COLUMN 2018年8月3日

東大における女性研究者の現状(後編) 社会と共に意識変えよ

 社会的には男女共同参画が謳(うた)われ、第一線で活躍する女性が増えているが、東大は研究する教員のうち圧倒的多数を男性が占める職場だ。そんな東大で働く女性教員の「働きやすさ」はどのようなものか。前号に続き後編となる今回は東大の男女共同参画室室長に、性別にかかわらず多様な人材が活躍できる職場を目指した取り組みや、現状の考察について聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

松木則夫(まつき・のりお)理事・副学長
79年薬学系研究科博士課程修了。薬学博士。薬学系研究科教授などを経て、17年より現職。政策ビジョン研究センター特任教授も兼務。

 

いまだ固定観念強く

 

 「男女共同参画は、東京大学ビジョン2020に掲げられているように、国籍や人種、性別を越え多様性を受け入れるという東大の目標の一環です」と、東大男女共同参画室室長を務める松木則夫理事・副学長は言う。多様性の向上は研究の活力となる上、研究機関として国際的に認められるために必要だ。

 

 東大では男女共同参画室主導で2016年、公正な評価に基づき女性を積極的に採用するため、女性教員の人件費を一部の部局に一定期間支援する事業を開始。新任の女性教員への研究費支援や相談相手となる「先輩」教員をマッチングするメンターシステムも立ち上げ、少数派の女性が交流しにくい状況の改善を図った。こうした取り組みの結果東大は、都内で女性の活躍推進に積極的な団体などを東京都が表彰する「2017年度東京都女性活躍推進大賞」で優秀賞に選ばれた。

 

 

 だが対策の効果はまだ十分とはいえない。厚生労働省が提出を義務付ける一般事業主行動計画で、東大は2016年から2021年までの5年間で女性教員比率を25%まで、女性幹部職員の登用率を20%まで高めることを努力目標としている。一方、17年の東大の女性教員比率は17.2%だ(図)。ここ数年で微増しているとはいえ、目標達成は遠い。また、管理職の女性比率も17年時点で15%に満たない。

 

 問題の原因は二つ。一つ目はそもそも、研究職への女性の応募者が少ないことだ。「アカデミアにおける女性の割合が低いため、女性はアカデミアに進まない存在、という社会的な固定観念がまだ強いのでしょう」

 

 二つ目は、採用者側の無意識な偏見だという。男性が多数派のため、採用者も男性であることが多い。「採用者は業績で公平に選んでいるつもりでも、実はそれ以外の情報も採用に影響しています」。男性研究者のコミュニティーでは飲み会などでの交流や共通の研究仲間を通じて他の研究者と知り合う機会が多い。男性の採用者は、男性応募者とはそうした関わりの中で親近感を持つ場合が多いため、無意識のうちに採用が偏る危険がある。

 

 出産や育児といったライフイベントがあったために、女性応募者の研究業績が少ない場合があることも、女性の採用を阻む一因だった。「現状では女性の方が、若い頃にライフイベントに割く時間が男性に比べ多いため、研究の進度が落ち業績を積みにくいのです。採用者はこれを考慮し、過去ではなく今後の可能性を見据えて採用の選択をする必要があります」

 

 

男性の役割が重要

 

 大学運営側は女性教員の割合が少ない現状に危機感を抱いているが、問題はその危機感を大学全体に浸透させることができるかどうかだ。「文部科学省は全国の大学に、学長の権限を強くしトップダウンで改革を推進するよう呼び掛けていますが、そのやり方は東大では受け入れられないでしょう」。伝統的に各部局の独立意識が強い東大では運営側は、女性比率を増やす努力をするよう各部局に要請し協力を待つしかないのだと、松木理事・副学長。「男女共同参画を実現するには慣例的に存在する組織的な壁も取り壊さなければいけません」。部局が独立した分権的な組織としての課題も抱える中、「ボトムアップの意識改革が起きてくれないと困ります」。

 

 最重要課題は、学内の男性や管理職教員との、現状に対する危機感の共有だ。男女共同参画室では男性上司向けの講座やマニュアルを提供する。また松木理事・副学長は特に、自身による教員への意識啓発活動「部局キャラバン」に期待をかける。17年度は文、工、理学部で実施され、本年度はその他の学部でも順次実施する予定だ。「意識が変わりさえすれば、制度を頑張って整備するより早く多様性が実現されるはずです」。キャラバンでは主に男性教員に、女性の採用や女性と接する際に無意識な差別が働いている可能性の自覚や、ライフイベントへの理解を促す。

 

 だが「男女共同参画に向けた活動が功を奏すには、社会全体の意識変革も必要です」。例えば米国のアイビーリーグは1960年代まで男性しか入学できなかったが、共学化してまもなく男女比率が五分五分になった。それは大学の手柄というより、当時フェミニズム運動が盛んだった米国社会が男女平等を受け入れたから実現したのだと、松木理事・副学長は分析する。「東大の女性教員比率は他大と比べてもともと低いですし、男女共同参画を東大がリードするとはいえません。ですが社会と共に男女平等の実現に向け努力すれば、状況は変わるでしょう」。男女共同参画は、女性だけが取り組む問題ではない。「男性教員には『男女共同参画はあなたの役割です』と訴えています」

 

 

「女性枠」は賛否両論

 

 女性研究者の比率の数値目標をなるべく早く達成する手立てとして、研究者の採用枠のうち一定数を女性に割り当てるクオータ制がある。だが、クオータ制の導入については賛否両論がある。

 

 メディアとジェンダー観の関係について研究する林香里教授(情報学環)はクオータ制支持派の一人。林教授は、長い大学の歴史は男性がつくり、男性的価値観と生き方を優遇する制度を確立してきたと主張する。その結果、女性が不利になる現状がつくり出された。「クオータ制は、男性優遇措置の是正であり、評価方法を変え現状の不公平を公平にする始まりなのです」。本来、能力や研究業績が物を言う学問の世界で性別は関係ないはず。だからこそ、目に見えない「日本人男性ファースト」慣行を打開する抜本的対策が必要だ。「クオータ制は、性別問わず優秀な研究者を採用し、研究水準を向上させる第一歩です」

 

 一方、松木理事・副学長はクオータ制には反対だ。研究者の評価基準に「性別」を加えることは、教育と研究に精を出すことを本務とする研究者にとって受け入れにくい。その基準で選ばれた女性は、それまで性別関係なく選ばれてきた他の研究者に比べ劣っていると思われてしまうと言う。「『上から』変化を起こしたらジェンダーを巡る議論は活発になりますが、研究者の在り方が揺らぎ研究の評価は混乱するでしょう」。研究業績を巡る国際競争が激化する中、クオータ制の導入による混乱により東大の研究水準が低下してはならない。「男性が男女共同参画の必要性を認識すれば、状況は改善するはずです」


この記事は、2018年7月17日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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