インタビュー

2014年8月25日

「東大生は、つぶしが利く道を選ぶ傾向が強すぎる」 エルテス 菅原貴弘 代表取締役社長

「東大生は、つぶしが利く道を選びがちで、不確実性に慣れていない」そう語るのは、東大在学中に起業、その後中退という経歴を持つ菅原貴弘さん。現在は、株式会社エルテスの代表取締役社長として、ウェブリスクマネジメント領域を中心に、ネット上の誹謗中傷対策に取り組んでいる。そんな菅原さんの目には、今の東大生はどう映るのか、話を聞きました。

エルテス菅原さん.JPG

−−−入学されてから、起業を考えたのはいつ頃ですか?

「東大に入ったら勝ち」というのが幻想だったことに気づき、入学してすぐ、大学1年生の時に起業を考えました。最初は、政治家、NPO、ベンチャーなど、どれをやろうかいろいろと考えました。正直、どれでも応用は利くと思っていました。ベンチャーで得た経済力を政治力に転換することもできるし、NPOで会員を集めてそれを政治力や経済力にすることもできる。その中で、一番早そうなベンチャーを選びました。

−−−そもそも、東大に入ろうと思った理由は何でしょうか?

特に意味はないです。「東大に入ったら天下取れるんじゃないか」と思っていました。僕は岩手出身のですが、田舎って情報が少ないじゃないですか。情報が少ないと、東大に入ることで成功が約束されているような気がしていました。

−−−それでは、学生時代は起業のために時間を費やしていたということでしょうか?

そうですね。インターンと起業にほとんどの時間を費やしていました。インターンはWeb系や人材系に行っていました。今の会社は2社目で、1社目を立ち上げたのが大学2年生、今の会社が4年生の時ですね。

−−−その後、東大を中退し事業に専念されていますが、中退することに躊躇いはなかったのでしょうか?

もともと学費を自分で払っていたので、親に遠慮する必要がありませんでした。多くの人は、学費を親に払ってもらっているので、中退することに申し訳なさを感じてしまうかもしれませんが、そういった悩みはなかったですね。成功した人を見渡しても、ビル・ゲイツも中退ですし、迷いはなかったです(笑)。

−−−今はウェブリスクマネジメント領域の中心事業として誹謗中傷対策に取り組まれています。そういった事業だと、ブラック企業と言われてしまっている会社の依頼にどう対処するかといった、難しい問題もあるかと思います。その辺りは、どのように対応されているのでしょうか?

自主規制を設けています。自分たちでコメントして削除するというマッチポンプを行わない、悪質な人を助けないといった規制を作成しています。また、コンプライアンス委員会を設置し、警察のOBの方に入ってもらっています。

実はリスクマネジメントの分野って、ベンチャー企業が弱い部分のひとつです。MBAのカリキュラムであまり教えないのが、「行政に対するリスクヘッジ」。ソーシャルゲーム業界でも、「コンプガチャ」が問題になりましたよね。業界団体・ガイドラインを作って、役所の人に適切に指導してもらう必要があると思います。

ベンチャーの社長は、往々にして売上・利益を重視しているので、どこかで社会通念上の問題が生じ、結局萎んでしまうというのがパターンになっています。つまり、「おれはベンチャーだ!」と言って調子に乗っていると、叩かれて終了です。

−−−今であれば、起業する際にエンジニアの存在は欠かせないと思いますが、菅原さんはプログラマだったのでしょうか?

僕自身はエンジニアではありませんが、プログラミングはできます。ベトナムで開発をしていた時に、プログラマに逃げられ、自分で開発せざるをえなくなったことでできるようになりました(笑)。

東大に入れるくらいの知能があればプログラミングとか超楽勝です。みんなも受験勉強の情熱を持って、チャレンジしてみるべきだと思います。

−−−これからの長期的な目標は有りますか?

東大生と同じかもしれませんが、国のために役に立つことをしたいですね。そういった点では、サイバーセキュリティや、インテリジェンスといった分野で貢献したいと思っています。

−−−今の東大生は、在学中に起業する人も増えてはいますが、全体で見れば多くはありません。東大生と起業について、どう思われますか?

