COLUMN 2019年10月26日

芸術に大学の知性を 芸術創造連携研究機構 世界水準の芸術教育へ

 今年5月に発足した、東京大学芸術創造連携研究機構(ACUT)。今回はその活動について、副機構長である岡田猛教授(教育学研究科)に取材するとともに、日本では珍しく総合大学で芸術を研究している慶應義塾大学アート・センター、実際にACUTの授業を受けた学生に話を聞いた。

(取材・原田怜於)

 

 ACUTはArt Center,The University of,Tokyoの略で、東大初の芸術を扱う総合プラットフォームとなる。現在は芸術家や芸術大学の教員を招いた実技授業の他、シンポジウムや講演会が活動の中心だ。

 

 ACUTは総合文化研究科を基幹部局として、これまでに芸術に関する取り組みを行ってきた7部局が連携する形を取る(図1)。教育学研究科や総合文化研究科の有志教員らの働き掛けにより創設に至った。

 

 

 現在は、総合文化研究科の経費や財団からの助成金が主な活動源。今後は予算の拡充とともに、創作活動支援と研究の拠点「アートラボ」、芸術資源の収集・保存・活用を行う「クリエイティヴ・アーカイヴ」、芸術家が滞在し活動できる「アーティスト・イン・レジデンス」など芸術研究を活性化させる取り組みを行う予定だ(図2)。 

 

 

 

 「世界水準の芸術教育を実現したい」。そう話すのは、15年来芸術創作過程の研究を行うACUT副機構長の岡田教授だ。

 

岡田 猛(おかだ たけし)教授(教育学研究科)

 

 「ACUT創設の最大の目的は研究推進にあるが、大学の知性と芸術の知の融合により生まれるものに期待している。座学中心の授業が多い東大に身体性を持ち込むことで東大生が経験知を獲得できる。一方、芸術家がアカデミックな知に触れることで芸術に新たな視点がもたらされる可能性もあるのではないか」とその意義を語る。

 

 実際に開講された講義(図3)を見ると、主体的な取り組みが強く求められるものや作品の制作が授業の中心となるものなどが見受けられる。

 

 

 ACUTは現在、東京藝術大学との連携強化や「アートラボ」の実現に取り組んでおり、各部局横断で芸術を副専攻にできる仕組みも整えていくという。しかし、まだ発足から5カ月余りということもあり、岡田教授は「あまり早くから手を広げることはできない。まずはできることから少しずつ活動を進めていく」としている。

 

学生も活動に参加を 予算・人員の確保が課題

 

 先進的な活動を進めるACUTだが、懸念点も存在する。予算・財源の問題は大きい。現在ACUTでは活動の拡大のため大学本部への予算申請を計画しており、寄付金も募っているが、活動を継続するために必要な資金の確保は容易ではない。機構の運営に当たる人員の確保も課題だという。岡田教授は「活動を進め、実績を出すことが課題を解決する上で大切だ。その中で活動に興味を持ってもらい、運営に協力してくれる学生有志を募れればありがたい。実際に働き掛けてくれる学生もいるが、こちらの受け入れ態勢が整っていないこともあり実現には至っていない。今後は学生の若い力も巻き込みながらさらに活動を発展させたい」と、積極的な参加を呼び掛ける。

 

 では、活動は他の組織や学生からはどのように評価されているのだろうか。慶大アート・センターは「大学で講義をするからには、既存領域との結び付き方が大切になってくるのではないか。芸術活動では何をもって成功とするかが難しいが、組織としての柔軟性を失わないこと、大学という組織の中でどのようなポジションを取れば最も有効に自らの取り組みを機能させやすいかを常に考える必要がある」と、芸術を扱う上で求められる姿勢に意識的になるべきであることを強調する。

 

授業を受けた学生の声

 

Aさん「身体表現に関する授業を履修した。授業を通して、人の身体の動きに注目する視点を得られた。印象に残ったのは、身体表現として普通想定されるダンスのみならず、人とともに動くことも身体表現と捉えられていたところだ。今後はこのような授業がもっとさまざまなジャンルで行われ、少人数でのきめ細かな指導が多くの人に行き届くことを期待する」

 

Bさん「履修したのは西洋音楽の楽曲構造について、教授が毎回作曲家を取り上げ解説を行う講義だった。ただ、講義で得られたのは浅い知識で、芸大の教授が東大の学生の知識水準を見誤っているようで残念だった。ACUTの理念には素晴らしいものがあるが、それが学生にまで浸透しているとは言い難い。単位を取るのが楽そうというだけで履修されるべきでない。カルチャーセンターでやる市民向け教養講座のレベルのものではなく、学問性の高い授業を施してほしい」

 

 岡田教授は「学生たちにはまずACUTの活動に触れてほしい。芸術には無縁だと思っている人こそ、芸術に親しむことで運命的な出会いがあるかもしれない。自分の表現を形として残すことは生きた足跡の記録という意味で個人にとって大切な意味を持つ経験になり得る。授業という形をとっているので、広範な東大生に活動に参加してほしい」と学生への期待を述べる。新たな活動、新たな視点により、大学に新たな風が吹くことを期待したい。


この記事は2019年10月15日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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