INTERVIEW / OBOG 2019年8月2日

猪子寿之さんが語る、チームラボのアートが目指すもの

  デジタル時代の新しいアートの担い手として近年注目を集める「アート集団」チームラボ。2018年にはお台場に常設美術館「チームラボボーダレス」をオープンしたほか、豊洲で「チームラボ プラネッツ」を開催し、どちらも1年も経たないうちに来場者数が100万人を突破するなど、一種の社会現象を巻き起こしている。

 

 最新のデジタル技術を使い鑑賞者も作品の一部となるような幻想的な作品空間を生み出すチームラボ。弊社が8月2日に発行した受験生向け書籍『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、そんなチームラボの創業者で東大の卒業生でもあるチームラボ代表の猪子寿之さんに、東大受験や東大生活の思い出を聞いたインタビューを収録した。今回は書籍に収められなかった、チームラボの活動を通して目指す世界や、今後のチームラボの展望についての猪子さんの話を掲載する。

 

(取材・高橋祐貴 撮影・西丸颯)

 

 

──チームラボの創業当初から、アートをやりたいと猪子さんは考えていたのでしょうか

 

 サイエンスかアートがやりたかったんだね。でもデジタル領域のサイエンスって何なのか良く分からなくて。新しいコンピューターを作るとかになるのかな?

 

 サイエンスって何かというと、今まで見えなかったものが見えるようになる営みでしょ。長い歴史の中で、サイエンスによって人類の認知する領域は広がってきた。子供の頃は見える領域を広げるサイエンスの営みが楽しかったんだけど、大人になると、もう見えてない領域って原子よりも小さい素粒子の世界の話とか、あるいは宇宙の果てがどうなってるかって話とかになってきて、ちょっと僕の肉体と遠すぎたんだよね。もちろんこういう世界を見えるようにするって素晴らしいことだし、やってる科学者の人たちは本当に尊敬するけど、僕はやらなくてもいいかなと思って(笑)。

 

 対してアートは世界の見え方を変える営み。アートの方も良く分からないものではあるんだけども、僕はこっちの方が知りたくなったんだ。人間は美によって動くと思うんだよね。美は合意が取りにくいから、合意を取らなければならない組織は美ではなく論理で動く。しかし個人については、あんまり論理で動いてることってなくて、個人の美意識に基づいて行動を決定する場合の方が、圧倒的に多いわけ。例えば君が東大新聞で活動してるのって、何らかの合理的な理由からなのかな?

 

──メインの理由は「ただ活動が楽しい」ってところなので、あまり合理的ではないですね

 

 だよね。とか、君がその横縞のセーターを着てるのだって、保温とか被覆とかが目的なら無地の安いシャツを買えばいいわけで。

 

 

 そういう風に考えると、美って人間の行動を決める最大の要因とも言えるかもしれない。にも関わらず、美って何なのか、誰にも説明できないわけだ。

 

 アーティストっていうのは、何かを作ることでそれまで美だとは考えられてこなかったものを美にしてしまう「美の概念を拡張する」ことをした人だと思うんだよ。美が何なのか分からない上に、アートって行為は、その分からないものの領域を今はまだそうではないところに広げていく行為なわけで。もう本当に「わっけ分かんないな!」って思って(笑)。それでアートを知りたいと思ったんだね。

 

 動物的な美ってのはすごく説明がしやすい。つまり性対象への感覚だ。たくさんの人の顔を合成すると美人ができるという話があるように、そこでの美というのは見たものの平均値なんだよ。なぜ平均値なのかといえば、遺伝子欠損が一番少ないことが予期できるから。動物的美はとどのつまり、生殖におけるリスクヘッジなんだね。

 

