インタビュー

2021年4月10日

「対話と共感」軸に新たな大学像を 藤井輝夫新総長就任記念インタビュー・前編

 今年4月、五神真前総長(東大大学院理学系研究科教授)からバトンを受け、第31代東大総長として藤井輝夫新総長が就任した。これまで財務担当の理事・副学長や社会連携本部長として東大の改革に参画してきた藤井総長は現在の東大が抱える課題をどのように認識し、どのような改革を見据えているのか。東大新聞オンラインでは就任直前に実施したインタビューを2回にわたって掲載する。前編の主な話題は総長就任後に着手する改革について。藤井総長は「対話と共感」を軸とした学内外の連携と社会における東大の存在感向上への野望を語った。

(取材・中野快紀、撮影・高橋祐貴)

 

 

 

大学の体力向上が不可欠

 

――総長就任を直前に控えた率直な心境は

 

 就任はもう目前であり、4月以降どのように大学を動かしていくかの準備を早急に進めているところです。総長就任予定者に選出された時からお話ししていることですが、私自身「大学が世の中に対して何ができるか」ということをずっと考えてきました。発生から10年がたった東日本大震災や現在の新型コロナウイルス感染症(COVID―19)流行など、社会が難しい課題に直面しているときに、大学として何をしていかなければならないかをしっかり考える必要があります。現在世界ではCOVID―19や気候変動の問題などがかなり切迫感を増しているので、世界の変化をきちんと踏まえた上で大学をどのように動かしていくかをいろいろと構想しているところです。

 

――五神前総長の場合は「経営体への転換」、濱田純一元総長の場合は「国際化」「教育改革」など、任期中に強みとなる改革が存在した。自身の強みはどのような領域にあると考えているか

 

 大きく二つあります。一つは私が「対話と共感」と呼んでいるもの。これまでの経済・物質的発展の中では皆自分が良くなるような努力を重ねてきました。しかし、今は世界的に見てもそれでは駄目で、経済・物質的な発展だけでは難しいことが広く認識されています。

 

 この状況は資本主義そのものが問われているともいえます。自分だけが良くなるのではなくて、多様な立場の人にしっかりと配慮しながらみんなで良くなっていくというインクルーシブな考え方が大事だと考えています。そのような問題意識の下に大学がやろうとすることに対する「共感」を、「対話」を通じて学内外に広げていくことが重要です。世の中が大きく変わっている中で、新しい大学の在り方をしっかり見据えていこうというのが、ある種の改革ですね。

 

 もう一つも総長就任予定者に選出された当初から申し上げていますが、東大を「世界の誰もが来たくなる学問の場」にしたいというのがあります。学生、研究者、そして働く職員の皆さんにとって、みんなが東大に行きたく・働きたくなるような場になるように努力したいです。

 

――これまで社会連携本部長を務めるなど、学外との連携に関し数多くの中心的な役割を担ってきた。これまでの東大における経歴を踏まえて、東大の変えねばならない部分、伸びしろがある部分はどこにあると考えるか

 

 私自身が学外との境目で仕事をしてきた中で、東大の活動が学外の人々に知られていないという話を多く聞いてきました。まさにそこが伸びしろで、学外に対し東大の活動をしっかりと伝えて「共感」を得ていけば、学外の皆さんからも支援をいただき、さらにその支援により行った活動を社会に報告することで新たな支援を頂くという良いサイクルが生まれるはずです。そのような学内外の橋渡しを積極的に行っていきたいです。

 

 もう一つは社会との連携を行っていく上で、大学そのものの組織能力、体力を鍛えていかなければならないということ。大学の体力を向上させた上で活動を拡張していくべきだと考えています。

 

――6年間の任期の中でCOVID―19流行に向き合って対応していかなければならない。中長期的に見て、東大がCOVID―19と向き合うためにアップデートすべき部分は

 

 まず目の前のCOVID―19対応が一番大事です。これは基本的には感染の広がりの状況を見ながら対応する必要があります。また、去年から1年間ずっとオンラインで講義をしてわかったことは、やはり対面の活動が非常に大事だということです。対面の活動を広げていけるように大学として最大限努力すべきです。実際に対面講義を実施する時に換気能力を高めるなどの施設設備の対応をしっかりしながら、最大限の感染対策をしつつ対面活動を再開させていきたいです。  

