「20ヵ国語ペラペラ」。かなりインパクトの強いタイトルだが、本書は実際に20ヵ国語がペラペラになった著者による外国語学習の記録であり、読み物として楽しめる。すべての読者が著者の学習法を参考にして外国語を上達させられるわけではないが、一種のヒントは与えてくれる。
「ことばは人間のよろこびだ」と語る著者は、小学6年生のとき父に中学2年生用の英語の教科書を買い与えられた。それをきっかけに、まずは英語にのめりこんでゆく。中学では独自の参考書で勉強、ネイティブと文通もし、英語の試験はたいてい100点満点。中学2年生ながら3年生に英語の質問をされたこともあった。
高校1年生にして難関だった高校生の交換留学制度の試験に合格し、米国へ留学。東京外国語大学に進学した後は、イタリア大使館でのアルバイトなどを経て、国際会議の総合運営を専門とする会社で通訳などの仕事を得た。
登場するとてもまねできない超人的エピソード(手帳のメモは全部アラビア語で書いているなど)や行動力と積極性に圧倒される。いつの間にか何言語も勉強し「ペラペラ」になっていく著者を見て、外国語をマスターするのはこんなに簡単だったかと感覚がまひしそうになるが、あっけにとられつつ読むのが心地よい。
本の後半では著者の「体験的速修術」が紹介される。単語はイディオムや例文ごと覚えることや「最初の千五百語の暗記はていねいに」「初歩の時代には、初歩の辞書を」など参考になる内容も多いが、万人がすぐに実行できるわけではない内容や、1969年発行であるゆえの古い内容も少なくない。
著者は「少しずつでも毎日」は時代遅れ、「少しずつ毎日ではなく、三日坊主でも良いから一日8時間勉強」というが、簡単にはまねできない。「映画館へはテープレコーダー持参で」行ったら、現代では即座にパトランプ頭の警官に確保され「NO MORE」と叱られてしまう。
しかしこの本を通読すると、誰にでも役に立つ教訓が見えてくる。「語学は好きだと上達する」ということだ。著者は良い成績を取るためいやいやとではなく、常に好きだから語学を学び、20カ国語がペラペラになったのである。
語学の勉強自体をやる気が起きないときも、その言語が話される国に関心を持っておくと良い。著者も「趣味の世界をかけ橋とする」ことを勧めている。どんな手を使ってでも語学に対する「執念」を持ち夢中になることができれば、誰でも3言語くらいはペラペラになる日が来るであろう。【不】