INTERVIEW / OBOG 2015年2月8日

大学演劇を超えて -劇団を主宰するとは- 【前編】

大学生活を演劇に捧げた人、友人の公演に足を運んだことのある人も、小劇場めぐりが趣味の人も、「演劇」という表現にそれぞれの思い出やこだわりがあるのではないだろうか。しかし、創作活動に熱中した学生も、勉学や就職を機に演劇から離れてしまうことが多い。大学には練習場所があり、発表のための舞台もある。一度大学を出てしまったら、どうやって創作を続けていくのだろうか?
大学の外で創作を続ける劇団代表の2人に、「劇団を主宰するとは」をテーマに対談をしてもらった。

東京大学教養学部出身の北川大輔さん(劇団「カムヰヤッセン」主宰)、慶應義塾大学文学部4年の酒井一途さん(劇団「ミームの心臓」主宰)に、「どんな思いで劇団を主宰しているのか」「どうやって人を集めているのか」といった、なかなか聞けない疑問に答えてもらった。

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北川大輔 (写真左):
1985年生まれ。東京大学教養学部卒業。「カムヰヤッセン」主宰。

酒井一途 (写真右):
1992年生まれ。慶應義塾大学文学部在学。「ミームの心臓」主宰。

 ―それぞれの劇団立ちあげについて教えてください。

北川:
「カムヰヤッセン」は、2008年駒場小空間で上演した『亡命』で旗揚げしました。その後はSPACE雑遊(東京都新宿区)や王子小劇場(東京都北区)などへと舞台を移して活動しています。カムヰヤッセンでは、僕が全作品の脚本と演出を務めています。
僕は駒場時代から劇団綺畸で活動していて、舞台監督を務めていました。駒場ではプロデューサー的な立ち位置で、安全管理と進行が主な担当でしたね。それを2年やっていて、次第に自分の作品も作りたくなってきた。そこで周りの人から募っていって、大学3年生の終わり頃に自分自身の劇団を立ちあげました。僕は今29歳なので、劇団経験は10年位かな。

酒井:
「ミームの心臓」は、2010年、大学に入学した直後に旗揚げしました。全作品の脚本とプロデュースを務めていて、ミームの心臓として現在までに5回の公演を行っています。
高校時代は演劇部に所属して、自分の作演出の芝居を作る他に、外部の小劇場で活躍している団体の手伝いにも参加していたので、どのように演劇が作られていくのかの流れは理解できていました。なので、大学に入学してからはいくつかある演劇サークルに入るという選択肢は取らず、何者にも縛られずに演劇の表現を模索していきたいと思って劇団を立ち上げることにしました。幸運なことに、声をかけたら一緒に演劇活動をしてくれる仲間に恵まれました。 

劇団は、雇用でも血縁でもない”水素結合”

―俳優やその他のスタッフなど、劇団の構成は?

北川:
カムヰヤッセンは、劇団に俳優が所属して連続的に公演を続けていく”劇団制”をとっています。劇団員構成は、俳優7人、そして制作部が1人。新しい俳優をリクルートしたいときにはオーディションをしますね。数人の枠に100人程度の応募が来ます。

酒井:
ミームの心臓は、”プロデュースユニット”ですね。基本的なメンバーは、僕と俳優2人だけ。彼らに関しても、毎回舞台に出てもらうのではなく、やりたい時に関わってもらう。スタッフや他のキャストなども、公演ごとに声をかけるという形をとっているので、構成はかなりフレキシブルですね。北川さん、劇団制の特長は何ですか?

北川:
何度も同じメンバーで演劇を作っていくことで意思の疎通が早くなるということや、関係性が出来上がっているのでどんな仕事をどう振ればいいというのがすぐに分かるということですかね。作品について言えば、複数回一緒に演技することで獲得できる身体性や言語感覚があるのではないかな、と僕は考えています。

さらに、劇団制のいいところは、”擬似家族”になれるところかな。劇団って、少し変わった形態のコミュニティで、雇用関係でも血縁でもなく、信頼で繋がっている部分が大きい。化学の”水素結合”とでも言えるような。劇団になっていることで、「皆が帰ってくる場所がある」という意識が出来ますよね。僕は、劇団は新しいタイプのコミュニティの最小単位になりうると考えています。昔は監督が一番権威を持っている家父長制的な劇団が多かったけれど、今は誰もが意見を言える民主的な劇団が多いのではないかな。僕は特に、家父長制の劇団から横並びの劇団に変えたいという意識が強かった。

もちろん、そういった関係だと慣れ合いや諍いがどうしても生じてやすくなってしまって、高い質の作品を作る妨げになることもあるから、僕は団員同士の人間関係にはとても気をつけています。プロデュースユニットだと、公演ごとのリクルートが大変じゃないかと思うのだけど、酒井君はどう?

