部活・サークル

2024年3月29日

【寄稿】東大発の「学内限定匿名SNS」? Bubble運営者が開発意図を語る

Bubbleサムネ

 

「Bubble」というSNSアプリを知っているだろうか。「学内限定匿名SNS」アプリとして、西本知貴さん(法・3年)、杉山立弥さん(養・3年)らが東大生を対象にリリースを行った。西本さんらによるとユーザー数は2月に1000人を突破し、今年3月からは23大学で新たに運用を開始したという。アプリの目指す先は「学内に溢(あふ)れるあらゆる情報が集まる、学内限定の情報共有のプラットフォーム」。開発や運営で心掛けてきたことについて、西本さんが寄稿した。(寄稿=Bubble運営、画像は全てBubble運営提供)

 

0. Bubbleとは

 

Bubbleはスマホ、タブレット、Macでご利用いただけます
Bubbleはスマホ、タブレット、Macでご利用いただけます

 

 Bubbleは、東大生発の「大学別の学内限定匿名SNS」アプリです。自分と同じ大学に所属する人だけが集まり、あらゆる情報が完全匿名で共有される、プライベートかつオープンな空間です。2023年5月に東大生を対象にリリースして以来、1000名以上のユーザーを獲得。2024年3月からは、都内の一部大学及び旧帝大を含む23大学で新たに運用を開始しました。学内に溢れるあらゆる情報が集まる、学内限定の情報共有のプラットフォームとなることを目指しています。

 

1. なぜ私たちはBubbleを開発したのか

 

「勉強会プラットフォーム」としての始まり

 Bubbleは元々、前期教養課程のゼミ同期だった西本知貴(文Ⅰ→法)と杉山立弥(理Ⅱ→養)が京都大学、慶應義塾大学の友人3名を誘い、「勉強会開催用プラットフォーム」の制作を目指したところから始まりました。周囲の人のニーズとして、ゼミや文化系サークルなどの学術的なコミュニティーに所属していないがために勉強会や読書会、自主ゼミに誘われなかったり、参加するハードルが高かったりするという声を聞いていたからです。前期教養時に自分が身を置いたコミュニティーによって、後の興味や行動が制限されてしまうことの苦しみは、私たちにも共感できる所が多くありました。そこで、勉強会の内容、日程、頻度、募集人数などの情報が一覧に可視化され、東大の学生なら大学メールアドレスを用いて誰でも自由に参加できるサービスを構想しました。

 

開発を進めていたウェブアプリ
開発を進めていたウェブアプリ

 

問題意識の変化と、学内情報のインフラへ

 しかし開発を進めていくなかで、我々が取り組もうとしている課題は、実は大学組織や大学生の抱えるより大きな問題系の表層に過ぎないのではないか、と考えるようになりました。すなわち、情報の人脈依存や学生コミュニティーの内閉化、そしてそれに伴う疎外された学生の更なる孤立などが、根本的な問題として日本の大学に存在するということです。

 

 出身地域や出身校などの入学以前の条件の差によって、大学生活の過ごし方が大いに変わってしまう。進級と共に専門の分化が進み、関わる学生が限定されていってしまう。コミュニティーの固定化によって、新たにコミュニティーに参加するのが憚(はばか)られてしまう。読者の皆さんも、いずれかは経験したことがあるのではないでしょうか。

 

 我々は、これらの問題に共通するのは「情報の偏在」であると考えました。本来はキャンパス上で溢れている様々な情報(履修に関する情報、イベントの情報、大学で起きた出来事に関する情報など)が一部の集団にクラスター化されているがゆえに、情報の需給体系が非合理となり、結果として情報格差が発生しているのです。

 

 誰もが豊かな大学生活を送るために、全学生が情報を持ち寄りオープンに可視化していく空間を作ることで、情報の偏在をボトムアップで解消したい。その方策として私たちが考えたのが、「フィード」と「コミュニティ」を主軸とする、「全学生が参加する、学内限定の情報共有プラットフォーム」の制作でした。このような理由から方向転換を行い、学内限定SNSアプリ「Bubble」の開発を進めてきました。

 

2. 学内限定の情報共有プラットフォームとなるために

 

