就活では多くの業界・企業を見た上で進路を選択することが重要だ。しかし多種多様な仕事について、社会人の話を直接聞ける機会は多くない。そこで今回は幅広い業界から六つの企業を訪問。東大の卒業生に仕事の内容ややりがい、就活時の経験などについて聞いた。インターネット上の情報だけでは知ることができない、業界や企業の魅力や実態を知って進路選択の参考にしてほしい。(構成・赤津郁海、取材・田中莉紗子)

公認会計士の田中さんの業務は、IFRS(国際財務報告基準)を導入している上場企業の監査の現場主査だ。監査とは、上場企業が提出する有価証券報告書や半期報告書が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して適切に作られているかを監査証拠に基づき判断し意見を表明することで、投資家などの保護につながる業務だ。監査は数人のチームで行われ、田中さんは現場主査として、チームを取りまとめる。監査は1年かけて行われる。具体的には、例えば期中は財務報告に関わる内部統制を検証する業務がある。会社が日々の取引をシステムに記録し、その仕訳を切るまでの流れを把握することで、金額の間違えなどのリスクを回避する体制が敷かれているかチェックする。こうして、財務情報を正しく表示できるような内部統制が整備・運用されているかを判断する。期末は、会社が作成した有価証券報告書の数字やその開示内容の適正性を、網羅性や妥当性の観点からチェックする。
繁忙期とそうでない時期がはっきり分かれているのも、会計士の仕事の特徴だ。上場企業は3月決算の会社が多い。6月に行われることの多い定時株主総会に有価証券報告書の公開を間に合わせるため、4、5月が繁忙期となり、ゴールデンウィークも返上だ。その代わり閑散期は休日が多く、1年を通してみると均衡は取れている。
仕事の面白さは、適切な会計処理が簡単に一つに定まらない場合もあり、会計基準を読み込みじっくり考える力が求められる点にある。クライアントに、新しい業務を始めたいがどんな会計処理になるのかわからない、と相談された際は、必ずしもその会社の実態にピッタリ合った基準がないことも。ビジネスの状況を考え、実態に即した形を検討し、話し合っていく必要があるのだ。
社内では、監査の効率化の取り組みにやりがいを感じている。監査業務でもDXが進んでいて、田中さんは提案する立場だ。自身が提案したツールによって作業が効率化しチームの助けになれた時は達成感がある。
職場は自主性を重んじる、フラットで和気あいあいとした雰囲気だという。やりたいことや提案が合理的なものであれば、それに応えてくれる上司がいる。大学で所属していた米山ゼミで扱ったことで興味を持ったIFRS適用企業の監査をしたいという、入社時に伝えた希望もかなった。年次の低い時からいろいろな業務に携わることもでき、今の自分にとって大きな価値になっている。裏返すと、自主的に動かないと、自分の能力が磨かれないため、そこは留意しながら自己研算に励んでいるそうだ。
自身の強みは考える力だ。会計士業界は、会計基準が変更されたり、監査基準がアップデートされたりするので、会社の研修素材などを用いて勉強し、自分の専門知識を磨き続けることが求められる。考える力はこの業界特性に合っていて、自身の強みだと感じている。加えて、チーミングが好きなところも、今の現場主査としての業務にフィットしている。各メンバーの特性に合う業務の内容や方法を考え、当てはめることに面白さを感じていて、自分の監査チームの運営や、いかにチームを良くしていくかを考えるのにつながっている。
働く中で、会計基準や監査基準といった知識はもちろん、発信力のようなソフトスキルも取得できた。米山ゼミは思考を磨くゼミだったが、自身の考えを発信することに苦手意識があった。しかし、どれだけちゃんと考えてもうまく伝えないと、ゼミの先生にも、社会に出てからのクライアントの方にも伝わらず意味がない。会計士として働くと、年上で経験もある企業の上層部の方と、若い年次のうちから一緒に仕事をしなければならない。だからこそ、どう説明したらきちんと伝わるかを意識していて、最近少し上達を感じるという。会計士の仕事では、説明力が求められる機会が数多くある。対社外では、クライアントとの打ち合わせや、会計に関する相談への対応、監査に必要な資料を提供してもらうための説明などが必要となる。繁忙期は、監査先で作業を行い、クライアントと直接話し合ったり質問したりする。対社内では、監査計画や会計論点に関する協議や、時には会社をより良くするための提案のプレゼンなどが求められる。
EYに入社したのは、Big4の就職説明会に参加し、リクルーターの方と面談する中で、自分に雰囲気が合っていて、自身の考えを尊重してもらえたことが印象的だったからだ。EYかもう一社で迷っていると正直に伝えたら、「自分の選択なので、やりたい方に決めてください」と言われたのが好印象で、最後の決め手となった。
大学で学んだ業務の根底にある理論は、間接的に自分の糧になっている。前に出て発表する機会があったことや、天才的な人と講義などを通して触れ合えたことも財産となっている。思考力や発表力は大学でも鍛えられたと感じている。ただ、英語で会話する能力は、大学でつけておけば良かったかもしれない、と振り返る。日本企業の監査でも、例えば海外に子会社があるような企業が対象の場合は、現地の監査法人などと英語で会話する力が必要となることもあるそうだ。
社内のデジタル化の取り組みを担当しているため、今後はそのツールをより多くの人に使ってもらい、EY全体の監査の効率化に貢献できたらと思っているという。また、素敵な上司の仕事の様子を見て、自分もそうなりたいと背中を追いかけてきたので、今度は自分も後輩からそう思ってもらえるようになりたいと話す。
会計士を目指す東大生に向けて、「興味があることをしっかり伝えて、それがかなえられる環境があり自分に合うと思った会社を選んでください」とエールを送ってくれた。











