部活・サークル

2023年7月28日

サークルペロリ➡︎東京大学馬術部「自然豊かな馬場で馬との触れ合いを」

馬術部サムネ

 

馬と共に過ごす日々

 

 JR三鷹駅からバスで25分、竜源寺停留所から野川沿いに東へ歩く。初夏には蛍が見られる自然豊かな道を進むと、左手に東京大学馬場が見えてくる。そこでは早朝から、東京大学馬術部員が馬たちと共に練習に励んでいる。

 

自然豊かな野川周辺
自然豊かな野川周辺

 

 馬術部の活動は午前6時半から午前11時。しかしその中で実際に騎乗するのは20分から30分で、あとの時間は厩舎(きゅうしゃ)での作業に充てる。2限から授業がある場合は、午前9時ごろに練習を切り上げキャンパスに移動だ。1、2年生には、週1回夕作業と夜作業のどちらかが割り振られる。夕作業では午後5時半から馬の夕ご飯を準備し、午後6時半まで馬の処置などをする。夜作業では、午後10時ごろから作業を始め、午後10時半に馬に夜ご飯を与える。そのまま部室に泊まり、翌朝4時半には馬の朝ご飯を準備。まさしく馬と共に生活するのだ。

 

 馬は足回りのけがが多く、蹄鉄(ていてつ)が他の足にぶつかって傷をつけてしまうこともある。このような場合は獣医の方が見てくれたり、時にはやり方を教わって自分たちで処置をしたりすることもあるそうだ。また馬の餌は、餌を販売する会社から買い付け、馬糞(ばふん)は近隣の農家までトラックで運んで提供し、肥料にする。馬と共に生活する以上、けがの処置、餌の入手、馬糞の処理まで全て自分たちでするのである。動物を扱うため作業量は必然的に多くなってしまうが、部室に泊まって作業するため、他部員とも馬とも仲良くなれる。池田浩隆さん(文・3年)は、「個人の力量に関わらず、部員全員で平等に作業を分担しています。この点も、うちの部活の良い所の一つですね」と語る。

 

一鞍一鞍を大切に

 

 部員がそれぞれ練習頻度を自由に決められるのが馬術部の特徴の一つであり、各々の目的に応じて参加具合を変えられる。大会出場を目標に掲げるのなら、参加日数を増やして多くの練習が必要になる。初心者が大会出場を果たすまではやはり時間がかかるのかと思いきや、実はそうではない。毎年の入部者の中で馬術経験者はほとんどいないが、大会の規模やグレードによっては、未経験者でも入部から半年程度で出場することもあるそうだ。一方で、ただ騎乗や馬との触れ合いを楽しみたければ、参加を週2、3回程度に抑えることも可能。多くの部員が多様な目的で集まっているのである。

 

障害を飛び越える部員と馬(写真は東大馬術部提供)
障害を飛び越える部員と馬(写真は東大馬術部提供)

 

 馬術には、決められた動きを行い、その美しさや正確さを競う馬場馬術、様々な障害を乗り越え、その速さを競う障害馬術、そして馬場馬術と障害馬術に野外走行を加えた3種目を行う総合馬術の3種類がある。その中でも、東大馬術部が力を入れているのは総合馬術だ。大会が近づくと、本番を見据えた練習に変わっていく。障害を出場する競技に合わせ、担当馬との練習も増える。ただ、乗る馬が当日のくじ引きで決まる大会もあり、日頃からさまざまな馬に乗って慣れておくことも欠かせない。「馬に乗れる時間は少ないので、一回一回の騎乗を大切にしていきたいです」と語る池田さんの目標は関東学生馬術大会、そしてその先にある全日本学生馬術大会へ出場し、総合馬術で完走することだ。

 

池田さんと東藍(通称アイコン)
池田さんと東藍(通称アイコン)

 

記者が挑戦 いざ、騎乗体験へ

 

 そんな東大馬術部の活動の一部を、記者が体験した。馬術にはさまざまな競技形式があるが、初心者はいきなり競技に向けた練習はしない。競技練習用の大きな馬場とは別に小さな馬場があり、そこで騎乗に慣れるための練習をする。

