教養

2020年10月20日

コロナ禍での災害対応を考えよう

 地震や台風など、大規模な災害が日本各地に被害を及ぼす昨今。首都圏にも甚大な被害をもたらした昨年の台風15号・19号は記憶に新しいだろう。さらに今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、災害が発生した場合例年以上に混乱することが予想される。そこで今回は、首都圏での災害に際し学生が意識すべきことについて専門家に話を聞いた。

(取材・杉田英輝)

 

写真はイメージです。

 

被災想定し入念な準備を

 

 大規模な災害が発生する前に準備すべきことは何か。都市防災などを研究する廣井悠准教授(東大工学系研究科)は、首都圏で想定される災害として地震と風水害を例に説明する。まず地震はいつ発生するか分からないため、家具の耐震性強化や配置の工夫が重要だ。「家具を壁に固定し、たんすなどの下に耐震マットを敷きましょう。速やかに逃げるには、出入り口付近に家具を置かないことも大切です。その他に準備すべきことを知りたい際には、例えば東京都の『東京防災』というマニュアルがお薦めです」。若年層も建物倒壊や家具転倒の影響を軽視すべきではない、と廣井准教授。例えば阪神・淡路大震災では、死亡した男性の数を年齢ごとに集計してグラフ化すると、20代前半でも山が見られるという。「若い男性の場合、木造アパートの1階に住み、揺れで家屋や家具が倒壊して死亡したケースが多いと考えられます」

 

 一方風水害の場合、自分がいつ被災する可能性があるかをある程度予測できる。そのため、食糧や防災用品などを計画的に備蓄したり、ハザードマップで避難経路を確認したりするなど、入念な準備が重要だ。ただし自治体のハザードマップは、洪水や土砂災害など災害の種類ごとに別々に作成され、どの場所が安全か危険かを一元的に確認するには向かないことがあるという。そこで、廣井准教授は国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp)を推奨。日本地図上にハザードマップを投影する機能があるため、学校や勤務先が居住地と離れていても移動中の被災を想定するなどの際に有益だという。「ただし自分の家や学校というピンポイントの危険性のみならず、避難の途中で危険な目に遭うことも考えられます。そのため、最低限自分の住んでいる場所については、ハザードマップを参照して安全な避難や防災を意識しながら町を歩いてみると良いかもしれません」

 

 災害が発生した後にはどのような行動を取れば良いだろうか。特に首都圏では帰宅困難者の発生が問題だ。廣井准教授は、大学や勤務先にとどまるよう訴える。「自分の身を守るためだけでなく、他者の命を助けるという意味でも『帰らない』という選択肢を持ってほしいです。例えば発災後に大勢が急に駅に押し掛けると、群衆なだれや将棋倒しで死傷するリスクがあります」。東大の場合、駒場Ⅰキャンパスも本郷キャンパスも東京都により広域避難場所に指定されているため、安全な環境でとどまることは比較的可能であると考えられる。「ここで、家族の安否確認が重要になります。帰宅前に家族の安全を確かめられれば、自分が帰宅する必要性が下がり、安心して外にとどまることができるからです。安否確認の方法や手順について事前に家族と共有すると良いでしょう」。しかし一人暮らしの学生は、災害が落ち着いた後であれば、可能なら実家に帰るのも手だという。「仮に首都直下型地震で大きな被害が起きると、都内の賃貸住宅が不足する可能性もあります。無理して避難所にずっととどまるよりも、実家を頼れる状況なら頼って良いと思います」

 

 情報の混乱が予想される発災後の情報収集では何を意識するべきか。「災害時のSNSは『地震怖い』などの感情をはじめ多量の投稿が流通し、自治体の災害対応や支援を求める情報などの重要な情報が埋もれる上、事実確認が困難なため流言が広がりやすくなります。かなりの確率で間違った情報が流通するという前提の下、真偽不明な情報を安易に信じ込まないようにしましょう」。より正確な情報を入手するには、複数の情報収集手段を持つと良い。廣井准教授は、自治体のSNSアカウントや防災ラジオを推奨。「いざ災害に遭うと冷静に行動できなくなると想定し、できる限りの準備をしましょう」

 

 過去の風水害では、いったん避難をしても途中で帰宅してしまう人もいる。例えば水害の場合、雨が止んでも時間差で増水したり土砂災害が起きたりする可能性もある。地震の場合も揺れが収まった後に火災が発生することが考えられる。「大規模災害時は、一つのリスクがなくなっても別のリスクがあることを念頭に行動選択すべきです。ただ最終的には個々人の判断に委ねられます」

 

 

廣井 悠(ひろい ゆう)准教授(東京大学工学系研究科) 07年東大工学系研究科博士課程中退。博士(工学)。名古屋大学減災連携研究センター准教授などを経て16年より現職。

 

コロナ禍で変わる避難行動

 

 仮にCOVID-19流行下で首都圏で大規模な災害が発生した場合、どのような影響が生じるだろうか。松尾一郎客員教授(東大情報学環総合防災情報研究センター)は、社会の変化に伴い、避難行動の在り方も変わったと主張。「以前は『密な防災』でしたが、コロナ禍以降は『フィジカルディスタンスに配慮した防災』が求められます」。しかし現状の首都圏では、COVID-19流行下での災害に十分には対応できないという。例えば首都直下地震の場合、政府は最大720万人の避難者が発生すると予測。「全員が避難所に避難すると仮定すると、現状のように1人1畳程度のスペースではクラスターが発生するでしょう。逆に十分にスペースを確保するには、今の約3倍の避難所が必要です」。被災者全員が避難所に入れるわけではないことを想定する必要があるだろう。

 

 それでは適切な避難行動とは何か。松尾客員教授は、感染拡大防止のために在宅避難や親戚・知人宅などへの避難も選択肢に加えるよう推奨する「分散避難」に言及。「避難とは安全な場所に逃げることであり、避難所に逃げることではありません。個人的には、学生は地元の住民が利用する指定避難所ではなく大学で受け入れるようにしてもらえればいいと思いますね」。加えて「タイムライン」という考え方も重視(図)。タイムラインは、学校の時間割のように、発災前・発災時・発災後など各段階で誰がどのような行動を取るかを定めた計画表のこと。自分や家族の安全のために必要な行動を時系列で整理することができるという。

 

(図)台風を想定したタイムラインの一例(NPO法人環境防災総合政策研究機構ホームページより)

 

 松尾客員教授は一方で、支援者としての学生の役割にも期待を寄せる。一般的に、避難所の環境整備で重要な要素としてトイレ・食事・寝具がある。このうち食事の提供は学生が担うこともできるという。「被害の状況にもよりますが、タイムライン的に考えれば避難所に避難して2日目にはボランティアとして活動可能でしょう。自分の命を守るのが最優先ですが、自分が避難者ならどのような支援が欲しいかという視点を持ち、利他的に行動してもらいたいですね」

 

松尾 一郎(まつお いちろう)客員教授(東京大学情報学環総合防災情報研究センター) 16年北海道大学大学院博士課程単位取得退学。19年より現職。NPO法人環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所副所長を兼任。

この記事は2020年10月13日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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