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2021年3月25日

男性の意識改革が不可欠 「Women’s Leadership Summit」イベントレポート

 女性のエンパワメントやジェンダー平等、リーダーシップについてさまざまなセクターが集まって議論し、ビジネスやテクノロジーなどの戦略を含めたアイデアを出し合う場である「Women’s Leadership Summit」。3月8日の国際女性デーに合わせ、国際学生会議所の主催、CIC Tokyo・PwC Japanグループ・東京大学・日本経済新聞社の協力、外務省・文部科学省の後援により3月6日にCIC TOKYO(虎ノ門ヒルズビジネスタワー)で開催された。「ジェンダー平等に向けて男性リーダーが果たすべき役割とは?」というテーマで政治、経済、学問という3つの分野をけん引するリーダーにより交わされた議論の様子を紹介する。(取材・鈴木茉衣)

 

「女性が少ないのは仕方ない」で終わらせるな

 

(左から)三谷氏、木村氏、松木大学執行役・副学長、中村氏

 

 政界からは文部科学省大臣政務官や内閣府大臣政務官(東京オリンピック・パラリンピック担当)、復興大臣政務官などを務める三谷英弘氏、経済界からはPwC Japanグループ代表で東大公共政策大学院運営諮問会議のメンバーでもある木村浩一郎氏、学界からは東大の松木則夫大学執行役・副学長(ダイバーシティー担当)がそれぞれ登壇。ファシリテーターを、日本経済新聞女性面編集長で女性のキャリアなどについて数多くの記事を執筆する中村奈都子氏が務めた。

 

 冒頭では、男女共同参画大臣を務めた橋本聖子氏による開会あいさつが代読された。橋本氏はあいさつの中でインクルーシブな社会の実現に向けた若い世代の思いに期待を寄せた。

 

 続いてのディスカッションセッションのトピックは大きく分けて2つ。最初のトピックは「男性の意識改革」で、中村氏は「日本は性別役割分業意識が強くそれが女性の生きにくさにつながっているため、男性の意識改革が重要になる」と無意識の偏見の暴力性を強調した。

 

 木村氏はこれを受け、従業員の意識改革のためのPwC Japanグループ内での取り組みを紹介。男性の育休取得率を100%にすることと男性の平均育休取得期間を2週間以上にすることを具体的な目標にしていると語った。PwC Japanグループは、国連ウィメンが提唱する、ジェンダー平等実現のための活動「HeForShe」を推進する企業として公式に選出されている。マジョリティーの意識の変革のためには、理屈だけではなくそれぞれの人の「心が動くこと」が必要であり、そのきっかけ作りをしたいと考えていると話す。

 

 続けて、東大の松木大学執行役・副学長が東大の女性教員の少なさについて具体的な数値と共に説明した。女性教授比率8.3%(2020年)などの数字は国公立大学の中でも低い方である一方、東大としては過去最高だという。ライフイベントのサポートやキャンパス内の保育園設置などの女性教員支援の具体的な取り組みに加えて松木大学執行役・副学長が語ったのは、やはり男性教員の意識についてだった。「教員の女性比率が少ないとは言っても、選抜自体は公平に行われており、そもそも候補者が少ないのが理由だ」というようなマジョリティーの典型的な意識を問題視し、女性の少なさの理由として女性に育児や介護の負担が掛かりやすいことなどを挙げた。

 

 

 三谷氏は最初に、森喜朗氏の女性蔑視発言とそれをめぐる一連の動きに触れた。オリンピックとパラリンピックでジェンダーの問題だけでなくLGBTQの人々、障害者なども含めたインクルーシブな社会を目指していただけに、残念だという。本題である女性の政界進出については、まず国会議員の女性比率がOECD諸国中最下位であること、続けて地方議会の3割以上で女性議員がいないなどの現状を改善するため2018年に公布・施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」の内容などを説明した。

 

 さらに、議員選挙において候補者や議席の一定割合を性別ごとに割り当てる「クオータ制」に関しても三谷氏の話は及んだ。過去に女性議員が大勢生まれ「チルドレン」「ガールズ」などと呼ばれたことが何度かあったが、そのような候補者たちも戦局が厳しい地域で擁立されやすい傾向にあることなどを理由に短い議員生命となってしまうことが多かった、と選挙制度の現状そのものに関わる問題を説明。また、議決のための定足数が定められていることを理由に国会議員は産休や育休が極めて取りづらいなど、さまざまな改善すべき点を指摘した。加えて、民間企業、特に中小企業に対しても男性の育休取得率の上昇を目指す必要があり、法改正によりその後押しをしていくとした。

