PROFESSOR

2019年4月3日

退職教員インタビュー④ 荒井良雄教授 足取り軽く地理学を研究

 毎年恒例の退職教員インタビュー企画。今年度末で退職する教員たちの目に、今の東大はどのように映っているのだろうか。4人の退職教員に、自身の研究内容を振り返ってもらった他、東大生への最後のメッセージを語ってもらった。

 

 最終回の今回は、時間地理学などを研究してきた荒井良雄教授にインタビュー。教育面で心がけたことや、学生の変化についても話を聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

荒井良雄(あらい・よしお)教授(総合文化研究科)
 80年理学系研究科博士課程中退。博士(工学)。教養学部助教授(当時)などを経て96年より現職。06年人文地理学会賞受賞。

 

地理的要素と時間を融合

 

──最大の研究成果は

 「時間地理学」ってご存知ですか? 70年代にスウェーデンの学者が提唱した学問で、初めて国内で本格的に研究したのが私たちのチームでした。私は「生活の地理学」とも呼んでいるんですが、要するに世の中の人が1日をどう過ごしているのか、移動距離などの地理的要素と時間とを関連付けて研究する学問です。

 

 私たちの研究では国内3都市のご夫婦に、何時何分に何をしたというような生活の記録を48時間分取ってもらい、それをチームの4人で一夏かけて比較分析しました。とても細かい作業でしたが、地道な努力は地理学の伝統ですからね。

 

 他にも、コンビニの物流について国内で初めて学術的に研究しました。当時は米国発祥のスーパーやコンビニが日本に入ってきた頃で、精密な配送システムに基づき営まれていたシステムでしたが、その実体はよく知られていませんでした。論文を発表した翌日から問い合わせの電話がかかってきたり、役所の朝食会で講演を依頼されたりして大反響でしたね(笑)。

 

2005年、イタリアで開催された国際地理学連合の会議に参加した(写真は荒井教授提供)

 

──人口問題やIT技術の社会的影響についても研究してきました

 近年は国内の人口減少が問題視されていますが、国内の人口分布が大都市に偏っていることが問題ですよね。ただ最近は地方に住もうと思う人が増えていて、問題に対する社会の姿勢が変わってきていると思います。

 

 そうした人の流れができるのは、情報技術の発展によって地方での暮らしが便利になっているからです。ブロードバンドの普及により国内で情報格差はほぼゼロといわれていますし、例えば、小笠原諸島の住民は日常必需品をほとんど通販で調達しています。情報技術の発展で地図上の地理的空間の広がりが再定義されてきているんですね。

 

──27年間駒場で学生を指導していて、心掛けていたことは

 とにかく褒める! 一生研究していても「これはよくできた」なんていうことは一度あるかないかくらいで、たいていの研究結果は妥協の産物。学生たちも研究についてたくさん批判を受けますし、自分たちも批判の内容を理解しているんです。もちろん言わなければならんことはありますが、学生を育てるのも仕事ですので、けなさず可能性を見つけてあげるようにしていました。

 

地理学の基本である巡検の授業も複数回担当した(写真は荒井教授提供)

 

──昔と今で学生の変化は

 従順になりましたよね。素直。悪口ではないですが、何か気味悪いですよ(笑)。私が学生だった頃は学生運動の団体が今の7号館の1階を占拠していたり、今はなき駒場寮ではヘルメットと角材で武装した団体が寮委員会と対立していたり、学生が授業料の値上がりに反対して無期限ストライキをしていたり。当時教員をやっていた先生が、最近は「学生が授業で笑うようになった」と言うほど、当時は学生と教員の関係にも緊張感があったんですね(笑)。

 

 でも、昔も今も教員をはじめ世間の大人は、世を変える原動力として学生に潜在的な期待を抱いていると思うんです。まあ今は大人でも物申せるような平和な世の中なのかもしれませんけれどね。

 

──学生に向けてメッセージをお願いします

 何でも見て歩こうよ! ですね(笑)。読書したりデータを見たりして頭で考えることも大切ですが、自分の目で見てなんぼ。特に地理学では、理論がただ先行するようでは学問としても存在意義が示せない。フットワークは軽く、観察と経験を大事にしてください。「百聞は一見に如かず」ですよ。


この記事は、2019年3月19日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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