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2021年12月26日

【東大の1年を振り返る】コロナ2年目の東大② 藤井新総長就任 新体制の1年間をまとめる

 

 

 2021年、東大新聞オンラインでは報道特集を含め約200本のニュースを公開してきた。東大新聞では、4月に就任した藤井輝夫新総長の動きについて繰り返し追ってきた。ここでは「対話」を重要視する新総長の動きをまとめ、中でも新総長の体制で重要なテーマであった社会連携とダイバーシティについて、具体的なイベントや施策を紹介する。(構成・池見嘉納)

 

 

【総長】藤井新総長「対話」の1年

 

5月17日、就任会見を行う藤井総長(撮影・東京大学新聞社)

 

 先行きの見えないウィズ・コロナ時代の21年4月に就任した藤井輝夫総長。不透明な東大総長選考プロセスへの批判、就任直後の新型コロナウイルス感染など、波乱のスタートを切った。

 

 藤井総長は就任直前のインタビューで「対話と共感」を重視すると発言した。「未知なるものと向き合う実践」として立場や価値観の異なる人々との間で「対話」を行う。

 

 「対話」に関する具体的な取り組みとして、教職員・学生との「総長対話」をUTokyo Compass発表までに日本語・英語で18回にわたり開催。8、9月に開催された学部・大学院生対象のZoomでの対話では、学生らとコロナ禍での講義や課外活動の在り方などにおける意見を共有した。総長は「学生の視点や経験に基づいた意見を知ることができた」と感想を述べ、総長対話で寄せられた質問を大学側で共有すると約束した。また、経営協議会では学校経営の方針における学外の意見を聞き「対話」の姿勢を強調した。

 

 「世界の誰もが来たくなる大学」にも注力。施設・設備の充実だけでなく、学内関係者の多様化、教育・研究・雇用システムの整備、そして大学運営のデジタル化を目指す。その上で、東大の魅力を世界に発信していく予定だという。

 

 10月には、任期中の行動指針「UTokyo Compass」を発表。「多様性の海へ:対話が創造する未来」をテーマとし「対話から創造へ」「多様性と包摂性」「世界の誰もが来たくなる大学」の基本理念を実現するため具体的な方針が定められた。「可能な限り対話を取り入れた」と語る総長。「自律的で創造的な大学モデル」を構築するために経営面への注力や法定基金の創出が発表された他、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ダイバーシティ&インクルージョンなどに注力することが発表された。

 

 UTokyo Compass発表後は、10月31日からのCOP26の開催もあって環境問題に関連した動きがあった。脱炭素キャンペーン「Race to Zero」への参加や、脱炭素を目指す産学協創プラットフォームETI-CGCの設立など、UTokyo CompassでGXの具体的な方針して挙げられていたものの一部が実現された。

 

 総長就任後初となる年明けを迎える、2022年。新体制は今後どういった施策を打ち出し、実行するのか。また、学生や社会との「対話」がどのように施策に反映されるのかが注目される。

 

 

【社会連携】吉本、新宮市、クボタなど幅広い連携

 

 東大は今年、多分野の企業、自治体、国際機関などと協定を結び、共同の研究や講座開設も進めた。UTokyo Compassの20個の目標の一つにも「産学協創による価値創造」が盛り込まれ、GX、DXに活用される先端研究領域などで年間200億円以上の共同研究を実施するとしている。五神真前総長のビジョンを継承した形だ。

 

 3月に吉本興行と「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」を開始。学術とエンターテインメントの積極的な対話、協働から、持続可能な新しい価値の創出と未来への提言を目指すとしている。同17日には人文社会科学資産活用戦略担当を務めていた佐藤健二大学執行役・副学長(人文社会系研究科教授)とお笑い芸人で作家の又吉直樹さんが「言葉力」をテーマに対談した。

 

又吉さん(左)と佐藤執行役・副学長。言葉がもつ力や使われ方について対談した

 

 3月22日には人文社会系研究科と和歌山県新宮市が連携協定を締結。6月1日には東大と日本貿易振興機構(ジェトロ)の包括的連携推進協定、7月2日には未来ビジョン研究センターと国際連合工業開発機関(UNIDO)の国際交流協定の締結が発表された。地域社会連携が期待される協定やスタートアップ創出、グローバルイシュー解決を目指した協定が結ばれた。

 

 KDDIや松尾研究所ら4社を寄付企業として迎えた「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」の開設も8月19日に発表された。著名起業家や寄付企業による講義や、ダイキン工業などの事業会社の社員と学生が合同で行うフィールドワークを通じ、起業家創出の加速を目指す。講座は10月7日から開始。A1、A2タームでは、東大生から163人、社会人・一般、他教育機関学生から100人の応募があった。

 

 11月30日には株式会社クボタと産学協創協定を締結すると発表。食料・水・環境分野での共同研究に加え、クボタから東大生へグローバルインターンシップ、東大からクボタ社員へ教育の機会を提供するとしている。

 

 東大は産学協創協定を9社と提携していて(12月9日現在)、協働も進んだ。「呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイド」を、それぞれ協定を結んでいるダイキン工業、日本ペイントホールディングスと連名で10月12日に発表。3者による産学協創の成果として、感染リスク低減に対する考え方と実証結果を示し、呼吸器のウイルス感染リスク対策の手段を工学的手法に基づいて提供した。

 

 

【ダイバーシティ】学ぶ機会を複数提供 関連組織統合の方針も

 

 ユーキャンの新語・流行語大賞で「ジェンダー平等」がトップテンに選ばれたように、今年は社会のさまざまな面でダイバーシティが話題となった。東大でも、多様な属性をもった人々が所属していることを表すダイバーシティ、そして多様な人々が尊重され、活躍の場が与えられていることを表すインクルージョンに関連して大きな変化が見られた。

 

 3月10日の前期合格発表では合格者のうち女性の割合が過去最高の21.1%となった。一方で濱田純一元総長が2010年に示した行動指針「行動シナリオFOREST2015」で掲げられた「20年までに女性比率30%」には及ばなかった。

 

 4月に着任した藤井総長は、就任前のインタビューで「ジェンダーを含めたダイバーシティは非常に重要で、多様な視点を持つ人たちが1カ所にいることはより高いレベルのアウトプットにつながります」と話している。

 

 ダイバーシティ関連の教育として、7月26日に前期教養課程の学生向けに動画教材が公開された。前期教養課程ではジェンダー論について二つの授業が新設され、大学院教育学研究科からは学内外の大学生を対象に「『市民的教養のためのダイバーシティ・インクルージョン』プログラム」が開設されるなど、ダイバーシティについて学ぶ機会が複数提供された。

 

前期教養課程生向けの動画教材

 

 UTokyo Compassでは、「ダイバーシティ研究・教育推進機構(仮称)」を設置して研究・教育および対外的な発信を推進すること、ダイバーシティ&インクルージョン宣言を策定すること、男女共同参画室をはじめとする関係各所を統合して「インクルーシブキャンパス推進本部(仮称)」を設置することなどが示された。数値目標としては「新たに採用する研究者のうち女性の割合を30%以上」「教員における女性比率を25%以上」「学生における女性比率30%」「教職員の女性管理職の割合を25%に向上」などが掲げられた。ジェンダー関連以外では、多言語対応や環境調整を担う教職員の人員の強化、年10件の施設のバリアフリー化、障害のある教職員の就労支援や雇用創出、相談支援体制の拡充などが示された。

 

 海外の留学生にも、11月25日には留学生の入国制限緩和、12月1日には新規入国停止を受けて総長メッセージを発表。受け入れに向け準備しているとした。

 

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