 ところが、これが人間の美となった瞬間に、意味が分からなくなる。花みたいな、遺伝子的にものすごく遠い、どう考えても遺伝子結合できない対象を美しいと思うのは、生殖だけじゃ説明できないでしょ。これはもうある種の奇跡なんじゃないかって僕は思う。自然を美しいと思う気持ちから、自然を畏敬するような宗教が生まれて、例えば都を作るために木を切ったらその分ちゃんと新しい木を植えるなどして、人類は自然を大切にしてきた。これが時代時代で、その瞬間だけの合理性に基づいて行動してたら、ただただ自然破壊だけが進んで、人類は滅んでいたかもしれない。

 

 

──美を拡張する営みとは具体的にどのようなものなのでしょうか

 

 例えば、デュシャンが便器を置いて、人々はそれがアートかアートじゃないか、議論しちゃったわけだよね。で議論したから、もしそれがアートになるなら、それをアートたらしめるものってコンセプトしかないわけで。デュシャンの作品でコンセプチュアル・アートっていうものが生まれた。

 

 今の時代、ビジネスをやるにしたって、「新しい企画のコンセプトは何か」って求められるようになっている。それって「コンセプトがある方がビジネスは上手くいく」なんてエビデンスはどこにもないのに、我々が無意識のうちに「コンセプトがある方がいいよね」って思っているから。これはデュシャンが便器を芸術にしたから、「コンセプト」ってものが人間の美の概念に入ったってことなんだよ。

 

 

 西陣織なんてデュシャンが登場する前の当時めちゃくちゃ売れてたわけだけど、そこにコンセプトなんかあるわけない。ところが今じゃファッションブランドを新しく立ち上げようと思ったらコンセプトの話をするし、「今年のパリコレのコンセプトは〜」と言うでしょ。みんなコンセプトがあった方が美しいと思ってるんだよ。これが美の拡張ということ。

 

 他には、ピカソがキュビズムで多視点からものを見た方が美しいと示したことで、人類は今ある美の視点だけで世界を見るのは恥ずかしいと思うようになった。でも単一の視点から見た世界に比べて多様な視点がある世界の方が人類の生存確率を上げる上で合理的だなんてエビデンスがあるわけじゃない。ただ多様な視点を認めた方が美しいから、多様性を認めようって動きが出てくる。それで人類社会は、ピカソ以前の時代に比べてベターになってるよね。

 

──猪子さん自身は、チームラボのアート作品を通じてどのように美の概念を拡張していきたいのでしょう

 

 一つものすごく分かりやすいところでは、「物質として実在するかしないかはものの価値に関係ない」という価値観を広げること。ギャラリーを通して、チームラボのアート作品を売っているのだけれど、 買った側は、ハードディスクのデータだけを渡されるわけ。もしかしたら渡された側は一瞬「うっ」って思うかもしれない。でも「そのハードディスクの中身で感動が生み出せたり空間がより美しくなる」ということに納得してもらえれば、それは一つの価値観の更新だよね。これが一番低いレイヤーの話。

 

 もう少し高いレイヤーの目標だと、連続していることこそが美しいという価値観を広げること。世界は、本当は全て連続しているんだけど、人は文明が複雑化するにつれて、まるでものが独立して存在しているかのように思い込むようになってしまった。例えば、あるチョコレートのお菓子は本当は小麦やカカオといった生き物からできていて、その原材料は自然の中で他の生物や環境との連続性の上で生きてるはずなんだけど、食べる時にはなぜかそのお菓子は独立した存在のように思い込んでる。

 

 これは美に関しても同じことで、「美しいものはなに?」って聞かれたら、例えば「赤いバラ」って答えるみたいに、分節され独立した存在が美の対象だと人間は無意識のうちに思っている。それがおかしいなと思って、「境界がない」ことがクールだって概念を広めたかったんだ。「あれ、この絵の中身そっちに出ていかないの?この芸術には境界があるの?」って(笑)。

 

 

