
東大に進学すると、新たな外国語に触れる。前期課程では、中国語・韓国朝鮮語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・スペイン語・イタリア語の中から一つを選び、1年間必修で授業を受けることになる。どの言語を選んでも、その先に待っているのは新しい世界との出会いだ。もちろん、興味があれば初修外国語に加え第三外国語としてアラビア語・ラテン語・ベトナム語……世界中のたくさんの言語の授業を選択できる。後期課程や大学院へ進んでも、意欲があれば「上級」の授業が受けられるほか、大学の支援が受けられる留学プログラムも多数ある。東大に天井はない。今回は教養学部で初修外国語の授業を受け持つ教員に、各言語の魅力を寄稿してもらった。(構成・溝口慶)
ドイツ語 使い込むほど馴染むドイツ語
Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiß nichts von seiner eigenen.
外国語を知らぬ者は、自分の言葉についても何も知らない。(ゲーテ)
新しい言葉を学ぶことは、知らなかった自分と出会うこと。ドイツ語は、その出会いをゆっくりと深めてくれる。文章を組み立てるうちに、思考が形をとり、これまでと少し違う角度から世界が見えてくる。
ドイツ語というと、堅くて難しそう、という印象を持つかもしれない。けれど実際には、理屈っぽさの中にユーモアがある。文の構造はかっちりしているのに、見かけよりもずっと柔軟で融通が利く。
ラミーのペン、モンブランの万年筆、ツァイスのレンズ、ライカのカメラ。それも精巧で、使うほど手にしっくり馴染む。ドイツ語もそれと同じ、文法構造は整っているのに、使う人の個性が活きて、表情が生まれる。考えることと感じることを、自然に結びつけてくれる。
しかもドイツ語は多彩だ。ドイツのドイツ語は、生真面目すぎて、思わずクスッと笑ってしまうことも。オーストリアのドイツ語は、ウィーンのカフェで流れるワルツのよう。スイスのドイツ語には、大自然に溶け込むまろやかさがある。同じ言葉なのに、響きもリズムも少しずつ違う。けれどどれも温かく誠実で、心地よい。
バッハの構築の美、ベートーヴェンの粘り強さ、モーツァルトの軽やかなユーモア。彼らの音楽のように、ドイツ語には秩序と自由が共存する。その精神は、建築やデザイン、科学や哲学など、ドイツの「考える文化」にも通じる。
いま、ドイツ語圏では日本語を学ぶ学生が増えている。アニメのセリフを理解したい、そんな小さな動機から始めて、言葉を通して世界を知る楽しさに気づくのだ。私たちもドイツ語を通して、まだ知らない世界に出会える。希望者にはインテンシヴコースでより実践的に学び、ドイツでの研修に参加するチャンスもある。ドイツ語はきっと、新しい扉を開く鍵になる。
(石原あえか・総合文化研究科教授)
履修者の声
高校で勉強していた世界史の授業でドイツ史が面白かったため履修。にぎやかな雰囲気がありつつも、授業に真面目に出る人は他クラスより多い印象。「英語と似ていて楽そうだから」と選択する人も見かけますが、確かに英語と似た単語も多い一方、名詞の性や格変化など、初めのうちは英語に無い要素に苦戦するので、慣れるまではこまめな勉強が重要です。入学後にドイツにある研究所に興味が湧いたので、将来の留学のことなどを考えても、ドイツ語を選択して良かったと感じています。
(理・3年)
韓国朝鮮語 似ているだけでは終わらない韓国朝鮮語
변화는 두렵지만, 그 두려움을 넘어설 때우리는 진정한 성장을 경험한다.
