インタビュー

2020年12月10日

個人の強み生かした活躍を はやぶさ2プロジェクトマネージャに聞く宇宙開発の未来

 12月6日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還する。しかし、はやぶさ2のプロジェクトマネージャを務める津田雄一教授(JAXA宇宙科学研究所、以下「宇宙研」)は、早くも次の目標を見据えていた。航空宇宙工学を専攻する久保勇貴さん(工学系・博士2年)と、宇宙医学に関心のある学生のコミュニティー「Space Medicine Japan Youth Community」に携わる石橋拓真さん(医・4年)を交え、宇宙開発の未来に迫る。

(構成・小田泰成)(取材は9月初めにオンラインで実施されました)

 

左上から時計回りに津田教授、久保さん、石橋さん

 

次の目的地は高速自転する小惑星

 

小田 このインタビューが公開される頃には、はやぶさ2は無事地球に帰還していると思います。帰還に向けた終盤の山場はどこですか。

 

津田 現在は、イオンエンジンを使った運転はほぼ終わって、惰性で飛んで行っても地球のすぐ近くにたどり着ける状況です。でもそれだけではダメで、オーストラリア大陸のウーメラ砂漠のある1点を狙って探査機を誘導しなければいけません。そのために10月初めから計5回、RCS(化学エンジン)を使って軌道修正を実施します。中でも4回目の軌道修正では、地球に帰還する約12時間前にカプセルを探査機から分離する予定で、一番の山場です。

 

地球に帰還し、再突入カプセルを切り離した、はやぶさ2のイメージ図 (C)JAXA

 

久保 自分も学生として宇宙研の運用を手伝っていますが、今の話を聞くだけでもピリピリしてきました。先生も周りのメンバーもドキドキしているかと思いますが、どのようにチームをマネジメントしていくつもりですか。

 

津田 技術者としては、できるだけドキドキしないようにしなくてはいけないんですよね。現在は事前にいろいろな設定を書き込んで、本体を使ってリエントリー(大気圏再突入)する訓練をしています。訓練を繰り返すと、メンバーも慣れてきて、当日臨機応変に対応できるようになります。最後の決定的瞬間に正しい決断ができるようにするのがリーダーの仕事です。「あんなこと言ってたのに失敗しやがった」とならないようにしないといけませんからね。

 

リエントリー最終誘導の運用計画 (C)JAXA

 

久保 若者としては、今後自分がより深く携わるかもしれない、はやぶさ2の後期運用(拡張ミッション)や新しい宇宙探査機にも注目しています。はじめに、後期運用の狙いについて教えてください。

 

津田 はやぶさ2はカプセルを分離した後、地球重力圏を脱出して、太陽系空間に戻ります。イオンエンジンの燃料は半分くらい残っているので、軌道制御も可能です。今は、2030年ごろに別の小惑星にたどり着くシナリオを二つ提案していて、この記事が出る頃にはどちらのシナリオになるか決まっていると思います(編集注:9月15日、次の目標となる小惑星は1998 KY 26だと発表された)。10年後なので、皆さんもプロジェクトに関わることになるかもしれませんね。

 

石橋 はやぶさ2が打ち上がってから帰還するまでの間は約6年でしたが、追加のミッションの方が長期間になるのですね。

 

津田 まず、はやぶさ2は、カプセルをリエントリーさせる軌道から出発しなくてはいけないので、新たな行き先の選択肢がとても限られています。他にもさまざまな条件を考慮しなければならず、小惑星100万個を全部調べて、やっと二つ見つけました。だけど、たまたま見つけた二つがすごく面白い小惑星で、直径約40メートルと小さく、10分に1周のペースで自転しているんです。例えば地球は、自転している状態だと赤道付近が秒速400メートル。遠心力が大きくなるので、赤道付近で体重計に乗ると実際より軽い数字が表示されます。高速自転の小惑星では、重力より遠心力が大きいので、立っていられないはずです。きっと表面には砂はないでしょう。

 

久保 10年後、小惑星が高速自転している姿を見てみたいですね。昨年、はやぶさ2がリュウグウにタッチダウン(着陸)した映像に感動したのを思い出しました。誰も見たことがないものを、工学が作り出している光景で、まさに人類の文化を新しく広げている瞬間なんだと。

 

津田 誰もあんな風になるとは想像していなくて、僕らは着陸した日の夜、その瞬間の映像を繰り返し見ながらお酒を飲みました(笑)。いくらでも見ていられましたね。

 

2019年2月22日に、はやぶさ2が小惑星リュウグウに第1回目タッチダウンした際の動画 (C)JAXA

 

「はやぶさ3」では生命のいる星へ?