今、起業しようと思わなかったら、もうそう思うことはないでしょう。景気が良くてこれだけベンチャーで成功している人がいるのを見て、狙わないのであれば、それは狙わない人なのだと思います。

客観的に見て、日本のように成熟した国で改革を進めようとした時に、既に出来上がった官僚システムに入っても、改革はできないと思うんですよね。東大生が全員起業したら、相当の爆発力になる。仕組み自体を変えていく必要があるのではないでしょうか。

−−−この前のTODAI Foundersを通じて、東大生はどのように見えましたか?

あれに来ている人は、センスはあると思う一方で、どういう風に突き進んで行けばよいかわからない人が多い印象を持ちました。「ベンチャーと学業を両立したい」という悩みを持っている人は、行けるとおもうのであれば、どちらかにリソースを集中すべきですよね。

東大生って、マルチな人間になろうとする人が多い気がします。それが、大体の失敗の原因です。ふつう、あるカテゴリーの中でしか勝つことはできないのに、東大生は謎の万能感を持っている。何になりたいのって聞くと、「レオナルド・ダ・ヴィンチで、いろんな事できる人」って言うけれど、そんな人はほぼいない。特定の分野で勝負する、もっと言えば、何かの分野を作った人が勝つわけです。

東大生は、権威を与えられている側なのですよね。自分が東大という権威ある大学に入って、「僕はあやしい者じゃありません」ってなっているけれど、それだと一生偉くはなれません。他の人の権威を借りて武装していっても、限界があります。

−−−確かに、マルチを目指す東大生は多い気がします。

実際は万能ではないということに、早く気付くべきですね。東大生はいつも,つぶしが利く道を選ぶ傾向が強すぎます。受験とは違うので、バッファーを持ち続ける必要はありません。どこかで決断する、つまり何かを捨てる必要があります。

三国志で、諸葛孔明が劉備のところに行ったことが、失敗だったと言う人がいます。ただ、本当に賢い人であれば、曹操の500番目の家臣になるよりも、「今はしょぼいけど、人格は良いし、こいつのNo2になっておれが支えてやるか」という構想の方が正しいと思います。今風に言えば、ベンチャーのCFOを目指すという感じでしょうか。そういう志向がわからない限りは、本当に頭がいいとはいえない気がします。

田舎の友人と比べてちょっと英語や数学ができる、というのは、万能でも何でもないわけです。社会に出たら、隣で死ぬ気で頑張っているひとがいるから、そんな簡単に勝てるわけがない。でも、万能感があるがゆえに、目移り状態で、「こっちでも行けるんじゃないか、あっちでも行けるんじゃないか」と深みにはまっていってしまう。

−−−東大生がそうした幻想が幻想であったことに気づくチャンスはあるのでしょうか?

ないでしょうね。

多くの東大生は、あまり世の中のことを分かっていないですよね。みんなと同じことしていても成功はないことに気づいていません。みんながダブルスクール通い始めたから通うって、全く戦略的な動きではない。それで自分の価値が相対的に上がるって思うのが間違いでしょう。

あと、東大生は不確実性に慣れていない。東大受験の経験が大きいので、勉強すれば必ず点数取れるっていう因果関係の中で生きている。そうではなくて、不確実性が重要なのです。今ってみんなアメリカに行けるけど、コロンブスがすごいのは、大陸があるかどうか分からないときにアメリカに行ったからですよね。

−−−今でも確実性の高い道として、大企業に行く東大生は全体として見れば多いです。

それもある意味正しい選択ではあります。自分がやりたいことわからなければ、上から選ぶという。東大を選んだことの延長ですよね。

ほとんどの学生って、大学卒業するまで本当の選択をしていないのです。頭が良かったから上の高校、大学に行っているにすぎない。パラレルな選択ではないのです。大学入るまでたまたま頭が良くて、成績順にソートして切られた場所に来たっていうだけ。そういう意味では、選択や決断するのが遅い。

とは言え、ある程度錯覚も重要ですよ。僕も起業するときは、一瞬でソニーぐらい作れると思っていました。実際は違うわけですが。完全情報になっちゃうと、「こんなつらいこともあるのか」と躊躇いができてしまう。若気の至りも必要だと思います。分からないうちにジャッジしたほうがいいでしょう。

(オンライン編集部 荒川拓)

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