酒井:
リクルーティング自体にも苦労はあるのですが、なにより関係を一から築くのはやっぱり大変ですね。関係がうまくいかずに起こったトラブルで一番大変だったのは、7人の芝居で3人の役者さんが降りてしまった時です。
作品を作る前にはキャストのオーディションをするのですが、初めまして同士の役者たちが恋人同士の役を演じたりして、二か月の稽古の中でいきなりお互いの感情の深いところにアクセスしていくので、人と人との関係性がどうしようもなくすれ違ってしまうこともあります。演劇の稽古は精神的な営みなんです。

北川:
7人中3人も降りてしまったって、それは大変だね。
僕は稽古場を作るということに一番神経を使っていて、常にオープンでいることを心掛けて、擦れ違いや諍いなどのトラブルの芽は早いうちに摘めるように心がけていますね。稽古していて、「人間関係にこじれがあるな」と思ったら飲みに行って相談聞いて、とか。そして、スタッフとは徹底的に理念を共有します。例えばライト1つを点けるのでも、どういう意図でやっているのかをちゃんと話し合う。

そして、プロダクションの参加者に対して信頼してもらえるようにしています。100人以上の応募の中から4人に選ばれたのだから、僕がどれだけ厳選して採用したのか分かってほしいなあと思って。参加者が楽しくやっていたほうが良いものができると思うしね。ありがたいことに、今まで一度も降板騒ぎを経験したことはないです。
けれど、酒井くんとは反対に、うちでは、参加者同士の関係が近いので、演出と役者、役者同士が価値観を違えて喧嘩になることはありますね。 

お客さんは、作家の自己主張など求めていない

―どんな思いで作品を作っていますか。

酒井:
お客さん1人1人に寄り添えるような作品を作りたいと考えています。
劇団を立ち上げて2、3年は「自分の思いを伝えなければならない」という思いが強く、自分が言葉にしたい物語を作っていました。けれど、ここ最近は「作家の自己主張など、お客さんにとってはどうでもいいことなのではないかなあ」と考えるようになりました。今では誰もが日々を生きていて感じ取る「思いにしきれないような思い」「言葉にならないまま積み重なっていく記憶」をこそ、もっと丁寧に汲み取って作品を作りたい、と思っていて。何かの問題について答えを出すのではなく、考えるための問題提起となる舞台を考えています。

例えば、世代間の問題や、人と人との関わりなど、お客さんによって一人ひとり考えの掘り下げ方は違うので、こちらで答えを出してしまってはつまらない。劇場で舞台とお客さんのあいだに関係性が生まれることによって、いくつもの答えが創られていくような、そしてそれがお客さんの生きていく道に、通じていくようなものを目指したいと思っています。
次に創る作品(2月上演『東の地で』)は、それ以上に、作品に登場する人物がお客さん一人ひとりの隣に寄り添うような、そしてともに生きる悲しみや喜びを分かち合えるような芝居にしていけるように模索しながら、準備を進めています。

北川:
今作っている作品は、どんなストーリーなの?

酒井:
『東の地で』は、昔上演した作品のリバイバルです。登場人物は、男女2人だけ。2人きりで生きていこうとする彼らが、すれ違いぶつかり合いながらも、2人のかつての友人であり特別な存在であった少女の死を振り返ることによって、自分たちの関係性を見つめなおすことになります。

10665682_1067625986587016_4138827939845192041_n.jpg「東の地で」 稽古風景。(有吉宣人 / 小林依通子)

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演劇を見るとは、「孤独」な営み

北川:
酒井くんの作品は、人と繋がろうとする意識がとても「野心的」だなあと思います。アーティストほど、「自分の書きたいこと」じゃなくて「社会が必要としていること」「見ている人に何かを届けたい」という思いを持っているのではないかと思います。僕は、作品を見た人が「明日がんばろう」と思える舞台を作りたいと願っています。

現代は、SNSのおかげで「インスタントな繋がりの共有」ができるようになっているような気がします。SNSがあればいつでもどこでも誰かと繋がっていることができてしまう。けれど演劇や芸術を見ている時って、1対1で作品と向き合うわけだから、すごく孤独ですよね。僕はその孤独と気持ちよさを両方お客さんの人に感じてほしいなと思っています。

出演者の人に、「君は何が作りたいの」と聞かれます。僕には「自分が何を作りたい」という意識もありますが、それ以上に、鑑賞者に「こういう風に見てほしい」という意識があります。僕は、自分が作りたい作品を作りながらも、「お客さんに今何を見て欲しいか、何を聞いて欲しいか」をいつも計算しています。

「舞台の演出をする」ことは、映画を作ることと似ているのだと最近思うようになりました。映画では、画面上で注目するべきポイントや聞くべきポイントがお客さんによく伝わりやすいけれど、ズームアップや構図の変化を付けられない舞台上だと難しい。舞台上の動きや表情、台詞でどうやってお客さんの視点を誘導するか、とか、それを計算するのが演出の仕事だと思っています。

―対談は、大学演劇を超えて -劇団を主宰するとは- 【後編】に続きます。

(文責:後藤美波)

次回公演予定

カムヰヤッセン

城崎国際アートセンター アーティスト・イン・レジデンス2014製作/下北沢演劇祭参加作品
北川企画 その1

「午前五時、立岩展望台にて」

脚本・演出 北川大輔

2015年2月18日~22日 下北沢 小劇場 楽園にて

舞台監督 相内唯史(at will・大阪公演)/杣谷昌洋(東京公演)

照明 加藤直子(DASH COMPANY)

宣伝美術 大原渉平(劇団しようよ)

制作 秋津ねを(ねをぱぁく)

「午前五時、立岩展望台にて」公演URL

ミームの心臓

リバイバル公演

「東の地で」

2015年2月6日~2月10日 両国門天ホールにて

脚本・演出:酒井一途 音楽・ピアノ演奏:酒本信太

出演:有吉宣人 / 小林依通子 チェロ演奏:グレイ理沙 / 稲本有彩

「東の地で」公演URL

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