 

石橋 仮に、はやぶさ3のプロジェクトが立ち上がった時に、引き続き津田さんが深宇宙探査をやるとしたら、希望する行き先やミッションはありますか。

 

津田 エンジニアとしては、今まで誰もたどり着けていない所を攻めたいです。火星と木星の間には小惑星帯という小惑星の密集地帯があり、片道探査は米国航空宇宙局(NASA)が実現していますが、往復探査は誰もやっていません。木星より先にある別の小惑星帯も狙えると思っています。ただし、小惑星探査だけをやりたいわけではありません。今、宇宙科学でホットなのは、海や熱源を持っているような、生命と関わり得る星。木星の衛星であるイオやエウロパ、土星の衛星であるエンケラドスやタイタンは、生命がいるんじゃないかと言われています。そうした星に行く探査機は現状存在せず、最近NASAが計画を立て始めたくらい。日本も技術は持っているので、攻められたらいいなと思っています。

 

石橋 衛星探査はNASAがやっている印象が強かったんですが、日本でも出てくるかもしれないと思うとワクワクします。

 

津田 NASAはすごいですね。日本と決定的に違うところがいくつかあって、とても追い付けないところもあります。ただし「資金が豊富な米国がやるなら、日本はやらなくていい」という考え方は違うと思っています。はやぶさ2の(サンプル回収などの)最先端の技術を使って、日本ならではの宇宙開発を実現できるといいですね。

 

久保 津田先生はIKAROS(太陽光圧を利用した帆での宇宙空間の航行と、薄膜太陽電池による発電の実証機で、多くの技術がはやぶさ2に受け継がれた)でソーラーセイルにも携わっていました。しかし、以降のソーラーセイル技術の発展は足踏みしている印象を受けます。個人的には、ソーラーセイルのような日本のとがっている部分をもっと推進した方が良いと思うのですが、難しいのでしょうか。

 

小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」のイメージ (C)JAXA

 

津田 少なくとも3~5年に一度くらい大きなミッションが打ち上がると良いですね。深宇宙探査は、今は10年に1回くらいしか打ち上がらないので、若者が入ってきづらいです。僕はタイミングが合っていたから、はやぶさにもIKAROSにもはやぶさ2にも関われましたが、少しタイミングがずれると全然違うことになる。資金面などを何とかしたいですね。

 

活躍の機会が増える社会を

 

石橋 今、日本では民間の宇宙開発が盛り上がってきています。もしミッションがひと段落して、次はどうしようかと考えている時に、そうした民間企業からオファーが来たら、内容によっては飛び込みますか。

 

津田 面白かったら行きますよ(笑)。

 

久保 自分のプロジェクトに引き抜こうとしているの?(笑)

 

津田 米国は人の流動性がすごいですね。宇宙開発はNASAでなくてもできる。何か成果を上げると、思わぬ組織がそれを見ていて「うちで専門性を生かしてくれ」と誘われる、という話がよくあります。あのダイナミズムはすごくうらやましいです。

 

石橋 まさに、日本でもどこかのベンチャーがJAXAの人材を引き抜くなどしたら、盛り上がると思いました。

 

久保 やはり、これからは宇宙に関しても、スキルベースになるんでしょうか。「宇宙をやるなら航空宇宙工学科に入らなければいけない」ということではなく、とがったスキルがあれば「そのスキルをうちの会社で宇宙に生かしてよ」ということになるんでしょうか。個人的には、学生は早くから宇宙を突き詰めなくても、好きなことを突き詰めればそのうち宇宙にたどり着くようになるのだろうなと思っています。

 

津田 そう思います。まさにスキルベース。就職してから死ぬまで宇宙一辺倒ではないかもしれませんが、とがったことを持ってさえいれば、どんなところでも活躍できると思います。ただ、日本社会全体が果たしてそうなるのか。そうなってきている気はしますが、現状、人の流動性はそこまで高くなさそうです。10年に1回しか活躍の機会がない世界は進化しません。皆さんの世代が社会人になった時に作るべきなのは、活躍の機会が多い社会だと思います。それに、宇宙は学問分野ではありません。宇宙をどういう切り口で見るかでいろんな学問があり得ます。昔ながらの学問分野の区分に縛られる必要はないと思います。

 


※本記事に載せきれなかった、津田教授の学生時代のエピソードなどは、以下の冊子に掲載予定です(いずれも2021年3月中旬発売予定)。ご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください。

  • 東大の学部の新入生を対象とした『東京大学入学記念アルバム2020』
  • 東大新聞創刊100周年を記念した一般向け書籍『東京大学新聞クロニクル(仮称)』

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