文化

2023年6月9日

【100行で名著】「グロい」だけではない人間ドラマ 竜騎士07『ひぐらしのなく頃に』

 

 『ひぐらしのなく頃に』という作品名は知っていても、その内容については漠然とグロテスクなホラー物といったイメージを持っている人が多いのではないだろうか。しかし、本作の魅力はそれらだけではない。

 

 時は1983(昭和58)年。東京から人口2000人に満たない寒村、雛見沢村に引っ越してきた前原圭一は、学校で友人を作ったり田舎特有の人間関係の濃密さに居心地の良さを覚えたりしながら村の生活に慣れていく。しかし、圭一は「綿流し」という祭りの時期に、毎年1人が死に1人が消える事件が4年連続で発生していることを知る。村で信仰されているオヤシロ様という神にちなんで「オヤシロ様の祟(たた)り」と呼ばれるこの事件は、5年目も発生する。圭一は村の因習や友人に対して疑心暗鬼になり、事件に巻き込まれていく。

 

 本作は当初ミステリーとして売り出されたが、物語が進むにつれて別の側面が現れてくる。圭一や、彼の仲間たちの複雑なバックグラウンドが明らかにされ、自分たちの問題を解決し、受容していくことが重視されるようになるのだ。実は、本作で発生する悲劇の多くは人と人とのすれ違いや、問題を自分一人で抱えてしまったことに起因する。その中で自らの問題や過去に向き合い、ときには仲間に諭されながら、彼らは困難を乗り越えていき「仲間に相談すること」の大切さを学ぶ。強固な絆で結ばれた彼らは、閉鎖的な村社会までも変化させ、祟りの発生の防止を試み、黒幕との対決に挑む。しかし、黒幕にもまた悲惨な過去が存在することが明らかにされる。本作は徹頭徹尾、人と人との巡り合わせを描いている。運命のいたずらとでも言いたくなるような状況を乗り越えたり、受け入れたりすることで、登場人物たちがどう変化していくかも大きな見どころだ。

 

 また、黒幕との対決の後日談に当たる『ひぐらしのなく頃に礼 賽殺し編』(星海社)では、本編の主要キャラクターである、ある人物(以下、彼女)の罪について語られる。彼女は特定の時点から分岐したいくつもの並行世界を、一定の条件の下で渡り歩く能力を持っている。賽殺し編で彼女は、事故によって別の世界──あらゆる祟りが起きなかった平和な世界に移動してしまう。そこでは、本編の世界で彼らが抱えていた問題が存在しない賽殺し編の理想の世界か、全員が問題を抱えながらも皆で幸福をつかみ取った本編の世界か、どちらを選ぶかが彼女に迫られる。さらに、彼女は元の世界での4年に及ぶ祟りの真相を知っていながら犠牲者である母を救おうとしなかったという罪と、能力を用いて望む世界を選択してきたという人間の力量を超えた行為の傲慢(ごうまん)さを突き付けられる。この状況で、彼女が下した判断の結末を見届けてほしい。

 

 このように、本作はただグロテスクなホラー物というだけではない。ミステリー、仲間との絆、罪と贖罪(しょくざい)など多様なテーマについて考える機会を与えてくれる。

 

 本作の舞台は6月。「ひぐらしのなく」頃に、ノスタルジックな昭和の田舎、雛見沢村に旅立ち、圭一達と「オヤシロ様の祟り」に立ち向かってはどうだろう。【悠】

 

 

竜騎士07『ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編(上)』星海社、税込み1078円
竜騎士07『ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編(上)』星海社、税込み1078円

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