PUBLIC RELATIONS 2018年2月9日

悩める理系学生たちへ 起業がひらくあなたの人生

 進学か就職かという二元論で語られることが多い、理系の大学生の進路。しかし最近では第三の選択肢として、起業も徐々に浸透しつつあるようだ。今回は起業した東大の学生・卒業生をゲストに迎え、これからの理系学生の働き方を議論した。

(企画・須田英太郎 文・小田泰成 写真・石井達也)

 

参加者(敬称略)

牧田和也(まきた・かずや)
日本ビジネスシステムズ株式会社(JBS)取締役副社長。現在、起業に意欲のある学生を発掘・育成・支援する「異端児支援プログラム」の運営に携わる。

吉村英毅(よしむら・ひでき)
経済学部卒。在学中に起業し、現在は株式会社エボラブルアジア代表取締役社長。

加茂倫明(かも・みちあき)
理Ⅱ・2年(休学経験あり)。在学中に起業し、現在は株式会社POL代表取締役CEO。

久野美菜子(くの・みなこ)
学際情報学府修士1年(休学中)。東京大学新聞社所属。在学中に起業し、理系学生や研究者向けのメディア「Lab-On」の編集長。

 

ファシリテーター

須田英太郎(すだ・えいたろう)
総合文化研究科修士2年(休学中)。東京大学新聞社所属。

 

(左から)牧田和也さん、久野美菜子、吉村英毅さん、加茂倫明さん

 

博士に行くのはある意味博打?

理系学生の進路は今

 

須田 それではまず、理系学生の進路についてお伺いします。加茂さんは在学中に起業し現在も東大に在籍していますが、周りにいる理系の学生の進路にはどういった傾向がありますか。

 

加茂 周りの理系の学生というよりは、理系の東大生全体についてなんですが、データによれば過半数は修士課程に進みます。そこから博士課程に行く人は10%くらいでしょうか。

 就職先の決め方としては、学科の推薦、東大の卒業生による仲介などが多いですね。学内セミナーを参考にする人もいますが、よくある就活サービスを使う人は意外と少ないです。

 企業としては理系の学生を欲しがっているんですけど、学生側が「研究に時間を割かなければいけない」「どうせ学科が推薦してくれる」「所属する研究室でインターンが禁じられている」などの理由で就活に積極的ではないですね。

 

吉村 理系の学生に人気がある企業には、どのような特徴があるんでしょうか。

 

加茂 学生時代に培った研究スキルを生かせるところですかね。例えば培養など大学での研究に近い仕事をやらせてくれる企業は評価が高かったりします。あとは、やっぱり安定志向の学生が多いので、福利厚生がしっかりしていたり、大手だったりという特徴を備えた企業も人気です。

 一般的に、東大の卒業生が多い企業に学生が集まる傾向はありますね。それだけ東大と古くから付き合いがあり、安定しているということなので。

 

牧田 理系でずっと研究してきた人たちって、その後どうなるんですか。

 

加茂 半分くらいは研究が嫌になったりして、ビジネスに足を踏み入れますね。学部時代に研究とインターンを両立した上で進路を決める人は少ないので、早いうちからもう少し社会と接点を持った方がいいと思います。

 

 

須田 そういう点では、JBSにインターンに来る学生はどうですか。

 

牧田 そうですね、インターンを、就活への布石というより経験を積む手段として捉えている学生も多いみたいです。企業としては一から教えなければいけないので、学生を受け入れるのはやっぱり大変なんですけど、喜んでもらえますね。

 

須田 久野さんの周りではどうでしたか。

 

久野 私が学部時代に所属していた農学部の研究室では、80~90人いる同期のうち3人を除いて皆修士課程に進みましたね。バイオ系の研究は生き物が相手なので、細胞培養や飼育などの拘束時間が長く、インターンをするまとまった時間は取りづらいです。

 

