INTERVIEW / OBOG 2016年4月22日

RPGゲームでうつ病のケアを 東大発ベンチャーHIKARI Lab代表・清水あやこさん

 世界保健機関(WHO)は、世界では40秒に1人が自殺し、自殺者のうち30%がうつ病だったと発表した。自殺者数は年間で見ると戦争や自然災害による死亡者より多いという。厚生労働省によると日本では15人に1人がうつ病を経験し、うつ病発症者の4人に1人が適切なケアを受けていないという。

 この状況を解決するため、RPGゲームで楽しくうつ病の治療法やリラックス方法を学んでもらうのを目指しているのがHIKARI Lab代表の清水あやこさんだ。

 提供するゲーム「SPARX(スパークス)」は、ニュージーランドのオークランド大学で作られた。個人に無意識に生じる偏った考え方に気付かせ、より現実的な考え方を促す認知行動療法と呼ばれる治療法をゲームに応用している。ゲームは七つのレベルに分かれた世界を多様なキャラクターたちと共に冒険するというストーリーで、それ自体でも十分に楽しむことができる。

 清水さんはSPARXの日本語版を開発。ニュージーランド版よりもキャラクターの目を大きくするなど日本人に親しみやすくするとともに「精神的に不安定になるとどう自分が扱われるかに敏感になるので一言一句にこだわった」という。ため口で話し掛けプレイヤーをゲームの世界観に引き込んでいくゲームもあるが、丁寧な口調を心掛けた。また、原文の訳も「エネルギーがないと感じてしまいませんでしたか」では、エネルギーがあることを良いとする主観が入ると考え「エネルギーがないと感じたことはありましたか」などの中立的な表現を心掛けた。

 

SPARXの画面(開発中のイメージ。画像は清水さん提供)
SPARXの画面(開発中のイメージ。画像は清水さん提供)

 同時にオンライン上で行うビデオカウンセリング事業も立ち上げた。民間の心理カウンセラー養成学校では教育の質が低いことを自身の通学経験から感じていたため、東大・早稲田大学などのトップ大学で臨床心理学を学んだ心理士のみを採用している。

 しかも、他のオンラインカウンセリングでは心理士が自宅のパソコンを用いてカウンセリングを行う場合が大半だが、HIKARI Labの心理士は事務所まで来社し、事務所のパソコンを用いてカウンセリングを行う。結果として「仕事だという自覚を持ちやすいし、運営側が心理士の様子を把握しているので、サービスの質と信頼性を担保できる」と清水さんは力説する。「SPARXで心理ケアが身近になった人が、より専門的なケアに興味を持った時の受け皿になれたら」と熱く語る。

 

 高校生のころから欧米へ留学し「海外では心理ケアへの抵抗がないことを実感しました」。日本では心理ケアを受ける人は我慢強さが足りないと思われる風潮があるが「心の状態が良い方が仕事がはかどるに決まっている」と日本の状況を変えたいと思い始める。働いて大学院へ行くお金を貯めようと考え、大学卒業後は外資系金融機関で働いた。会社では、精神的不調になっても心理ケアを受ける時間がないほど忙しい状況を目の当たりにし「社会の実状を踏まえた上で適切な心理ケアを届けたい」との思いを強めた。

 働いて2年たち会社を辞め、東大の教育学研究科臨床心理学コース修士課程に進学。「心理ケアを受ける人へ説明責任を果たせるように、科学的に実証された心理ケアの方法を教えてくれた」と振り返る。大学院在学中にSPARXを知り事業化しようと考えて今に至る。

 今後は最新技術を生かして、普段の生活の中で受けることができる心理ケアのプログラムを自分たちで開発したいという。「心理ケア業界はまだまだ未熟。トップを狙っていきたい」と意気込む。

(取材・文 横井一隆)

IMG_3847 10年上智大学卒。バークレイズ証券勤務を経て、16年教育学研究科修士課程修了。修士(教育学)。16年に株式会社HIKARI Lab(http://www.hikarilab.co.jp/)設立。

 


この記事は、2016年4月19日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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連載小説:『猫と戦争と時計台』㉕
東大発ベンチャー:HIKARI Lab 清水あやこさん
著者に聞く:『教養としての認知科学』 鈴木宏昭教授(青山学院大学)
キャンパスガール:山口晶子さん(理Ⅱ・2年)

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