インタビュー

2016年2月27日

記憶を継承する仕事。八重山平和祈念館で働いて得たもの 綿貫円さんに聞く

 沖縄をテーマに平和や記憶といったテーマに触れるイベントが、3月20日(日)に駒場キャンパス近くのカフェで行われる。総合文化研究所の高橋哲哉教授と、八重山平和記念館の元職員の綿貫円さんとを交えて、泡盛や沖縄にまつわる料理を楽しみながら話し合う。

 石垣島の魅力を存分に伝えつつ話題を提供するのは、今年8月まで八重山平和祈念館で働いていた綿貫円さんだ。石垣島に育ち早稲田大学に進学、学部を卒業後、教員を目指し日本教育大学大学院、東京都非常勤講師を得て、石垣に戻った彼女にその仕事の魅力を聞いた。

 

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――教師から一転、八重山平和祈念館で働こうと思ったきっかけは?

 私は石垣生まれなのですが、高校在学中に八重山平和祈念館で地元の戦争の歴史を学んだとき、もっと勉強してこの歴史を伝えなくてはと強く思いました。そのことが早稲田大学に進学して教員を目指すきっかけになったので、私自身の「学びたい』という気持ちの原点である祈念館の求人を見たとき、「とにかくやりたい!」と思い石垣島へ帰りました。

 また、戦後70年の節目を前にして、ご高齢となった体験者の方々から実際にお話を聞くことが出来る最後のチャンスだと思ったので、『今しかない』と思いました。

 

――八重山平和祈念館での主なお仕事を教えてください

 主な業務は、地元の子どもたち、修学旅行生、教員の初任者研修、一般の団体などへ展示の解説と、年に3回の企画展示開催。その解説や企画展示を作るために、戦争体験の証言や資料の収集・整理、戦争遺跡の調査などがあります。遺族や研究者、マスコミの方々からの問い合わせや調査依頼に対応することもあります。

 

 

――仕事をする中で、特に意識していたことは何ですか?

 戦争の歴史を伝えるためには、まず自分が知ることが大切なので、たくさんの証言や資料に触れること、戦争遺跡を実際に歩くことを意識しました。フラッと来館された方との会話に企画展のヒントがあったり、知りたかったことに出会えたりしたので、来館者との会話もとても大切にしていました。 私自身が知ったときの衝撃、証言してくれた方の気持ちや様子も、展示解説の中で伝えていました。そうすることで、単なる「お勉強」ではなく、一緒に感じて考えることが出来たと思っています。

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――高校の時に感じた思いや教員としての経験が実際に仕事に生きたことはありますか?

 祈念館で、高校生平和ガイドの育成を行ったことです。戦争を体験した方々が少なくなっているので、若い世代が戦争を語り継ぐ活動をしたいと考えていました。2013年当時、高校生の来館は年間5名程しかなかったのですが、私は高校生のとき祈念館に来たことが大きな転機になったので、同じようによりたくさんの高校生に祈念館に触れてもらいたいと思い、高校生を対象に募集しました。

 高校生たちは、体験者の方との交流や戦争遺跡巡りをしていく中で、戦争の歴史を自分自身のなかに取り込んで考え始めました。そうした高校生平和ガイドから説明を受けた方々の反応を見ていると、彼らが伝える意義は大きいと実感しました。 この取り組みにより、高校生の来館が増えただけではなく、高校生同士で活動する団体が出来たり、戦後世代の大人たちが動き出すきっかけになったりと高校生平和ガイドの影響が島に広がっていったと思います。  

 

――体験者の話を聞ける最後のチャンスということでしたが、仕事でそうしたことを強く感じたことはありますか?

 企画展『旧南洋群島へ渡った沖縄県人-楽園から玉砕の島へ 戦後70年の時をこえて』の開催です。 この企画展は、たまたま来館された方との会話から始まったものでした。その方は、サイパンでの地上戦を経験し孤児になった方でした。その体験を聞くまで、私自身、南洋群島の歴史を詳しく知らずとても衝撃を受けました。その方が「沖縄戦も悲惨だったから、サイパンでのことは話せなかった」とつぶやいたのを聞いて、企画展にしたいと思いました。

 本館にあたる沖縄県平和祈念資料館でも、南洋諸島に関する企画展は開催したことがなく、資料集めが難しいからと最初は反対もありました。しかし、様々な方へお願いしてまわり、少しずつ情報や資料を集めた企画展で、遺族の方が涙している姿や、これまであまりネットワークがなかった八重山の南洋帰りの方が、企画展を見ながら自己紹介し合い、思い出話をしているのを見て、本当に開催してよかったと思いました。

 この企画は、日本経済新聞にも取り上げていただき、後日それが書籍化されました。こうして、南洋群島での歴史が伝わり残っていくことを嬉しく思っています。  

 

――ありがとうございました!

 綿貫さんは3月20日(日)に駒場キャンパス近くで行われる以下のイベントに登壇する。平和や記憶といったテーマを、総合文化研究所の高橋哲哉教授や綿貫さんを交えて話し合うイベントだ。詳細は以下のとおり。

 

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人間の安全保障カフェ vol.2現在、未来へ語り継ぐお仕事

戦後70年の節目の年の最後に、沖縄について考えてみませんか?

カフェ第2弾となる今回は、総合文化研究科の高橋哲哉教授と、沖縄県石垣島の八重山平和祈念館で記憶の継承に携わるお仕事をしてきた綿貫円さんをゲストスピーカーにお迎えし、沖縄の文化に触れながら、その歴史、人間の安全保障について考えます。

【日時】12月6日(日) 11時から15時

【予算】3000円(料理とワンドリンク付き) 2杯目以降500円

【主催】NPO「人間の安全保障」フォーラム(http://www.hsf.jp/

【後援】東京大学新聞社(https://www.todaishimbun.org/

【場所】 villedge JAM(駒場東大前駅徒歩10分)パン屋ブロートランド2階(地図はこちら

【要予約】参加登録はこちらのfacebookページからお申し込みいただくか、shoka.ota@hsf.jpまでご連絡ください。

(文責 須田英太郎、 写真はHSF提供)


 

この記事は2015年11月に掲載したものです。イベントの延期に伴い再掲しました。

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