加茂 研究が好きでも博士課程に進むのを怖がる、という人もいますね。ポスドク(博士号取得後、任期制の職に就く研究者を主に指す)の受け皿が多いとは言えないため、博士号を取れたとしても生活が大変という話も聞きます。

 

久野 博士号を持っている人が優遇される欧米と比べ、博士号を取得するメリットが少ないので、博士課程に進むのをためらう気持ちも分かります。私の周りにも、優秀で研究も好きだけどリスクを考えて、研究者になることを諦める人もいました。

 

牧田 JBSでは採用の際あんまり学歴を重視していないんです。というのも、皆修士課程を出ていて学歴を比較しようがないから。ただ、博士課程を出た後に就職する人はめったにいないかもしれません。

 

 

起業は軌道に乗りやすい

日本でも企業が一つの選択肢に

 

須田 では、起業という選択肢はどうなんでしょうか。

 

吉村 学生の起業はリスクがゼロだと思います。駄目なら就職すればいいんですから。むしろ、学年が上がれば上がるほど起業のハードルも上がります。今はベンチャー企業にお金が集まりますし、起業しやすい環境になっていると思いますよ。

 ただし起業にも大変な側面はあって、個人的には資金繰りが一番大変でしたね。黒字化をどれだけ早く達成できるかが重要。大手企業に就職しておけば良かった、と思うこともありました(笑)。

 

須田 吉村さんの周りには、起業した方はたくさんいらっしゃったんですか。

 

吉村 僕が起業した頃はホリエモン(実業家の堀江貴文氏の愛称)ブームが起こっていて、起業する人自体はそこそこいましたね。でも、途中でやめた人も多いです。逆に今でも続いている人たちは、ブームに流されるような人ではないんだと思います。

 

牧田 身近に起業している人がいると励みになりますよね。アメリカでは学生はすぐ起業しますよ。日本の学生は研究で忙しく、インターンすらできない。起業する上でいいポジションにいるのに、それに気付いていない人も多い。

 

加茂 先ほどから「研究で忙しい」というフレーズが多用されていますが、研究室によっては緩い所もあります。ただ起業につながりやすい長期のインターンはまだ少ないかな、という印象です。

 一方で、最近起業する人が増えてきているな、という気はしますね。分かりやすい成功事例が出てきて「俺にもできる」「これならアリだ」と思うようになっているんじゃないでしょうか。東大には起業家が集まるサークルなんてあるくらいですから。

 

牧田 大学もビジネスに関連した講座を増やしつつありますね。産学連携についても、大学の研究室の反応はここ2、3年ほどで良くなりつつあります。ただ、現時点では学生がこぞって起業する段階までは来ていないんですよね。

 

加茂 研究から出発した企業からも、大規模な会社が現れつつあります。そうした企業のトップは、大学生より少し上の年齢で起業していることが多いんですけどね。

 

 

吉村 研究とビジネスの関係は今後どうなっていくのでしょうか。TLO(学術機関の知財を企業に移転する仲介役を果たす組織)などの例がありますが。

 

加茂 これからは研究に流れるお金が増えると思います。TLOや大学ベンチャーキャピタルの躍進もその原因の一つです。

 僕たちは研究者が生み出した成果を自分たちのビジネスに生かしたいと考える企業や、研究資金が必要な研究者を支援したいです。また、そういった分野はビジネスとしても可能性があると思っています。

 

牧田 加茂さん自身は、自己資金で起業したんでしたっけ。

 

加茂 そうですね。知り合いから600万円くらい借りることができました。起業して半年は、そのお金を切り崩して何とかし、その後投資家さんから資金調達したという感じです。

 

牧田 資金は調達しやすかったですか。

 

加茂 とても調達しやすいです。売り上げが出始めた頃、約2カ月間で十数人の方から、投資の名乗り出がありました。まだアイデアしか出ていない段階なのに投資してくれる方もいましたね。

 