 お台場のチームラボボーダレスでは、作品同士の境界も良く分からないし、鑑賞者と作品がインタラクションするし、もうぐっちゃぐちゃなわけだけど、あそこに何度も通う子供がいたら「芸術は境界を持たないものなんだ」って認識するようになると思わない?ボーダレスに薫陶を受けた子供がMoMA(ニューヨーク近代美術館)とかで作品を見て「あれ?この絵動かないの?触っても変わらないの?」ってなったら、めちゃくちゃ面白いでしょ。

 

 世界は本当は連続性の上で成り立ってるのに、人間個人の脳ではそれを認知できなくなってるのが現代社会。だから連続性を意識できていたら出てこないような発言をする人がいる。「連続性が美しい」って概念が広まればみんな自然とその価値観を抱擁できる。そうなったらいいなって思ったんだよね。

 

──今現在チームラボが展開している作品には、そうした目標はどのように反映されているのでしょうか

 

 チームラボボーダレスの何が美しいかというと、個別の作品ではなく「ボーダレス」そのものが美しいんだよね。あそこの作品は、もともとは全部別の作品だったんだよ。作られた時期もコンセプトもまるで違う。でもそうした多様な作品が境界なく連続している空間そのものが美しい。そこにボーダレスの醍醐味(だいごみ)があるよね。

 

teamLab
Exhibition view of MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless,
2018, Odaiba, Tokyo
© teamLab

 

 豊洲のチームラボプラネッツは、作品同士というより「自分と世界の境界線」がなくなる美しさを作りたかった。

 

teamLab,TheInfiniteCrystalUniverse,2015-2018,InteractiveInstallationofLightSculpture,LED,Endless,Sound:teamLab
©teamLab

 

 佐賀県武雄市の御船山で毎年夏に開催している「チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology」も境界線を意識してるんだけど、こちらは時間の境界線がテーマ。時間って、本来連続しているもののはずなんだけど、時間の認識には境界があって、人は自分が生きた時間で区切りをつくってしまう。例えば10年前は今との連続性を感じるよね?でも生まれる前、例えば太平洋戦争の時代って今から切り離された別世界の話みたいに感じるでしょ。僕だったら40年くらいは連続性のある時代として感じられるけど、それが70年になると、そんな時間的に変わらないはずなのに、断絶したものに感じてしまう。江戸時代なんかまるでフィクション。こんな風に時間の連続性に対して自分が存在している認識の境界を、越えられたらいいなと思ってるんだよね。長い時間の連続性の上に今の自分が立っているってことを体感できる場を作りたいと思って御船山でインスタレーションをやってる。

 

teamLab,Drawing on the Water Surface Created by the Dance of Koi and Boats–Mifuneyama Rakuen Pond, 2015, Interactive Digitized Nature,13min 24sec, Sound:Hideaki Takahashi
©teamLab

 

──今後、チームラボの目標を達成するために、何か新しい動きなどは予定しているのでしょうか

 

 いや、だから今やってることを連続させていくってことだよね(笑)。

 

 まだ国は言えないんだけど、今年は海外の大都市2か所にチームラボボーダレスみたいな常設美術館がオープンするし、来年もさらに海外の3都市に展開する予定なんだ。僕自身、世界にとって、人類にとって意味があることが死ぬまでにできればいいなと思ってるから、世界中で作品を発表していくつもりです。

猪子寿之(いのこ・としゆき)さん
チームラボ代表。1977年生まれ、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。

 

※現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』では、猪子さんに東大入学後の東大への失望と焦り、学生時代の海外遊学での気付きを経てチームラボ創業に至るまでの経緯を聞いたインタビューを収録しています。他にも受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ合わせてご覧ください。

 

チームラボ

東京・お台場に《地図のないミュージアム》「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」を常設。2020年秋まで東京・豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボ プラネッツ TOKYO DMM.com」、2019年8月24日までTANK Shanghai(中国・上海)にて「teamLab: Universe of Water Particles in the Tank」を開催中。2019年7月12日から九州・武雄温泉の御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology」開催。

http://teamlab.art/jp/

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