変化は恐ろしいが、その恐ろしさを超えるとき我々は真正な成長を経験する。(ハン・ガン『別れを告げない』より)
韓国朝鮮語は日本にもっとも近い隣国で使用されている言語です。朝鮮半島には、北に朝鮮民主主義人民共和国と南に大韓民国の二つの国家が存在しており、正書法が異なるなど差異はありますが、北と南で使われていることばは同じものです。
ところで、この「韓国朝鮮語」という科目名ですが、他の大学では「朝鮮語」「韓国語」「コリア語」などの異なる科目名が使われています。またNHKの語学講座の名称は、「ドイツ語講座」「フランス語講座」など、国名を冠していますが、「韓国朝鮮語」だけは「ハングル講座」という文字名を冠した名称になっています。これは、歴史的・政治的な理由によるものです。
一方、「ハングル」は15世紀に製作されました。朝鮮半島は漢字文化圏に属しますが、北ではいち早くハングル専用となり、現在では南でも漢字を使うことはあまりありません。そのため、仮名と漢字・ローマ字を学んできた人からすると、学ぶのが難しいのではないかと思うかもしれませんが、初修韓国朝鮮語の授業では、初めの数回で個々の文字の音がわかるようになります。
また、韓国朝鮮語の文法は日本語のそれとよく似ており、語彙も日本語と共通の漢字語が多くあります。そのため、論説文の読解に関しては、初修外国語として1年学習すれば、辞書を片手にかなりの部分、理解することができるようになります。
もっとも、文法的によく似ていても、日本語母語話者には難しい発音があります。また日本語とは異なることばである以上、実際に聞いたり話したりするためには、多くの努力が必要です。そのため、初修韓国朝鮮語では、文系の学生は文法を中心とした一列・二列の授業とともに、演習でネイティヴ・スピーカーの教員による授業を履修します。また文理を問わず、集中的に学びたい人のための[高度]科目、また実践的な能力を培うための作文・会話・表現練習・読解などの科目を用意しています。現地研修などの国際研修の科目も開講する予定です。
(月脚達彦・総合文化研究科教授)
履修者の声
春休みの韓国旅行でモチベーションが高まっていたため専願しました。クラスが60人(!)と大所帯なので、授業では文Ⅰ・Ⅱと文Ⅲの2グループに分かれます。明るく社交的な人が多いですが、K-POPオタクは意外と少ない印象です。言語学習の面では、ハングル自体はすぐ読めるようになります。私は複雑な発音規則に翻弄されていますが、地道な学習がモノを言うと思います。
(文Ⅰ・1年)
イタリア語 2000年の知と美の宝庫
Considerate la vostra semenza: fatti non foste a viver come bruti, ma per seguir virtute e canoscenza.
諸君の生まれを考えてみよ。獣のごとく生きるために君らは造られてはない。徳と知を追求するために造られたのだ。(ダンテ・アリギエーリ『神曲』より)
ローマ帝国の時代からヨーロッパ文化の中核を担ってきたイタリアには、多くの文化的遺産があります。古代ローマから続く長い歴史、ローマ法、キリスト教の思想と文化、ルネサンス美術、オペラやクラシック音楽など枚挙にいとまがありません。そしてイタリアは今日なお、さまざまな分野で世界が注目する「知」と「美」を生み出し続けています。
そのため、言葉を知らないとアクセスできない情報を得ようとイタリア語を学ぶ人は多いのです。つづりが規則的で読みやすいこと、言葉の響きが美しいことも人気を後押ししているでしょう。さらに、風光明媚かつ文化遺産と芸術と食の宝庫ともいえるイタリアは、五感と知性を刺激してくれる、語学留学するのにも楽しい場所です。
駒場では、1年次に現代語の文法一通りを学習し、1年生の終わりには文章が読めるようになります。イタリア語は現代語と古い時代の言葉との隔たりが小さいので、駒場で1年間頑張れば、ダンテやボッカッチョといった古典作家の文章もなんとか読解できるようになるでしょう。また、まだ日本に紹介されていない魅力的な文学作品が数多くありますが、それらを原語で読めるのもイタリア語を学ぶ楽しみのひとつです。
ネイティブの先生方の授業が豊富に用意されているのも駒場のイタリア語教育の特徴です。日本語を介さずにイタリア語やイタリア文化を学ぶクラスもありますよ。より集中的に学びたい人にはインテンシブコースも開講されています。また、ペルージャ外国人大学へ語学留学したり、トリノ大学での語学研修プログラムに参加したりするチャンスもあります。
イタリア語を学習することは、2000年以上にわたって培われてきたイタリアの「徳」や「知」と出会うことを意味しています。この出会いは皆さんの視野を広げ、その後の人生の宝となることでしょう。駒場でイタリア語を学んでみませんか。
(藤崎衛・総合文化研究科教授)
履修者の声
高校時代に興味を持ったラテン語に近い言語ということでイタリア語を選択。クラスは落ちついた人が多いながらも、五月祭や駒場祭では結束して企画を盛り上げようという雰囲気があります。真面目な人が多く、必修の授業の出席率は高いです。
文法事項は日本語にはない概念が多くやや戸惑うことがありますが、発音や単語の活用が明快なので学習の負担はそこまで大きくないと感じています。何より、イタリア語で学んだ文法事項はラテン語の学習に大きく生きるので、選択して良かったと思っています。
(文Ⅰ・2年)











