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2019年11月15日

「みんなの首里城をもう一度」首里城デジタル復元プロジェクト発起人の思いに触れる

 10月31日未明に首里城で発生した火災では、正殿を含む7棟が被害を受けた。火災から2週間が経過した現在でも国内外から悲しみの声が止むことはない。そんな中、首里城を3Dモデルとして「再建」しようとする動きが東大から始動した。「OUR Shurijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」。焼失部分が復元されるまでの観光資源を生み出すとともに、沖縄の人々を元気付けることを目指す。プロジェクトを主導する川上玲特任講師(情報理工学系研究科)に、プロジェクトの概要と3Dモデル作成に懸ける思いを聞いた。

(取材・撮影 中野快紀)

 

 

 今回のプロジェクトではStructure from Motion(SfM)という技術を活用。ある物体について、複数の異なる視点で撮影された写真や動画のデータを使うことで三次元の形状を復元するものだ。現在ではパソコンでも簡単に3Dモデルを作成することができるまでに研究が進んでいる。川上特任講師は今回のプロジェクトに踏み切ったきっかけの一つに、研究分野を世の中に知ってもらいたい、そのことで研究分野に恩返しをしたいという思いがあったと話す。「私たち研究者が研究で成果を上げながらアウトリーチ(研究成果を一般に周知する活動)もこなすことは難しい。ただ税金を使って研究をしている以上、アウトリーチの必要性は以前から感じていました」

 

 もちろん、プロジェクト始動の動機はそれだけではない。突然の悲劇的な火災で喪失感を抱いている沖縄の人々の姿や声に、強く心を痛めたという。「再建に向けた取り組みが進むにしても、沖縄の人々が愛した首里城が元の姿に戻るまでにはまだまだ時間がかかります。私はこれまで文化財の保護に関する分野にも携わっており、ここで何もしなければ絶対に後悔すると思いました」

 

 プロジェクトを立ち上げるまでには迷いもあった。少しでも早く3Dモデルを完成させるためには、新しい研究で何年もかけて技術を開発するのではなく、10年前に生まれたSfMを使うのが望ましい。しかしSfMは既に社会に普及している。新規性のある研究になりづらいのに、協力してくれる研究者はいるのだろうかと悩んだ。沖縄にゆかりがあるわけではない自分が声を上げてもいいのだろうかという疑問も浮かんだ。

 

 それでも、研究室の学生に声を掛けたり、SNSで情報を発信したりして賛同者が集まる中で、プロジェクトの社会的な価値を確信。「#OUR_Shurijo」をスローガンに実行に踏み切った。「何よりも沖縄の人々のために」と語る川上特任講師の下、同じ分野の研究者らが集まってチームを結成。火災に際し、川上特任講師らに先駆けて首里城の3Dモデルを作成したスペインの企業からは、画像データを譲り受けた。プロジェクトを通じて沖縄の人々を元気付けたいという思いの輪は早くも大きく広がっている。

 

作成途中の3Dモデル(プロジェクトのウェブサイトより)

 

 今回のプロジェクトは3Dモデルの作成だけにとどまらない。首里城を捉えた写真を集めると同時に、首里城を訪れて写真を撮った際の思い出やメッセージを募集。写真を撮影時期で分類して、時期ごとの3Dモデルを作成し、募集した思い出やメッセージが可視化される仕組みを作る。川上特任講師は、地元の人たちや観光客が焼け跡でゴーグルを装着し、そこに建つ3Dモデルの「首里城」に見入る姿を思い描く。「これまでにも首里城の3Dモデルはありましたが、それだけでは沖縄の人々が喪失感を回復することはできないのではないでしょうか。可視化された思い出やメッセージを通じて『地元の首里城がここまで愛されていたのか』ということを実感していただくことで、沖縄の人々を元気付けたいです」

 

 今後は写真募集期間を経て、3Dモデル作成や思い出、メッセージのひも付け作業に入る見通し。2021年の那覇市市制100周年イベントでの活用に向けて、那覇市の担当者との話し合いを重ねている。なお、作成中の3Dモデルは定期的にホームページで公開する予定で、「首里城」が出来上がっていくプロセスそのものを通じても、沖縄の人々を元気付けたいとしている。政府や沖縄県により再建に向けた動きが進む中、沖縄で、そして世界中で愛される「首里城」が一足先によみがえる日が待ち遠しい。

 OUR Shurijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクトのウェブサイト内にあるフォームから、首里城の写真や動画をアップロードできる。川上特任講師らはフィルム写真のスキャンや古い写真なども含め、首里城が写ったあらゆるデータ、そしてそれにまつわる思い出、沖縄の人々に向けたメッセージ提供の協力を求めている。

 

【記事修正】

2019年11月15日17時30分 川上特任講師の写真を差し替えました。

2019年11月15日18時52分 プロジェクトを起こした動機に関する川上特任講師の発言を一部修正しました。

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