INTERVIEW / PROFESSOR 2020年3月29日

「ジェンダーは女性だけでなく男性の問題だ」政治と教育から考える日本のジェンダーの課題 前田健太郎准教授インタビュー

 大きな社会的関心を集める日本のジェンダーの問題。弊紙でも上野千鶴子名誉教授の社会学的な議論などを紹介してきたが、別の観点から捉えるとどのような問題が見えるのか。今回は、「男性優位の今の政治では女性の声は反映されない」と論じる前田健太郎准教授(法学政治学研究科)に、政治から見た日本のジェンダーの課題と、ジェンダー教育の意義について話を聞いた。

(取材、執筆・Meindert Boersma杉田英輝 撮影、翻訳・杉田英輝)

*取材は英語で行われました。

英語版はこちら

前田健太郎准教授(法学政治学研究科)11年法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。首都大学東京大学院社会科学研究科准教授を経て14年より現職。

 

政治と社会の分断が生むジェンダー不平等

 

━━日本におけるジェンダー不平等の問題の核心はどこにあるのでしょう。

 

 端的にいえば、社会運動と国政という二つの次元が結び付いていないことに課題があるというのが私の考えです。両者の断絶は、日本の政治組織の構造と深い関係があります。政党にせよ、行政組織にせよ、そこには年功序列型の構造があり、家庭を女性の配偶者に任せることのできるような男性が有利になります。その結果、男性は女性よりも高い地位に就きやすく、意思決定を行うレベルのポストには女性はほとんど残りません。すなわち、政治権力は男性の手に集中しているのが現状なのです。これに対して、多くの女性が自らの声を政治に届けようと草の根で活動していますが、基本的には国政とは切り離されてしまっています。そして両者が断絶しているが故に、政策は男性の要望が優先されるよう設計され、女性の要望は無視されやすくなるのです。そもそも、日本では政策に影響を及ぼすほどの規模のフェミニズム運動が発展しなかったため、女性の要望に関連した話題は政策の争点(アジェンダ)になりにくかったといえるでしょう。

 

 こうした女性の意見が政策に反映されない状況は随所に見受けられます。まず出産に関する事柄は、ほとんど政策的な話題に上りません。例えば、日本の女性の多くはいわゆる自然分娩で出産し、「お腹を痛める」のが普通です。無痛分娩で出産する場合、海外には保険が適用できる国もあるのですが、日本では保険が適用されないため、多額の費用を自分で負担しなければなりませんし、そもそも無痛分娩を行うことのできる医療施設も少ないのが現状です。そのため、日本では多くの女性にとって出産が大きな痛みを伴う経験であるのに対し、男性にはそれが自然に見えてしまい、女性の身体的な負担が実感されません。もし政治の場で男性のみの視点で議論が進められてしまうと、私たちはこれが政策によって対処されるべき問題であると認識することができなくなってしまうのです。あるいは、選択的夫婦別姓制度の問題が挙げられます。多くの女性は結婚する際、夫と同じ戸籍に入るために、自分の姓を変えなければなりません。彼女たちの多くは、姓を変える、すなわち自らのアイデンティティを変えることが要求され、悩むことになります。特に、名前の認知度が重視される職業に就いている人々にとって、自分の名前を変えなければならないのは大きな損失です。一つの簡単な解決策としては夫婦別姓を選択することを認めることが考えられますが、それも長い間、政策に反映されていません。これらの例を通じて、なぜ事態が改善されないのかを考えることができるでしょう。第一に、政治そのものが、フェミニズム運動の舞台となる市民社会の声に耳を傾けていないのです。さらに第二に、政治家と官僚たちの圧倒的多数が男性であり、女性に関わる政策が政府のアジェンダから抜け落ちてしまうことがあります。

 

 日本では、基本的に官僚が政策を立案し、それを政治家が承認することで実行に移されます。そのため世論は、政治家が政策を発表した後でしか効力を発揮することはできません。通常、世論は政治家の提案に反対する時には有効ですが、世論が自らの要望を政策に反映するよう訴えても、政策決定権を有する層にその主張を牽引する人がいない状態ではうまく働かないのです。そのため、例えばもし安倍首相が憲法改正を試みた場合、世論はその提案を阻止するのにとても効果的ですが、世論が女性のさらなる権利伸長を求めてもそれに関心を持つ政治的リーダーがいないので、政策決定権を有する層の間で議論になることはないでしょう。つまり、世論はある問題がその政策方針に明記されるまで、事態を動かすチャンスを得られないのです。

 