 情報の偏在を是正するための「学内限定の情報共有プラットフォーム」は、どのような設計とすべきか。大学とはどのような環境なのか、プラットフォームではどのようなコミュニケーションを促したいのか、どうすればユーザーは積極的に投稿してくれるのか、Xとはどのように差別化されるのかなど、私たちはこのプラットフォームが持つべき性質を規範的に議論したうえで、現在のBubbleを特徴づける機能を設計・実装しました。その性質と機能をご紹介したいと思います。(機能や設計は、ユーザーの皆さんからフィードバックを頂戴しながら、不断に更新し続けています。)

 

① 包括性:全学生が等しく含まれる

 学内の全員に利用される情報共有プラットフォームを目指す以上は、大学に所属する全員が等しく、一斉に参加できる設計としなければなりません。「#春から◯◯大」のハッシュタグを用いて同じ大学の学生や団体、学内メディアをアナログにあまたフォローして形成される、既存のSNSにおける「タイムライン」(フォローユーザーなどの投稿が一覧表示される画面)の現状には、いくつか改善可能な点があるように思います。例えば、大学に関する情報の把握量は、アカウント開設の時期、他アカウントのフォロー数やフォローの時期、使用頻度、アカウントを非公開としているかいなかなどに大きく依存しています。事実、東大生のソーシャル・メディアアカウントのフォロワー数を見てみると、数千人いるものもあれば二桁のものもあります。このような自然発生的ネットワークでは学内全員が含まれるという包括性は達成しづらく、それゆえに情報の伝播(でんぱ)は不完全かつ不規則となってしまいます。毎年入学時期に「情報戦」や「情報弱者」といった言葉が行き交うのも、このようなネットワークから疎外される学生が一定数発生するからではないでしょうか。

 

 そこで、Bubbleではアカウント登録しさえすれば、何もしなくても他の学生と全く同じ情報に等しくアクセスできる設計としました。Bubbleは、プロフィールを設定しない完全匿名制を採用しています。そのため誰もフォローすることなく全ての投稿が閲覧可能であり、自分の投稿も全てのユーザーに届けられます。Bubbleは、これまでになく開かれた学内コミュニケーションのプラットフォームとして、オンラインにおける学生間の情報格差を未然に防ぐことを目指していきます。

 

投稿者名は、指定しない限り「匿名ユーザー」として表示される
投稿者名は、指定しない限り「匿名ユーザー」として表示される

 

②多様性:人格の複数性を肯定する

 人は本来的に多面的な存在です。法学を専攻している自分、ラグビーが好きな自分、ニッチな建築オタクの自分、就活に悩む自分、恋い焦がれる自分、鬱(うつ)のような症状を抱えているが誰にも相談できていない自分…。これらはすべて異なりますが、紛れもなく確かな「自分」です。大学という環境は、あらゆる趣味・好み・思想・性質を秘めた多様な個人が集まる空間のはずです。しかし、実際にキャンパスで他人を前にしたときの「自分」は、極めて限定されたものではないでしょうか。これは、物理空間で私たちが関わり合える人やコミュニティーの数には限りがあるうえに、他者との関わりが必然的に自分にアイデンティティー(自己同一性)の形成を求めるからです。Bubble運営チームは、大学はアイデンティティーが形成される場所であると同時に、既存のそれが大きく揺るがされる場であるべきだと考えます。実際は存在するのに、人前では同一性の陰に隠れてしまう自己の側面。それを肯定して表現することで制約や固定観念が崩れ、新たな可能性を探求できると信じているからです。(東大に前期教養課程が存在する理由と通底するものがあると考えています。)

 

 そこでBubbleでは、人格の複数性を否定し得る、固定のプロフィール欄を設けませんでした。「完全匿名」で投稿することができるため、一つの人格にとらわれない様々な投稿をすることが可能です。自分の趣味について知り合いとは話ができなくても、Bubbleでその趣味に関する投稿をしたら、DMやリプライで反応してくれる人がいるかもしれません。人前ではあまりできない政治や価値観に関する持論に、共感や反論の声が届くこともあり得ます。物理的制約やアイデンティティーの強要がなく、多様性が認められるBubbleという空間でしかできないことがあるのです。Bubbleは、人格の複数性を肯定するプラットフォームでありたいと考えています。

 