 

 また、我々研究者の生活もオンラインになったことで分かってきたことがあります。海外の著名な研究者の講演を聞きたいとなったとき、これまでは1週間くらい予定を空けて来日してもらわなければいけませんでした。それがオンラインであれば、より柔軟に対応いただけるようになりました。東大も具体的には「Global Fellow」といって、海外の著名な先生による講義を受講できる・研究指導を受けられるようにする制度を整備しています。

 

――国際化が東大で長年の課題。コロナ禍の国際化をどのように考えているか

 

 国際化にはいろいろありますが、一番大事なのは東大の学生と海外の学生が混ざって同じ活動に参加する状況を作ること。今のオンライン主体の状況でも、同じ講義を混ざって履修する、一緒にディスカッションするなどの場を広げていけると良いです。

 

 またこれはCOVID―19感染収束後になりますが、東大生と東大と交流のある大学の学生とが互いに行き来して研究できる環境づくりを後押ししていきたいです。要は、海外の大学の人と知り合いや友達になるような機会を増やしていければいいなと思います。

 

「あって良かった」東大へ

 

藤井総長は総長選考の混乱の中、総長予定者に選出された=2020年10月2日、本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで

 

――大学債の使途としてコロナ禍を見据えたキャンパスのスマート化を前面に押し出していた。その他、大学債の使途について検討していることは

 

 方針は決まっていて、まさにウィズコロナ・ポストコロナの中で必要になる施設や設備への対応に充当します。コロナ禍で安心して教育研究活動ができるようにすることをまずは優先します。

 

――大学債を「今後10年で1000億円」という五神前総長の方針は

 

 資金調達の手段はいろいろあり、大学債はあくまでその中の一つ。未来に向けた先行投資のために比較的大きい額を調達するためのものという認識です。また、五神前総長が目指した経営体としての大学にとっては、多様な財源の選択肢があることが非常に重要です。その意味で大学債を初めて発行できたことは非常に大きな意味を持ちます。

 

 大学債にせよ寄付にせよ、そこにお金を投じてくださる人たちの共感が必要で、その共感を得るために東大がやろうとしていること、やりたいことをしっかり伝える対話・循環の流れを作っていきたいです。将来の発行予定については現時点で明言できないですが、使途の限定の見直しなどの改善は必要だと感じています。そうすることで自由に使える多様な財源確保につながります。

 

――新総長が任期初めに発表し、改革の指針となる「ビジョン」の軸になるのは

 

 ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂性)、それからデジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション。その辺りは大きな柱になってきます。名称は検討中ですが年度明けには提示できるようにしたいです。私自身、五神前総長の下で例えばFSI、未来社会協創推進本部の活動のように社会との境目のところでいろいろな仕事をやってきました。こういったところは五神前総長の施策を引き継いでいきたいです。

 

――自身が選出された総長選考では学内外から注目を集める混乱が生じ、その上で総長に就任することとなる。総長主体の改革が求められる中、今後どのような形で総長としてのリーダーシップを発揮していきたいか

 

 ここもまさに重要なのは「対話」です。具体的な施策は検討中ですが、対話のチャンネルを増やし多様な声を聞いていくとともに、こちらからも学外だけではなく学内にも向けたさまざまな発信をしていきたいです。総長選考についても、COVID―19の影響などでコミュニケーションの機会が少なかったり、真意が伝わらないコミュニケーションになってしまったりして、構成員の不安が増幅してしまった側面があると思います。そこは丁寧に声を聞いていけたらいいなと考えています。

 

――自身の任期が終わるときにどのような東大であってほしいか

 

 世界の誰もが来たくなる大学になっていてほしい。また、学外からの視点でいうとやはり外から見たときに「東大があって良かった」と思ってもらえることが一番大事です。「東大という組織の存在自体が非常に高い価値を持つ」と共感してもらえるようになることが重要だと思います。

 

後編はこちらから。

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