに話を聞いた。

 

 小野里さんは東大出身で、2006年に入職。国際・研究支援・役員秘書など幅広い分野の業務を手掛けてきた。職員研修の充実化など新規の取り組みにも深く関わり「やれるものならやってみろと言われつつ、挑戦を後押ししてくれる上司に恵まれた」と振り返る。

 

 海外留学研修の制度もあり、小野里さんは米国に1年渡ったが「1年で修士号を取ってくるのは仕事以上に大変だった」。その分、高等教育論や組織論など「大学経営に生かせるさまざまな学びがあった」と収穫は大きかったという。

 

 ただ入職後は「想像以上に学生との関わりがなかった」と小野里さん。本部所属だと特に、学生担当でなければ学生と接する機会はほとんどない。「とはいえ学生に関わるだけが大学の仕事ではありません。支援業務を通じてもさまざまな面白い経験をしています」

 

 業務をこなす中、東大が想像以上に大きい組織で、各部局の独立性が強いという印象も生まれた。部署によって繁忙期や求められる能力のばらつきも大きく「業務の効率化や人員配置の適正化が重要」と語る。

 

 一方で「教職協働」の推進は小野里さんも重要視する。「教員が教育研究以外の業務で忙し過ぎるので、教員の理解を得ながら職員ももっと積極的に仕事を担っていくべき」と語気を強める。「組織論で言えば、大学では教員は専門職権威に、職員は管理的権威に立脚すると整理できます。両者が共存する複雑な組織で、その摩擦をうまく組織全体の力に変えられる優秀な人材が必要です」

 

 今後ますます高度で多様な業務の遂行が求められる大学職員。五神真総長も職員がこれまで以上に活躍できるような制度改革を進めており、職員もその期待に応えることが求められる。

 

(取材・田辺達也)

 

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【蹴られる東大⑥】東大を勝たせた教授が語る、東大に足りない「危機感」と改革

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この記事は、2018年10月16日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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