③秩序性:投稿に目的性を与える

 Bubbleが情報共有のプラットフォームとして機能するためには、単に大量の投稿が無秩序に散逸していてはいけません。投稿に文脈を与え、意味のある情報として位置付けることが必要です。そのため投稿は全て、いずれかの「コミュニティ」に属すように設計を工夫している最中です(3月中旬現在)。「コミュニティ」とは、学部・学科、興味分野、趣味など、トピック別に自由に作ることができるフォーラムのことを指します。例えば、「2024年度 新歓📣」という「コミュニティ」に参加すれば、新歓担当者は団体の宣伝を流せますし、新入生は様々な団体の宣伝を一つのフィードで取得することができます。また「フランス語学習者の集い🇫🇷」のようなコミュニティがあれば、人前では恥ずかしくて聞けない質問に対して答えてくれる人がいたり、勉強会参加者の募集がかかったりするかもしれません。さらに、「統計局」というコミュニティに所属しておけば、投票機能を用いて実施された様々な学内向けアンケートの結果を一覧することが出来ます。

 

コミュニティの例
コミュニティの例

 

 この点において、Bubbleの設計は他の多くのSNSと異なります。Bubbleはその秩序性ゆえに、ただの馴れ合いの「場」にとどまらず、ユーザーが目的性を持って集まり、情報と知を生産するプラットフォームとなり得るのです。

 

④操作性:とにかく投稿しやすくする

 私たちはBubbleが、日々の小さなできごとについての短いつぶやきから、思いの丈を綴(つづ)った長文まで、さまざまな内容が共有できるプラットフォームであってほしいと心より願っています。そのために完全匿名制を採用して投稿の敷居を大幅に下げただけでなく、文字数制限も300字と多めに設定しました。Bubbleのユーザーインターフェースが極めてシンプルでわかりやすくなっているのも、できるだけユーザーの皆さんの日常に溶け込み、負担なくご利用いただくためです。電車の中や図書館の中、授業時間の内外など、さまざまな場面でご利用ください。

 

Bubble開発前の設計議論メモ
Bubble開発前の設計議論メモ

 

3. これからのBubble

 

 Bubbleは、大学における情報の偏在を是正したいという問題意識のもと、全学生が参加する学内の情報共有プラットフォームとなることを目標に開発・運用されているサービスです。大学における、より平等で効率的な知と情報の生産と伝播に貢献したい、という明確な意図を持って私たちはBubbleを運営してきました。新年度に「Bubbleを入れておけば間違いない」と言われる日が来るまで、私たちは開発・運用に邁進(まいしん)する所存です。

 

 現在、Bubbleの運営にかかるサーバー代などの諸費用は、全て運営メンバーがバイト代や貯金を出し合って賄っています。一切私企業や特定の団体と関わりを持たないことが、Bubbleの運営上の強みとなっていることに間違いはありません。しかし同時に、新機能拡充(対象大学の拡大や検索機能の整備など)に伴い経済的なコストが増えれば、むしろそれが大きな弱みとなりかねないことも確かです。持続可能なアプリ開発を行うためにも、具体的な形でファイナンスの方策を今後考えていく必要があると感じています。

 

 また、Bubbleがユーザーの皆さんが安心して利用できるプラットフォームであることを保証することは、私たち運営の責務です。私たちは常にユーザーの安全を第一とする運営を心掛け、コミュニティガイドラインを含む規約の遵守をユーザーの皆さんにも求めてきました。同時にアプリの設計の面でも、重層的な安全対策を講じています。まず、プラットフォームへのアクセスは大学構成員に限定しています。また、投稿の完全匿名化は、誹謗(ひぼう)中傷や個人の特定を防止します。万が一利用規約違反が発生した場合でも、複数の対応策が用意されています。投稿の通報と運営の迅速なモデレーションに加え、違反行為を繰り返すユーザーに対しては厳格な対応利用停止措置を講じています。

 

 こうしたアプリ運営の方策に関して、これまで同様、ユーザーの皆さまからの意見を大切にしながら練っていくことが大事だと考えています。私たちは引き続き地に足をつけ、学生の需要に密着してあるべき供給を考え、長期的視野を持ってBubbleの開発・運用をしていく所存です。

 

公式ウェブサイト:https://bit.ly/bubble_uni

X(旧Twitter):​​https://twitter.com/bubble_uni

iOS版ダウンロード:https://apple.co/43oIuK1

Android版ダウンロード:https://bit.ly/bubble_uni_android

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