 

 中村氏は以上の内容を踏まえ、男性育休取得率の上昇に成功した事例では男性の育休取得が上司の評価にもつながるような仕組みが鍵となったことなどを説明。企業ではどのような協力体制が必要か木村氏に意見を求めた。木村氏は上司の意識に加え、育休を取得しようとする従業員が空白期間、取引先との関係への影響を心配する傾向にあることも課題となっているとした。それぞれ「無言の圧力」を変えるためルール化すること、実際に育休を取得した事例についてもっと発信していくことなどが重要だという。

 

 続けて中村氏は「女性が少ないのは仕方ない」という松木氏も述べたような男性の意識や「クオータ制は逆差別」という意見にどうアプローチしていくべきかと質問。松木大学執行役・副学長は、性別によって育った環境が異なることがあり、その積み重ねで今の状態ができていると語った。男女がスタートラインから違いうるということや、今の状態の異常さを認識すべきだという。三谷氏も同様に、性的役割分担の問題や「男だろ」などの表現が「男性は強くあらねばならない」という価値観の押し付けになりかねないこととの関係を指摘した。

 

理系の女性をどう増やす?

 

 次の議題は「STEM女子の可能性」。STEMとはScience、Technology、Engineering、Mathの4つの単語の頭文字を合わせた言葉で、STEM教育とはこれらのいわゆる理系分野に関する、科学技術人材を目的とした教育のことだ。中村氏は冒頭で、日本では大学における理系分野で女性が少なく、このことは女性目線での商品開発を阻みやすいなどの問題をはらむと指摘した。

 

 まず企業の取り組みについて、木村氏はPwC Japanグループが全国の女子中高生を対象に行っている、デザイン思考を使った課題解決体験プログラム「Design Your Future」などの取り組みを紹介した。一番大切なのは、どのように「女性は理系に向かない」というステレオタイプを打破していくかということだと気付いたという。

 

 松木大学執行役・副学長は東大の女子学生の割合について説明した。入学者全体のうち女性2割の壁を超えられない(編集部注:2021年度入試では、全合格者のうち女性の割合が過去最高の21.1%だった)ことに加え、工学部や理学部では女子学生の少なさが顕著だ。女子中高生を対象とした説明会の実施や冊子作り、高校へのポスター配布などの取り組みを行っているが、なかなか女子学生の増加に直結しないという。女子学生は刷り込みによって理系に向かないと思いがちだが、実際の理系科目の点差は本当にわずかなので可能性を信じて頑張ってほしいと述べた。それに対し中村氏は、東大が2021年度から執行部の過半数を女性とする方針を定めたことについて期待を寄せた。

 

 三谷氏は、英米に比べ理系の女性研究者が少ない日本の現状を踏まえ、出産や育児の負担が大きくなりやすい女性研究者への金銭などの支援や女子中高生の理系進路選択支援プログラムといった取り組みの内容を説明した。また、さらなる後押しとして、大学の研究や若手研究者育成のためのいわゆる「大学ファンド」についても、ダイバーシティーを推進している大学により多くの研究費を支援するという議論があるという。技術を使って女性の健康問題の改善に取り組む「フェムテック」の市場が成長している動きも評価した。

 

 

 再び松木大学執行役・副学長が、大学としても女性が出産や育児などを経ても活躍できるような政策の必要だと指摘。木村氏も、出産や育児で仕事から抜けることへの不安が大きい人がいることや、実際はスムーズに復帰できるケースが多いことなどを説明し、そのことを発信していくことの重要性を再度強調した。

 

 中村氏が企業の女性へのSTEM教育のあり方について三谷氏に提案を求めると、三谷氏は女性の「M字カーブ」問題に言及。新卒一括採用でキャリアをスタートさせ、子を産み育てることでキャリアに「穴が開く」ような形となってしまうことについて、日本の社会全体の働き方にも関係することだと述べた。キャリアアップのために大学院で再び勉強をするケースなども、日本の女性では少ないという。例えば先に子を産み育てて20代半ばでキャリアをスタートさせるなど、柔軟な働き方ができる仕組みが必要だとした。

