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2021年1月13日

東大教員に聞く、新型コロナと2021年 人文&心理編

 

 2020年に世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症は、医療分野だけでなく教育や情報テクノロジーなどさまざまな分野で問題を浮き彫りにした。21年にはどのような発展が見込まれ、我々はどのように対応していくべきなのだろうか。人文・心理分野の研究者に聞いた。

(取材:鈴木茉衣・松崎文香)

 

科学と社会の架け橋に

堀江宗正教授(東京大学大学院人文社会系研究科)

 

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けて宗教団体の対応は割れました。一般的に高齢化が進んでいるため、集会の制限は受け入れられやすく、オンライン化も進んでいます。それに対して、一部の教団ではポジティブな精神状態なら発症しないと考えられています。社会全体で求められている感染症対策に従わず、集会の制限を信教の自由の侵害だと見なす傾向があります。

 

 日本では宗教への関心が低いせいか、いわゆる「夜の街」や医療従事者などが感染リスクの高い集団として注目されがちです。しかし、韓国では流行初期から特定教団が感染源としてマークされてきました。米国ではキリスト教右派が、マスクなしで集会やデモを行うため、高リスク群と見なされる傾向があります。

 

 それに対する反動として台頭してきたのが陰謀論です。仮想敵に脅かされているという被害者意識故に、世界が善悪に分かれて戦っているという見方をするのでしょう。目立つのは「トランプvs中国共産党」という図式です。新型コロナウイルス感染症は意図的に流出されたものだ、ワクチン開発企業による偽情報だ、などの内容のものです。米国大統領選における反共・トランプ支持の動きは日本でも見られ、トランプ大統領は、宗教を弾圧する中国共産党から世界を救う救世主と見なされています。

 

 新型コロナウイルス感染症は弱者を狙い撃ちする傾向があり、さまざまな分断をもたらしています。致死率が高いのは高齢者や基礎疾患のある人です。諸外国では、都市で密集して生活する貧困層ほど死者を出しています。日本でも特定の業種で失業者が発生していますし、高い感染リスクに晒されながら働くエッセンシャルワーカーには強いストレスがかかっています。

 

 逆にオンライン産業は業績を伸ばし、株式市場は活況を呈しています。もうけた人が打撃を受けた人を助けられるような、社会全体で再分配を促進する仕組みを構築することが早急に必要です。新型コロナウイルス感染症を善悪二元論で捉えれば差別やナショナリズムに帰着します。逆に社会共通の困難として捉えれば連帯が促されます。

 

 パンデミックや地球温暖化には国を超えた科学的対策が必要です。しかし一部の宗教指導者や政治的指導者は専門家の助言に俊敏に応じないことが露呈しました。人文学には、科学と社会の対立を解きほぐす役割が期待されていると自覚しています。

 

オンラインコミュニケーションの改善を

川上憲人教授(東京大学大学院医学系研究科)

 

 年が明けて鎮静化が期待される新型コロナウイルス感染症ですが、2021年もその影響が続く可能性は高いです。また、感染終息後もさまざまな場面でオンライン形式が残るでしょう。

 

 昨年は新型コロナウイルス感染症が、感染への不安や経済的不安など、さまざまな不安を人々にもたらしました。対面で人と関わる機会が減少したことによるストレスで、心が晴れない生活を送った人も多いでしょう。学生の中では、人間関係が構築されていなかった新入生が、特に影響を受けたと思います。

 

 私の専門である精神保健学では、どのように人々の心の健康を保つかを考えます。心の健康には、人とのコミュニケーションが重要です。オンラインでは、身振り手振りや声色といったノンバーバル(非言語)の情報がうまく伝わりません。そのため、コミュニケーションの質は半分程度に落ちてしまいます。また、集団への所属意識は「自分が何者か」を確認し、安心を得るために大切です。しかし、対面での交流が制限される状況ではなかなか形成されにくいでしょう。

 

 昨年に続き、人との接触を減らしたり、外出自粛が求められたりする中で、どのように心の健康を保てば良いのでしょうか。ここでは三つのヒントをご紹介します。

 

 一つ目は自分に合ったストレスとの付き合い方を見つけることです。東大大学院医学系研究科精神保健学分野が運営する「いまここケア」というウェブサイトでは、自宅で過ごす人に向けて、心の健康に役立つ情報を発信しています。過去や未来ではなく「今」に集中する瞑想法の一種、「マインドフルネス」などの対処法を紹介していますので、参考にしてみてください。

 

 二つ目は運動や早寝早起きを心掛け、健康的な生活を送ることです。オンラインでの活動が中心になると、昼夜逆転したり歩く機会が減ったりしがちですが、運動と生活リズムは体の健康だけでなく、心の健康にも大変重要です。

 

 三つ目は人とのつながりを意識的に増やすことです。例えばカメラをオンにして相手に反応を伝えるなど、オンラインでのコミュニケーションを対面に近づける工夫が必要です。感染対策を徹底した上で、対面での交流も必要です。特に大学生のような青年期には、対面での交わりが人間的成長のためにも欠かせません。工夫して少人数で集まる機会を持てるといいですね。

 

 

堀江 宗正(ほりえ のりちか)教授(東京大学大学院人文社会系研究科) 08年東大大学院人文社会系研究科で博士(文学)取得。同研究科准教授を経て20年より現職。
川上 憲人(かわかみ のりと)教授(東京大学大学院医学系研究科) 85年東大大学院医学系博士課程単位取得退学。博士(医学)。岡山大学教授を経て06年より現職。

【記事修正】2021年1月14日9時45分 各見出しの下部に教員名を追記しました。

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