学術

2025年7月16日

【戦後80年】1945年7月11日 「社説 動員学徒援護会の発足」(『大学新聞』1945年7月11日号より)

 

 

 2025年は終戦から80年の節目。戦争の当時を語る人々は少なくなり、「当時」は遠い存在となりつつある。

 

 1944年7月から1946年4月の間、全国の学生新聞は『大學新聞』に一本化され、本紙の前身『帝國大學新聞』の編集部が編集を主に担っていた。

 

 今回は、1945年7月11日発行の「大學新聞」より、「社説 動員学徒援護会の発足」を転載する。当局による検閲下とはいえ、学徒兵による特攻も盛んだった大戦末期。大学生が何を考えたかがうかがい知れる本記事をして、「当時」について考えるきっかけにしてほしい。(構成・溝口慶)

 

社説 動員学徒援護会の発足

 

 待望久しかった「動員学徒援護会」の発足をみるに至った。同会は第八十六議会の協賛を得、百五十万円の予算を得て強力なる陣容を整えて発足をみたのである。これは動員学徒の死亡、障害、傷病に対する援護はもとより教養指導に当らんとするものである。此援護事業は援護対象の学徒たる特殊な性格よりして当然軍事援護会、徴用援護会の構想と自から異なるべきであって其処には文化的教育的視点よりする援護事業が強く求められるのである。

 

 就中(なかんずく)動員学徒の斉(ひと)しく訴える教養指導こそ戦時教育令の公布をみ、愈々(いよいよ)学徒に対する勤労即教育の理念の透徹を求められている折柄、刻下一層緊急要務なのである。この事は本欄で度々指摘した処であるが、今回動員学徒援護会が第一に主目標を此処に置き集中的に具体化せんとしているに対しては全面的に賛意を表すものである。而して動員学徒に対する教養指導の完全なる発展を期すべく関係当局はもとより各種文化団体学校当局、文化人の全面的協力、更に何よりも工場事業場等の受入れ側の深き理解と強力なる支援を必要とするのである。かかる教養指導は一見華やかに見えるが本質的には地道な教育的理想と情熱が求められるのであってそこには一時的思いつき的施策が取られるべきではない「戦時教育令」に基き真に国家百年の大計を基底にした「ちーんと落着」いた企画と実践が望まれるのである。かくて援護事業は消極的な面から積極的な面への飛躍があるといい得る。

 

  ×……×

 

 戦局はいうまでもなく真に緊迫化し本土また決戦場化さんとしている。しかして航空機、食糧の絶対的生産確保こそ誠に刻下喫緊の要請であり、学徒はその思誠心を以て真摯敢闘しているのである。通年動員の実施、授業の停止措置以来学徒に課せられた国家の負託は誠に重且つ大となりつつある、学徒は量質両面的に見ても将来の日本を背負うと共に、今日只今の日本を背負うているというも過言でない。

 

 この学徒の真摯敢闘に応うべく国家的にも積極的な援護が考えられるべきであった。今日迄遺憾乍(なが)らその援護がともすれば散発的、恣意的な印象を与へて来寧ろその設立の遅きに失した観もあるが今回強力に推進せられる事を思うと慶賀にたえないものがある。

 

 学徒はもとより勤労の代償として国家に援護を求めるものでなく彼等は黙々その職場に挺身しているのである。この彼等の沈黙の底には限りなき教養、学問への情熱が秘められているのであって、この旺盛なる意欲を真に助長育成せしめ真の皇国民の中堅としては学徒矜持と逞(たくま)しき実践を図らねばならないのである。生産と教養、教育の背馳するものでなく寧ろ教養は大いなる生産の根基をなしている事は過去一ヶ年の動員経験が何よりも明示している処である。

 

 その点同会が強力に教養指導に乗り出す事に対し大いなる期待を持つものである。既に同会ではラジオ並に本紙の教養講座設置、巡回文庫、音楽美術の巡回史に憩いの家の大規模な設置計画が着々具体化せんとしているのであって、その点また大いに期待する処である。同会が所謂(いわゆる)御役所的仕事に堕する事なく常に溌剌(はつらつ)たる生気を以て更に真に動員学徒と呼吸する底の鮮新なる企画と実践を望んで止まない。と同時に動員学徒はこれら国家の温き手を謙虚な気持で受取ると共に与えられたものを受けるという消極的な気持でなく積極的に己の者に消化し更に旺盛なる意欲を振起する様に一大努力を必要とするのである。

 

【過去の記事はこちらから】

1945年7月11日 祖国は学徒に期待す 国民の陣頭に率先立て 航空機・食糧絶対確保に総決起(『大学新聞』1945年7月11日号より)

1945年7月1日 「社説 沖縄の悲報に接して訴う」(『大学新聞』1945年7月1日号より)

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