COLUMN 2018年12月7日

東大教授が語るVTuberの可能性 VRで個性の限界突破

 今年のノーベル賞受賞者発表の際、解説動画の聞き手を務めて議論を呼んだ「VTuber」の「キズナアイ」を知っているだろうか。VTuberとは「Virtual YouTuber」、すなわちコンピュータ上の仮想空間に用意した3Dモデルによって自らの動きを投影し、作成した動画をYouTubeなどの動画投稿サービスで発信する存在のことだ。大手メディアでも多数取り上げられ社会的現象となりつつあるVTuberの実態に迫る。

(取材・麻生季邦、田辺達也)

 

まだまだ発展途上の仮想空間

 

 稲見昌彦教授(先端科学技術研究センター)は、VTuberに強い興味を持つ研究者の一人。大学生の頃はまだ1990年代で「VR(仮想現実、人工現実感)コンテンツ制作のためには数百万円から数千万円かかる高価な機器が必要だった」と回想するが、今ではコンビニでアルバイトをしながらでもVTuberを始められるほど、手の届くものになったという。

 

 稲見教授いわく、元祖のVTuberとして挙げられるのは「伊達杏子DK-96」(表)。「キズナアイ」など最近のVTuberは、「伊達杏子」の流れをくみ、かわいくしたという感覚しか抱いていなかった。しかし今度は見た目は女の子、声は男性のVTuberである「のじゃロリおじさん」の出現に衝撃を受けたという。「コンビニアルバイトのおじさんが自作の女の子のキャラクターを使い、トークで人気を得ている」姿を見て「性別や見た目、種族を超えて、仮想の姿で生き生きと活動する様子には大きな可能性を感じた」と語る。

 

 

 稲見教授は、VTuberの経済的な可能性にも注目する。例えば大学生VTuberの「雨下カイト」は、スタジオや番組を自作するなど、他の学生を巻き込んだ挑戦を続けている。また「『輝夜月(かぐやるな)』さんのコンサートは、工学部計数工学科の学生もインターンで運営を手伝っています。コンサートは、お金を取れる規模になったという点でVTuberの歴史に残るものでした」。

 

稲見教授が開発に携わった眼鏡型デバイス「JINS MEME」(写真は稲見教授提供)

 

 現在VTuberの制作には、モーションキャプチャ技術(人や物の動きを捉えコンピュータ内の情報とする技術)が用いられている。ウェブカメラだけでモデルを動かせるものや、スマホ画面に写したものを生配信するサービス「ミラティブ」では手軽なアバター作成ができるなど、簡易にVTuberになれる手段も充実しつつある。また、稲見教授も制作に関わった眼鏡型デバイス「JINS MEME」は、眼球や頭の動きから人間の集中度などを解析するものとして開発されたが、これもVTuberの制作に使われる。今後もより人間の動きを精緻に反映できる技術が構築されていくことだろう。

 

 

愛されキャラで発信力増幅

 

稲見・檜山研究室/UT-virtualが共同開発したバーチャルくまモン(写真は稲見教授提供)

 

 VTuberは日本でこそ少しずつ注目されているものの、海外では英国の公共放送BBCで取り上げられたくらいで、単に珍しいことが起きているという認識だ。ただ「価値に気づいていない海外の人々が多いのは、逆にいいことで、これから見いだされる新しい価値がある」と稲見教授は肯定的に捉える。人気のあるキャラが海外進出を狙う際、地域ごとの好みや対象とする年齢層に応じたキャラの見た目のローカル化も考えられ「生身の人間と違って、変換が容易であることはVRの利点」と語る。

 

 発信手段としてのVTuberの用途は「増幅器とか変換器と考えるのがいい」と話す稲見教授。VTuberになることで、対象に受け入れられやすい形、自分が発信しやすい形で活動できる。今後VTuber制作を考える上でも、既に持っている自分の活動分野や、オンライン上にあるコンテンツをVTuber化することが考えられる。

 

 一方で、見た目や知覚が変化するVR空間内では、自分のキャラを一貫させるよりも「人格としてリアルと分けて考えた方がいい」と指摘する。「客観視して線引きした扱いができないと、アイデンティティが曖昧になるようなこともあると思います」。心理学的に見た目が心に影響することはこれまでも示されてきたが、VTuberがどんな影響を持つかはいまだに分からない。ただ「VTuberという存在が社会からうさんくさく思われたり、変に遠ざけられたりするのは悲しいです」と話す。

 

 先日「キズナアイ」がノーベル賞の解説動画に出演した際には、詳しい説明は研究者の男性が担当し、キズナアイは相づちを打つ役目が多く、女性的なシンボルに不平等な印象が植え付けられているという声があった。VTuberが社会に受け入れられやすい形で広まって行くような工夫が、今後必要だろう。

 

稲見 昌彦(いなみ・まさひこ)教授(先端科学技術センター)
99年工学研究科博士課程修了。博士(工学)。慶應義塾大学教授などを経て16年より現職。東大VR教育センターでは応用展開部門長を務める。VTuberに対しても造詣が深い。

 

本郷のそば屋店主「VTuberは芸術」

 

 VTuberは今や誰もが手軽に楽しめるコンテンツだ。本郷キャンパス近くでそば屋を経営する田名部康介さんも、VTuberとして活動する一人。田名部さんは元々「人とコミュニケーションを取るのが好き」だそうで、機材の購入をきっかけに個人VTuberが集う「VRChat」(インターネットを使いVR空間で他者とつながるサービス)の利用を始めた。そこでアバターを持ち、多くの人と知り合いになったという。

 

 デビュー後の感想として田名部さんは「自分の中に層のようなものが一つ増えた感じ」と語る。「何か自分の得意分野を『VTuber』という存在に代弁させるというのは、ある種芸術の一分野と言えるかもしれません」。VR空間での振る舞いが、現実世界に影響を及ぼすことも期待できる、とVTuberの可能性に期待を寄せる。

 

 自身がそば屋ということもあり、「VRChat」のユーザーで「オフ会」を店内にて開催するなど積極的な活動を続けるが、「自分はあくまでいちユーザー」と語る田名部さん。それでも今度は「店内のスクリーンにVR空間を映し出し、VTuberが教える東大の授業を開きたい」と意欲を見せる。無限に広がるVTuber界から今後も目が離せない。

 

田名部 康介さん(「手打そば 田奈部」店主)
(たなべ こうすけ)

この記事は、2018年11月6日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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