学術ニュース

2022年6月10日

東大などの研究グループ 人の息による個人認証技術を発表

 東大大学院工学系研究科の長島一樹准教授、柳田剛教授と九州大学、名古屋大学、パナソニックインダストリーの研究グループは、人間の吐く息から得られる化学物質を利用して個人認証する原理の実証に成功したと発表した。従来のものよりも、身体的変化に強く、安全性の高い生体認証の実現が期待される。研究成果は現地時間5月20日に英国王立化学会の『Chemical Communications』誌のオンライン版に掲載された。

 

 指紋、網膜、顔などを利用した生体認証は近年広がりを見せる一方、こうした技術は外傷などの身体的特徴の変化への対応力の低さや、高いなりすましのリスクといった課題も存在する。その中で生物の息などの生体ガスは、外的な影響による変化や、偽造の可能性が低く、生体ガスを構成する分子群の化学物質に基づく生体認証の研究が進められてきた。

 

 従来は皮膚ガスが注目されていたが、皮膚ガスに含まれる分子群の濃度レベルが化学センサの検出限界を下回ることを理由に、生体ガスを利用した生体認証の実用化は難しいとされていた。今回の研究では皮膚ガスではなく、皮膚ガスより分子群濃度が3桁ほど高い呼気ガスに着目。ガスクロマトグラフ質量分析計という気体の成分分析を行う装置を利用し、呼気ガスの成分分析を実施した。結果、皮膚ガスと同様の成分が呼気ガスから検出され、個人ごとに異なる成分パターンが存在することが判明した。

 

 そこで研究グループは独自の人工嗅覚センサを用い、成分分析で得られた個人を識別するための特徴となる識別マーカー分子を収集。こうして得られたデータ群を人工知能による機械学習を通じて分析したところ、平均97.8%の精度で個人認証に有効であることが確認された。対象人数を20人に増やしても同程度の精度が確認されたという。

 

 今後はデータ分析に利用するセンサの数を増やすことで識別能力と再現性を向上させ、大人数での識別と本技術の実用化を目指す。

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