インタビュー

2022年11月20日

「読書」と「議論」  知の基盤作った学生時代 五百旗頭薫教授インタビュー 【後編】

 

 東大で歴史・政治の研究をする五百旗頭薫教授(東大大学院法学政治学研究科)。のちに伝説となった駒場祭での弁論部の企画や、東大で教授になった経緯、監修として携わった『角川まんが学習シリーズ日本の歴史16多様化する社会』(KADOKAWA)についてなど、東大で過ごした人生の節目における決断と気付きを聞いた。(取材・松本雄大)

 

【前編はこちら】

【前編】「読書」と「議論」  知の基盤作った学生時代 五百旗頭薫教授インタビュー

 

エヴァンゲリオンと明治

 

━━なぜ研究者の道を選んだのですか

 

 就職活動に出遅れたというのが理由です(汗)。本郷に移ってもあまり授業に出ていなかったのですが、いくつかは受けている授業があって。その一つで尊敬していた日本政治外交史の三谷太一郎先生のところに行って学者になりたいと伝えました。駒場祭のほろ苦い思い出からも社会に対して自分は不器用だと感じていたからこそ、もう研究の道しかないという思いがありましたね。

 

━━経歴には学士助手だった時代があります

 

 ざっくりいうと教える義務もないが教わる義務もない、研究をすれば良い立場です。ある種何もしなくて良い中で、論文がはかどらず大変でした。専門の明治時代の研究に面白みが見出せなくなったんです。プロレタリアとブルジョワのように出自や主義・主張が異なる人たちの革命をかけた争いなら面白いと思いますが、大して理想や理念の違いがないのに争っている時代の研究をする意義が分からなくなってしまい。しかし論文が書けなくて引きこもっていた時に後輩から『エヴァンゲリオン』のDVDをもらって、それを見ているうちに書けるような気がしてきました。

 

━━アニメにインスピレーションを受けたのですか!

 

 日本の漫画やアニメはすごくて、私は多くのことをそこから教わっています。車の知識なんて、『頭文字D』を超えたことがないですよ。

 

 『エヴァンゲリオン』では使徒が地球に攻めてきて、人間がエヴァンゲリオンに乗って撃退します。でもエヴァンゲリオンはガンダムみたいな超合金ロボットではありません。パイロットである人間同様に生物としての側面もあって、実は侵略している使徒もエヴァンゲリオンと似たような存在だったりするんです。争っている両者は一見すると異質なようですが、実は似たような性質のものが引かれあっているだけ。もしかしたら世の中もそんなものかと思いました。完全に異質ならすみ分けられるのかもしれないが、性質が似ているせいで争ってしまう。そしてそういう戦いの方が真剣勝負なのではないかと。

 

 政治も同様です。微妙な点を争っているようで、小さな違いをあえて大きく見せて選択肢として国民に提示することこそが政治の機能なのかなと考えました。だいたい似たような考えだから仲良くしようというのでは、気付かないうちに生まれた違いが蓄積していつか大爆発するかもしれない。違いが小さいうちに言葉で明晰(めいせき)にして人々に選ばせ、決着をつける。それを繰り返すことで大きな対立となる前に社会のストレスを発散させる。それが政治の大事な機能だと思います。

 

  明治時代も似たようなことを実際にやっています。伊藤博文を中心とした藩閥政府に繰り返し突撃する大隈重信という構図ですが、伊藤博文は山口出身の下級武士で大隈重信は佐賀出身の下級武士。理想としている国家像も似ている二人が東京に出てきて権力闘争をするんです。大隈は伊藤の政府から追い出された後も、里帰りをするかのように伊藤に挑戦します。

 

    主張が同じだと認めると突撃する理由がなくなるので、あえて細かな違いを明確にして国民に選ばせる。その手段だと考えれば、明治時代の闘争はものすごく意義深いと思えました。当時の世界も冷戦終結後、共産主義対自由主義というイデオロギーの対立が消失し、自由民主主義の中で小さな違いを増幅させて国民に選ばせていく政治が求められていました。日本でも政治改革のために細川護煕政権などの非自民党政権が誕生した頃で、やっと明治維新の研究に現代的意味があることも分かったんです。

 

箱根芦ノ湖の遊覧船乗り場で『エヴァンゲリオン』の渚カヲルと手を繋ぐ(画像は五百旗頭教授提供)

 

漫画から得た気づき

 

━━最近力を入れて行っている活動はありますか

 

 学問的な業績にはならないのですが、KADOKAWAから出版した学習漫画『日本の歴史』の監修です。前から歴史を漫画で表現したいと考えており、二つ返事で引き受けました。かなり今の自分を注ぎ込んだものとなっています。今年の10月13日に刊行されたばかりで、内容としては東日本大震災から安倍晋三元首相の銃撃事件までが収録されています。

 

 現代史を扱うのってすごく難しくて、何が重要かまだ分からないから、大きな取りこぼしがないようにいろいろと要素を詰め込みたくなるんです。でもそれって漫画としてはつまらないんですよね。漫画に詰め込める情報量になるまでテーマを絞った上で、一つ一つのテーマは臨場感が出るように描く。一番大事で一番面白いストーリーにテーマを絞り込んでいく作業をこの漫画では丁寧に行いました。

 

 今まで自分が関わった中で一番人に読まれるものになる気がしています。駒場祭で持ちかけた社会との接点をほろ苦い失敗で失って以来、社会と距離をとっていたのですが、ようやく社会に恩返しができたのではないかと思います。

 

五百旗頭薫(監修)『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 16 多様化する社会 平成時代〜令和』、KADOKAWA、税込み935 円

 

━━漫画の監修をしていて気付いたことはありますか

 

 一番面白かったのは構成の作り方です。論文では一つのテーマで一通り経緯を書き、また別のテーマで一通り経緯を書いて、それらの論理的な連関を序論や小括や結論で示すのが普通です。当初は漫画も同じように考えていて、例えば安倍政権の内政面を2章で、外交面を3章で書くみたいな形で書き分けようとしたのですが、それはやってはいけないと言われたんですね。漫画とは時系列に沿って書くのだと。時系列に沿って書く歴史はテーマが次々と移り変わるものになります。それが、展開の変化を求められる漫画にはピッタリなんだそうです。つい構成を工夫したくなるけれど、厳密な編年体を取ることでむしろエンターテインメントが成立するというのは携わって初めて気付けた面白さだと思います。

 

━━最後に東大生や駒場祭に来場する受験生にメッセージをお願いします

 

 優秀な人たちが集まってくる東大の学生生活はすごく楽しいよと伝えたいですね。授業に熱心でなかった学生時代を思い出すにつけても、大切なのは年や境遇の似た学生たちがぶつかって高め合うことなのだと思っています。たまには授業をさぼってもいいから多くの友達と話してください。そうして話していく中で「自分よりも物知りでいいな、かっこいいな」と思う人がいたら、その人に追い付いて追い越すために自分で本を探して読む。そういうことを繰り返す大学生活を送ってほしいと思います。

 

 その一方で、私のまぶたには常に授業を受けずに図書館に行っていた過去の自分が映っています。あの頃の自分を振り向かせられるような授業を心掛けているので、気分転換くらいの気持ちで授業を受けに来てもらえればうれしいです。

 

五百旗頭薫(いおきべ・かおる)教授 96年東大法学部卒。東大法学部助手を経て、01年東京都立大学助教授(当時)。07年東大社会科学研究所准教授。11年博士(法学)取得。 14年より現職。

 

【前編】

【前編】「読書」と「議論」  知の基盤作った学生時代 五百旗頭薫教授インタビュー

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