 しかし、世論には間接的に自らの主張を政策に反映させる効果があります。例えば、安倍首相は憲法第九条を改正することを目指していますが、有権者の支持は広がっていません。ジェンダーの視点から見れば、これは女性の多くが憲法改正に反対していることによるものです。この憲法をめぐるジェンダー・ギャップについては、境家史郎『憲法と世論』(筑摩書房、2017年)などでも指摘されていることですが、一般的に女性は男性に比べて憲法改正に消極的な傾向があるのです。その理由は、男性の方が女性に比べて安全保障政策に関心があることと関係があると思われます。恐らく安倍首相は、自分の安全保障政策を整備し、それを推進するためには女性の賛同を得る必要があると思ったのでしょう。結果的に、安倍首相は2000年代の第1次内閣の時はフェミニズムに反対の立場だったのに対し、2012年に再び首相の座に就くと、アベノミクスの一環として「女性活躍」を打ち出しました。また、女性活躍推進のもう一つの目的は、米国の世論を味方につけることだとも言われています。日本は第2次世界大戦中の従軍慰安婦を巡る歴史認識問題で、韓国といわゆる「歴史戦」を展開してきました。そしてこの対立に際しては、米国がどちらの側に着くかが重要な影響を及ぼします。今現在、米国は韓国を支持する立場を取っています。そのため、安倍首相は女性の活躍を推進することで、イメージを好転させようとしてきたとされています。つまり、女性が自らの権利を求めたことではなく、安倍首相の政策目的に女性が反対していることが、女性活躍推進という選択をもたらしました。女性の権利は、安倍首相を支持することではなく、むしろその政策に反対することによって、認められるのです。

 

 

━━女性の権利や立場を向上させることを目的とした日本の政策や法律はどの程度有効なのでしょうか。

 

 あまり有効とは言えません。なぜなら現行の政策や法律は、例えば企業は女性の管理職を増やし、その地位向上に努めるべきだという風に目標を設定しているに過ぎず、その目標を達成するための具体的な方策について十分に考慮していないからです。先に述べた企業における女性の地位向上について考えれば、それは企業という組織が自らの経営戦略全体を変えなければならない、ということを意味します。したがって、企業は女性に「女の仕事」を、男性に「男の仕事」を割り当てるのをやめ、性別に関わりなく誰に対しても仕事における機会を均等に与えなければなりません。しかし今現在、それらの政策は管理職層の人材の確保のみに焦点を当てているため、うまく機能していないのです。

 

 日本は先進国の中でも全く男性が家事労働をしない国の一つです。そのため女性が家で多くの負担を抱えています。この状況の下では、どれだけ真剣に女性の社会進出を推進しても、女性は家事と育児を担うことを強いられ、会社でも懸命に働かなくてはなりません。その結果、女性は疲弊してしまいます。今欠けているのは、男性に家事をするよう促す政策なのです。安倍首相の女性活躍推進政策は女性のための政策として設計されていますが、ジェンダーは男性の問題でもあります。今現在、男性は職場では仕事をしていますが、家では家事を女性に任せています。この男性側の働き方が変わらない限り、事態は変化しないでしょう。企業がどれだけ女性活躍推進を掲げても、女性はたくさんの家事を抱えるため、さらなる負担となるような仕事をすることをためらい、与えられた機会を生かすことができなくなります。一方で、男性はせっかく機会を与えても女性が手を挙げないように見えるため、女性の意欲の問題だと錯覚してしまいます。しかしこれは女性の問題なのではなく、男性と女性がどのように支え合うかという問題なのです。だからこそ、いかにして男性が家事や育児を担うようにするかが、今後数年のうちに日本が直面する課題となるでしょう。それは単に保育政策を拡大させるだけでなく、男性の育児休業を広めることでもあります。女性の多くが育児休業を取るのと同様に、男性にも育児休業の取得を義務付けなければならないでしょう。したがって、男性はこの問題にもっと力を入れて取り組まなければなりません。

 

 もう一つの問題は教育政策です。日本人は大学に入るまでジェンダーについてきちんと話をする機会がありません。ジェンダーによる役割分担は、人が社会と関わり合い行動様式や規範を身に付ける中で形成されるものです。そのため、生徒たちに早くからこの問題について意識させることが求められます。例を挙げれば、日本には国際的に見ても巨大な性産業がありますが、性教育は十分に行われていません。そのため、若い男性たちが、必要な知識のないまま性産業の世界に触れ、女性を性的に対象化するというメカニズムが存在しているように思います。私たちはこうした事実について語ることを恐れてきましたが、もっと語らなければなりません。人が子どもの時期にどのように社会の中で行動様式や規範を習得するかは、長い目で見るとその人や社会のジェンダー観の水準に影響を及ぼす以上、教育は変わらなければならないでしょう。

 

 それに加えて、法的な側面では、性暴力を受けた場合など女性が声を上げるのがとても困難な構造が存在しますので、これらについても改善されなければなりません。ここで挙げた例は限定されたものに過ぎませんが、女性はこうした問題を身近に感じていると思います。

 

