GRADUATE

2025年7月30日

【官庁訪問2025】東大出身者が語る 国家公務員の仕事 ②内閣府・文化庁・特許庁

 

 毎年多くの東大生が受験する国家公務員採用総合職試験。国家公務員を志す人にはもちろん、まだ進路に悩んでいる人にとっても国家公務員自らが語る職務の実情やその素直な感想は参考になるだろう。

 

 今年は、総務省(事務系、技術系)・国土交通省・内閣府・文化庁・特許庁の東大出身者に取材。現在の省庁を選んだ経緯や担当する業務内容、省庁の魅力や就活生へのメッセージを聞いた。第2回では内閣府、文化庁、特許庁を紹介する。

(構成・赤津郁海、取材・宇城謙人、赤津郁海、曽出陽太、田中莉紗子、岡拓杜、本田舞花)

 

客観的なマクロの視点から分析・提案 内閣府

 

河越壮玄(かわごえ・まさはる)さん/内閣府規制改革推進室 20年経済学部卒
河越壮玄(かわごえ・まさはる)さん/内閣府規制改革推進室 20年経済学部卒

 


基本データ
受験区分 教養区分
学部/院卒 学部卒
入府 入府6年目
文理 文系

 

河越さんの就活年表
学部3年 夏以降

民間就活

2月

過去問を活用して試験対策を開始

学部4年 4〜6月

経済区分で試験受験・合格

6月 官庁訪問
2020年   入府

 

 大学では、経済学部で労働経済、応用計量経済やマクロ経済を学んだ。経済政策に関わる仕事がしたいと内閣府を志した。マクロな視点から客観的に世の中を捉えたり、分析を行ったりすることに興味があり、内閣府はそういったカラーが強いことも志望理由だった。

 

 大学時代、水泳部という密なコミュニティーで過ごした経験が、仕事で調整を行う際に役立っている。ゼミなど大学で得た知識は役立つが、数理統計や計量経済はより深く勉強しておけばよかったと振り返る。

 

 試験は「大学の授業を理解できていれば大丈夫」と聞き経済区分で受験。対策は、公務員試験を受けた水泳部の先輩に譲ってもらった教材や過去問を使い、独学で2カ月間集中的に行った。マクロの財政に関する問題は大学の授業で扱われておらず苦労したが、過去問を活用して学んだ。試験対策の勉強は現在の業務にも生きている。

 

 入府後は、大きく二つの仕事に取り組んだ。一つ目は「経済財政運営と改革の基本方針」や「規制改革実施計画」の取りまとめといった、今後の政策の方向性を決める仕事。二つ目は、景気動向の判断や「中長期の経済財政に関する試算」の作成など分析的な仕事だ。自身が関与した文書が、官邸での重要な会議でも議論されたことが印象に残っているという。

 

 現在は規制改革推進室に所属し、今後の政府全体の規制改革の方針を取りまとめている。実際に多くの規制を設けているのは各省庁であり、各省庁と意見の食い違いが起きてタフな調整が求められることも。しかし、内閣府は他の省庁に比べて業界団体との調整などが少なく、客観的な視点からロジックに基づいて政策を考えられるのが良い点だという。

 

 国家公務員の仕事の特徴は、常に公益を考えた仕事ができることだ。国の方向性について考えて法律の作成や提案ができるのは、国家公務員ならではのやりがいだという。留学制度など働きながら学べる環境が整っていることや出向のポストがシンクタンクや大学にあることも特徴で、分析的な仕事やアカデミアにも興味がある人には魅力的だ。

 

 内閣府はフラットな組織で、部下の意見でも正論なら採用される。「内閣府は広く社会や経済に関心があって考えることが好きな人や、分析を政策に生かしたい人に向いていると思います」

 

 

営利を超えて定量化できない価値を守る 文化庁

 

大谷かんな(おおたに・かんな)さん/文化庁文化財第一課 22年公共政策大学院修了
大谷かんな(おおたに・かんな)さん/文化庁文化財第一課 22年公共政策大学院修了

 

基本データ
受験区分 行政区分
学部/院卒 院卒
入庁 入庁4年目
文理 文系

 

大谷さんの就活年表
修士1年

省庁のインターンに参加

民間企業のインターンに参加 その後民間就活は終了し、試験に集中
1月 院卒区分の勉強を開始
修士2年 4月〜6月 試験受験
6月末 官庁訪問
2022年   入省

 

 国家公務員を目指し始めたのは高校時代。東大法学部、公共政策大学院と進学する中で、スポーツや学術、文化に携わる人々の力こそ国力の源だと感じ、さまざまな人が活躍できるようなサポートをしていきたいと文部科学省を志望した。当初は学部で国家公務員試験を受験しようと考えていたが、運動会応援部の活動で忙しかったことや、学部では勉強しきれなかったところがあったことから、院進を選択。院試で身に付けた基礎知識をベースに過去問集での演習を繰り返して独学で対策を進めた。勉強面以外にも大学院のゼミで得た人脈や、社会人経験のある学生の発言から受けた刺激が今でも大きな財産となっている。