 

 これを受け、一斉に就活を始め一斉に働き始めるという現在の日本のシステムの中では、出産や育児に限らず病気や勉強のためにもその一本道を逸れることが難しいのではないか、と中村氏は話す。木村氏は、歴史の積み重ねで出来上がったシステムがあるため意識変革は時間がかかるが、少しずつ変わってきているのではないかと希望を示した。

 

白熱した質疑応答:クオータ制をどう考えるか

 

 最後に質疑応答の時間が設けられた。まず「産休や育休を取得する人とその周囲の人の双方にとって良い制度を会社の中でどう作っていくのか。また、育休や産休を取得する人の周囲により重い負担が掛からないようにすることが必要だが、それぞれの企業の経営状況によっては難しい可能性があるため、それを政界からサポートする方法などはあるか」という質問がなされた。

 

 木村氏は前者の質問に対し「子が産まれた時に(性別問わず)休むのを当たり前にし、かつその際どのように業務全体を進めていくのかを考えることも部署の役割の一つである、という状況を当たり前にしていく」と回答。三谷氏も後者の質問に答えて「規模だけではなく、その職場の雰囲気も関係してくる」とした。支援については金銭面を始めとして、まだまだ不十分であり今後の課題の一つだと認識しているという。

 

 続いて「そもそも、東大の女子学生の少なさには興味を持つ出身校の層などの属性が限られていることが関係していると考えられ、理系分野の女性の少なさについても中高生の時点では既にバイアスが掛かっている可能性があると思うが、初等教育段階での取り組みなどはあるか」という質問。松木大学執行役・副学長の回答は「初等教育段階での大学としての取り組みなどはないが、学生全体の出身校などについては、オンラインでのさまざまな取り組みにより地方の中高生にも東大に興味を持ちやすい環境になり始めている」という趣旨のものだった。

 

 「クオータ制に賛成か反対か、またなぜ反対論者が多いのか」という質問に対し、三谷氏は比例代表制と小選挙区制でも事情が異なってくると説明した。小選挙区制の場合、候補者は地域住民との交流などにより地域とのつながりを強固にする必要がある。しかし、家庭で家事や子育てを女性が主に担うケースがまだ多い現状では、家族との時間などを確保しようとすると女性が立候補するのが現実的には難しいケースが多く、それも課題の一つだという。

 

 松木大学執行役・理事長は「私としてはクオータ制は手っ取り早い手段だと思っている」とした上で、入試は公平さが強く求められる場であるため、導入するには人々の意識改革が不可欠だと話した。実際はスタートラインにも性差があり、入試の公平性もあくまで「見かけ上の公平さ」に過ぎない。教授の性比についても「候補者の中から選ぶことが絶対的な公平さである」という考えを少しずつ変えていく必要があると語った。

 

 また、木村氏はクオータ制などの導入について「やり方を工夫すれば良いのではないか」という考えを示す。女性の割合を決めるだけでは「下駄を履かせている」と思われてしまうが、例えば昇進候補者の母集団における男女比と実際に昇進した人の男女比に乖離が生じないようにするなどの工夫をすると、反発する人はあまりいないという。

 

 最後に中村氏が改めて一人一人の意識の変革が重要であり、そのためにもまずは自分自身の中にある考え方を見つめ直すことで世の中は変わっていくのでは、と述べ、1時間半にわたるイベントは終了。ジェンダーに関する問題の当事者は女性だけではなく全ての人であること、また制度改革のためにはマジョリティーの意識改革が重要になってくることが確認されたイベントだった。

 

                             ◇

 

 何事についても「自分自身の中にある考え方を見つめ直す」上で重要となってくるのは、自分自身にとって身近な話題から思考を広げていくことではないだろうか。例えば、女性のエンパワメントについてであれば「自分は自分や誰かが性別によって不利益を被っていると感じたことはない」「仮に性別による不平等や不利益があるとしても、そのことに興味はないし、少なくとも自分は社会進出をしたい女性の抑圧もしていないから関係ない」で終わらせてしまうのではなく、まず「なぜこのような議論が存在しているのか」「自分の知らないところや想像の及ばないところで不利益を被っている誰かがいるのではないか」という根本まで立ち返ることで、新たな気付きが得られるのかもしれない。

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