 

 その小さな馬場で、活動体験が始まった。馬に乗る前にブーツに履き替え、ヘルメットをかぶり、事故防止のためにエアバッグを身につけ、いざ騎乗。自転車に乗る要領で馬の鞍(くら)に跨(またが)り、手綱を握る。手綱の先には、馬が口にくわえるハミがつながっており、手綱を引っ張るとハミも引っ張られ、馬は苦しくなって止まるという仕組み。この日乗った「コタロウ」はなんと体験の前日に試合に出場したそう。おとなしい性格ながら、素晴らしい才能を見せている。

 

記者の騎乗体験
記者の騎乗体験

 

 まずは常歩(なみあし)を体験。馬の歩法には常歩、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)、襲歩(しゅうほ)の4段階があり、馬術では駈歩まで、競馬では襲歩を使う。一番遅い常歩でも、乗っている人間に伝わる振動はかなりのものだ。速歩になると、乗っているだけで勝手に体が上下に揺れ、遠心力で外側に引っ張られないよう、少し内側に乗る必要がある。速歩の反動による負担を減らすために、「軽速歩(けいはやあし)」という技術が重要で、これは騎手が馬の動きに合わせて鐙(あぶみ)に立つのと鞍に座るのを繰り返すことだ。記者も挑戦してみたが、馬の反動が大きく、なかなか上手くできない。コツは騎手が踵(かかと)を前に出しすぎず、少し前のめりになって思い切り立とうとすることだというが、踵を後ろに引きすぎて前に倒れると落馬してしまうため、体幹を使ってバランスを取る必要がある。これが想像以上の運動量で、太ももに力を入れ、立った状態を継続するだけでも相当な力を使う。初めのうちはこれだけで筋肉痛になってしまうそう。競走馬を引退した馬も多いが、中には競馬で使う襲歩が忘れられず、他の馬を追い抜くときに襲歩で走ってしまう馬もいるのだとか。騎乗体験が終わると、馬の首もとを叩いて感謝を伝え、厩舎へ向かった。

 

 馬場での練習が終わった馬たちは、厩舎の裏でその体を洗う。流水で毛の汚れを落とし、足はタワシを使ってゴシゴシ洗う。足の洗浄も体験したが、タワシでかなり強くこすっても、馬は毛があるのであまり痛くないそう。足の表面を洗ったら、部員の方が馬の足を上げ、蹄鉄の裏まで洗っていた。馬は全体重を支える4本の足が命で、汚れが残るとけがや病気の原因になってしまうため、入念に洗うそうだ。

 

洗浄後のコタロウ
洗浄後のコタロウ

 

 「アットホームな雰囲気の部活で、先輩後輩の仲も良いです。全員初心者ですし、ぜひ気軽に見に来てください」と語る部員も。都会の生活に疲れたら、自然の中での動物との触れ合いを求めて、一度東大馬術部を訪れてみてはどうだろうか。

 

馬の入厩・離厩、そして今年の七大戦は

 

 入厩した馬は、入厩から半年で競技をすることもあれば、1年以上の調教が必要な場合もあり、そこは馬の性格や能力による。ただ、競走馬は0歳からみっちり調教するのに対し、馬場に来る馬は5歳前後で、既にある程度人に慣れている馬が多い。反対に離厩した馬は、年老いた馬がのどかに暮らす養老牧場で余生を過ごすか、年齢や怪我で人を乗せられなくなる前に、競技を離れて一般向けの乗馬クラブに行くそうだ。

 

 第62回全国七大学総合体育大会・馬術の部が、7月8日、9日に開催された。今年は東大が主管校であり、いつも東大馬術部が活動している三鷹馬場が会場となった。馬場馬術と障害馬術の2種目が行われ、乗馬体験で乗ったコタロウも試合に出場。東大馬術部は東北大、京大と大接戦を繰り広げ、2位の好成績を残した。

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