 

 最初に配属されたのは文部科学省高等教育局国立大学法人支援課。元々、高等教育に興味があったため、2年目に国立大学法人法の改正に携わったことが思い出深いと語る。大学数で見れば国立大学は全大学の約1割を占めるに過ぎないが、その制度の改正は大きな議論を呼び、国の影響力の大きさを目の当たりにした。国としての方針と各大学の教員の意見が必ずしも一致しない中での調整に苦労するも、「国が持つ大きなツールである法律の改正に携われたのは良い経験になった」と振り返る。

 

 入省3年目の昨年、文化庁に異動。教育関係者や大学から出向してきた職員が多かった高等教育局とは異なり、高い専門性を身に付けた文化財調査官や、文化財を管轄する自治体関係者との交流が増え、職場の雰囲気も変わった。現在は文化財調査官が全国から収集した情報を基に、文化財保護法と補助金を駆使して文化財の保存・活用を実現していく仕事をしている。

 

 職場は京都にあり、東京庁舎とは違って執務室からは山も見えるようだ。最近では国会議員への説明もオンラインが増えてきているため、京都勤務でも不便は感じないという。定時は午前9時半〜午後6時15分で、国会対応などがあまり発生しない部署であるため、残業も長くて2〜4時間程度。「東京と比べたらそこまで忙しくはない印象です」。文化財を担当しているということもあり、休日に寺社を気軽に訪れられることも京都で働く魅力の一つだ。

 

 「定量化できない文化財の価値を守ることは営利企業ではない国だからできることです。人生や国を豊かにする教育や文化の価値に共鳴し、理想を目指して一歩ずつ進んでいける人には向いていると思います」

 

日本産業の発展を支える 特許庁

 

加藤雅也(かとう・まさや)さん/特許庁審査第二部 23年工学系研究科修了
加藤雅也(かとう・まさや)さん/特許庁審査第二部 23年工学系研究科修了

 

基本データ
受験区分 工学区分
学部/院卒 院卒
入庁 入庁3年目
文理 理系

 

加藤さんの就活年表
修士1年

就職活動開始(幅広い業界を見る

国家公務員を第一志望

修士2年

工学区分1次試験・2次試験合格

2023年   入庁

 

 大学では航空宇宙工学を専攻。大学院では、航空機の材料について研究していた。修士1年次の春頃から業界を絞らずに就活を開始。当初はコンサル業界なども見ていたが、理系の知識を生かせる仕事をしたいという思いからメーカーと官庁への関心が高まり、最終的に特許庁を第1志望とした。「研究者や技術者の方々をサポートできるような体制づくりに興味を持ちました」

 

 修士2年次の春に国家公務員試験を受験した。記述式試験では、院試の勉強が役立ったという。選択式試験は、高校や前期教養課程で学んだ基礎知識のような幅広い理系知識が求められたため、対策が大変だったそうだ。官庁訪問に向けては卒業生や官庁志望の同期と面接練習を行った。

 

 入庁してからは、審査第二部の運輸を担当する部門で乗り物に関する特許審査を担当している。大学で培ってきた理系の素養を業務に生かし専門性の高い仕事を行える点が魅力だという。高度な最先端技術に関する特許出願を審査する際には、時には大学院での研究内容に関わるような知識が必要になる。一方、専門性の高さゆえに苦労もあるという。発明を理解し、法律・審査基準に照らして、特許権を与えて良いか否かを正確に判断していくためには、法律及び理系の深い知識が求められる。

 

 工学系の専門的知識が重視されるため、常に最新技術などの新しい知識を得ていく必要がある。「まずは知的好奇心が強い人、そして新しいものを生み出す方々をサポートする仕事なので、縁の下の力持ちになれるような人が向いていると思います」

 

 社会で注目を集めている技術に関する案件を担当し、特許審査を行うこともある。世の中に直接的に役立っていることを実感し、大きなやりがいを感じたという。

 

 特許制度の意義は、適切な発明の保護につながり、日本の産業や科学技術の発展を支えられるところにあるという。「早く一人前として質の高い審査をできるようになり、貢献していけたらと思います」。長期的には、時代に合わせた制度の運用設計に携わり、発明者や技術者をサポートできるような制度作りに貢献していきたいと語る。

 

 「特許庁など各省庁にそれぞれの魅力があると思います。いろいろな省庁を見た上で、自分がどのような仕事に就きたいか、どんな力を生かしていきたいかを考えじっくり選んでいただけたらと思います」

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit


           
                             
TOPに戻る