 私は、より多くの人々がこの議論に参加できるようになれば良いと願っています。そこで一つ、最近私が困惑したことを挙げておきます。昨年、私が出した『女性のいない民主主義』という岩波新書は、ジェンダーをテーマとする本としては予想外に良く売れたのですが、フェミニズムについて男性が書いたものが売れるというのは、他の国では珍しい現象なのです。私は東大の男性教員だから、信用できると思った人もいたのでしょう。ですが、実は私の本に書かれていることの多くは、すでに女性研究者が言い続けてきたことでした。女性たちがフェミニズムについて論じている時には、その声に耳を傾けなかった男性も多かったのです。つまり、私の本の売れ行きが良いのは、おそらく日本のジェンダーの不平等を反映しています。幸い、最近では本が良く売れている女性研究者も増えてきていますので、これは変化の兆しと言えるでしょう。女性の著者が増えていけば、女性たちはようやく自分たちの気持ちに響く本を読めるようになるのです。これが、私が日本の将来について前向きに考える理由です。

 

 

男性も問題を自覚せよ

 

━━政治や社会の中のジェンダーの問題はどのように高等教育の場に反映されているのでしょう

 

 女性は教育の場で大変な思いをしていますが、卒業して会社に就職すると、往々にしてもっと辛い目に遭うことになります。この大学と会社の違いも一因となって、多くの女性が仕事をするようになるとフェミニストとしての意識に目覚めるように思います。私が自分の授業でジェンダーに関連した話をすると、この段階では、男子学生が興味を持たないのはもちろん、女子学生であっても、私の言葉に関心を示す人はあまり多くありません。しかし、卒業した後になると、面白い現象が起きます。多くの女性たちが、フェミニストになるのです。そして、自分たちが職場で不公平な待遇を強いられるような構造の存在を意識するようになるのです。女性たちは、自分たちが日本社会で大きな不利益を被っているとは学生時代には気づきにくかったのかもしれません。卒業後にこそ、彼女たちの前にはより大きな困難が立ちはだかるのです。

 

 (東大など一部の難関)大学では、女性は男性に数の面では圧倒されてはいますが、学業面では明確な性差別には直面していないと思います。例えば、女子学生は性別を理由に悪い成績が付くということはありません。しかし、企業に就職するための面接になると、女性は突如、中年や年配の男性の面接官から、性的に不適切な質問を投げ掛けられることもあります。さらに、実際に就職すると、女性は自らが女性であるが故に、あまり重要でない仕事が割り当てられたりすることもあれば、先の見えないキャリアパスに迷い込んでしまう経験に直面することもあるでしょう。たとえ男性のように働きキャリアを積み重ねたとしても、結婚して子どもを産めば「マミートラック」と呼ばれるコースに乗せられ、昇進は遅れることになってしまいます。勤務時間を短縮せざるを得なくなり、昇進のスピードも遅くなり、それでも仕事をし続ける。男性には、こうしたペナルティはありません。私は、これが日本の職場で起きている現実だと思います。

 

━━どうすれば問題を解決できるのでしょうか

 

 特に東大では、男性がこの問題を彼ら自身の問題だと自覚しなければなりません。まず、男性はジェンダーを女性だけの問題として考える傾向にあることが、この問題を理解することを難しくしています。これが女性の問題であることは事実ですが、男性の問題でもあるのです。そして、男性は自分たちが社会の中で一定の行動様式や規範を身に付ける中で男性的な役割に染まってしまっていることに滅多に気付きません。彼らは自分たちをただの普通の「人間」だと思っていますが、それは違います。社会の中で「男性」へと構築されているのです。これは私自身もそうですが、男性は時々、自分のものの見方を見直さなければなりません。例えば、皆さんが将来について考える時、幸せな家庭を築き、妻や子どもに囲まれているものだと思っているかもしれませんが、もう一度考え直してみてください。皆さんはその幸せな家庭で、家事をしていますか。それともただ仕事に行き、奥さんがあなたの帰りを家で待つのでしょうか。それは、奥さんがあなたより早く帰らなければならないということでしょうか。こうした問題について考えてみた時、私は、多くの男性に在学中にジェンダーについて考える機会がないことが問題だと思っています。そこで例えば、仮にカリキュラムを改革するのであれば、全科類・学部でジェンダー関係の科目を必修科目として提供してはどうでしょうか。また、教員の男女比が極端に男性に偏っているのも問題です。私たちにはジェンダーの多様性と平等がより担保された学部の土台が必要で、そしてより多様な種類の講義をすることが求められます。それが私の願いです。

 

━━問題解決のために何か具体的に学生にできることはあるのでしょうか

 

男子学生の皆さんがすぐに何かすることは難しいかもしれません。一つあるとすれば、女子学生との日常的な交流の仕方を変えることでしょう。大学の内外で、男性は往々にして女性に対して上から目線で接します。まずはそれをやめ、そして女性の声に耳を傾けることが、男性学生できる最初の一歩です。女子学生の皆さんには、ぜひ積極的に意見を言うようにしてもらいたいと思っています。もし教室の内外でより多くの女性の声が上がれば、本学での学生生活はより豊かになるでしょう。

 

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