牧田 この辺をもっと多くの学生が理解してくれればいいのになあ。生涯年収の点でも、人脈が広がるという点でも、就職するよりも価値があるはず。お金を出してくれる人とか、協力してくれる人はいっぱいいるのに、調べもしないで「リスクがあるから……」と敬遠するのはもったいないですよ。

 

須田 起業したい学生は、まず何をすべきなんでしょうか。

 

牧田 自分のアイデアを誰かに話して反応を見ることかなあ。

 そういう点ではスタンフォード大学なんかは理想的。あそこは起業させる大学という側面が強くて、起業したい学生へのサポートも親切です。「お金はここから調達すればいい」「仲間はこうやって見つければいい」など逐一アドバイスしてくれる人がいて、その指示に従って選択していけば成功する仕組みになっています。日本でもこれからこうした仕組みを整えて、起業を選択肢の一つとして定着させたいですね。

 

 

思い立ったら吉日で人生も充実

何をすれば良いか分からない人へ

 

須田 自分の夢や将来について強い思いを持つ東大生って、あんまりいない気がします。

 

加茂 そうですね。いざ就活になって「俺は何をしたいんだろう」となる人も多く、起業以前の問題だと思います。

 

牧田 自分が何をしたいか分からない人は、まず起業すれば刺激になりますよ。法律や礼儀作法など覚えなきゃいけないことが多く大変だけど、生きている実感を味わえる。いろいろな人に会って、濃い時間を過ごしてほしいですね。人生は一度きりなんだから。

 

加茂 起業して「ビジネスって楽しい」と感じ、事業を続ける人がいる反面、強い思いがないと耐えられない気もします。

 

吉村 やっぱり資金繰りが厳しいのは格別ですね。

 

牧田 給料は必ず払わないといけませんからねえ。

 

吉村 一度に動くお金の額は大きいですよね。僕は昔、お金が足りないときは、高値の美術品などを買ってすぐに売っていました。たとえそれで損をしたとしても、現金で給料を支払う必要があったんです。今起業する人たちはそんなにお金の面で苦労することはないと思いますけどね。

 

加茂 東大にも起業に補助金を出すプログラムはありますし、環境は申し分ないと思います。

 

牧田 今なんか500万円あれば起業できちゃう、だからといって起業が簡単ってわけではないんだけど。継続は難しいんですが、起業のきっかけ自体は多いと思いますよ。

 

 

須田 起業も学生生活の選択肢に含まれることになるかと思うのですが、どんなことを考えながら学生生活を送るのがいいのでしょうか。

 

加茂 やりたいことがあれば、それに近いことからとりあえずやってみるといいです。やりたいことがなければ、何でもいいからやってみましょう。そうすれば何かは分かるので。

 

吉村 本当にやりたいことがあるのであれば、今すぐにやりましょう。「就職してから……」などと考えるのは無意味です。

 ただし思い付きではなく、事前にある程度しっかり考えてから起業した方がいいでしょう。インターンなんかも、起業の一歩手前の段階と考えて、経営に近い位置で経験を積ませてくれるものを選ぶといいかと思います。

 

久野 もしやりたいことが研究なんだったら、デメリットを気にせずその道を選んでほしい。研究には「その人にしかできない」という側面がありますから。

 もちろん、研究者になりたい人たちの間で、目指すべき研究環境について話し合う必要はありますね。その際、どんな制度が必要か、どうすれば資金を得られるか、研究者の分野を越えて建設的な話ができる場を持てることを期待します。

 

牧田 自分が取り組んでいる研究を、市場にどうやって評価してもらうか。その選択肢としての起業もあり得るんじゃないでしょうか。

 今は70歳まで働く時代なんだから、30歳までは何かに没頭して取り組む時期もあってもいいと思います。起業しても就職したのと同様の経験は積めますし、やり直す時間はたっぷりあるんですから。

 

 

2018年5月24日21:45【記事訂正】タイトルを「企業がひらくあなたの人生」としていましたが、正しくは「起業がひらくあなたの人生」でした。お詫びして訂正いたします。

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