PROFESSOR

2018年8月14日

【東大教員からのメッセージ】河合祥一郎教授インタビュー 現場から入ったシェイクスピアの研究

 河合祥一郎教授(総合文化研究科)はシェイクスピア研究の第一人者として知られ、翻訳書を含め数々の著書を執筆している。東大入学を考える高校生に向けて、メッセージなどを聞いた。

 

(取材・伊得友翔 撮影・楊海沙)

 

 

現場から研究者へ

 

──現在の研究分野は

 専門はシェイクスピア研究ですが、それには四つの側面があります。まずは、当時の言葉の意味を考えながらテキストを読み解いていくという文献学的な作業。第二に、そのテキストをどう解釈するかという批評の研究があります。現代に至るまでの英文学批評の方法論を用いてシェイクスピアを読むことですね。例えばユダヤ人が登場する『ヴェニスの商人』は、ホロコースト以前と以後では解釈が異なってくるわけです。そして三つ目に重要なのが、パフォーマンス研究。シェイクスピアの戯曲は上演されるために書かれているので、今までどのように上演されてきたかについて考えることが必要になってきます。さらに四つ目として、オペラや映画、絵画といった他の芸術分野にどのような影響を与えてきたかという「シェイクスピア現象」をも研究対象としています。

 

──シェイクスピアの戯曲の魅力は

 シェイクスピアと同時代の他の劇作家とでは、内容面で大きな違いがあります。多くの劇作家は、物語を語るという行為に終始していました。シェイクスピアは物語性というよりは、現代の私たちから見ても重要に思える哲学的な視点を含んでいます。具体的には、想像力を用いることによって新しい生き方ができるという考え方や、多声性による価値観の多層性などですね。時代や人によって多様な意味が新たに見いだされるという点が、シェイクスピアの魅力だと思います。

 

──シェイクスピア研究を志した理由は

 最初にシェイクスピアの作品に触れたのは、高校生の時に聴いていたラジオです。「百万人の英語」という番組で流れた『ロミオとジュリエット』のサウンドトラックの美しい英語に引かれ、シェイクスピアに興味を持ちました。東大入学後には、学生演劇をしたり早稲田小劇場で英語の通訳をしたりして、演劇の世界に入っていきました。現在も翻訳家・演出家としてシェイクスピア演劇の上演を行っています。その意味では、実際の現場に関わりながらだんだんと研究者になってきた感じですね。

 

──研究と演劇活動の関連性は

 せりふを役者に言ってもらうことで、日本語の押韻が実際にどう響くのか確かめることができます。このことはシェイクスピアを訳す際の手助けになりますね。また、シェイクスピアの原文には解釈の難しい部分が多々あるのですが、実際に演じてみることで分かる場合も多いです。

 

 

──今後の目標は

 まず、シェイクスピア全作を翻訳することを考えています。私はシェイクスピアを全40作と捉えているので、それを全て訳すということですね。あとは今まで日本で忙しくし過ぎたので、もう少し世界の第一線に交わって活動していきたいと思います。

 

やりたいこと極めて

 

──高校時代の生活は

 文学研究会というものを友達と立ち上げ、ヤスリ版と鉄筆を用いた印刷方法である「ガリ版」で同人誌を作っていました。みんな、将来は小説家になるという思いを持っていましたね。また、英語ドラマを放送していたNHKのラジオ番組を録音し、原文と比較しながらその違いを楽しむということもしていました。これが、声が重要な要素となる演劇への道につながったのかもしれません。

 

 

──東大の魅力は

 すごい先生方が集まっていることですね。自分の研究分野と離れていても本を読む必要があることは、学生だけでなく教員にも当てはまります。私自身、なんとか時間をつくって同僚の先生方の著書を読むようにしたいと思っています。あとは先生だけでなく学生も優秀な人材が集まっているので、彼らと交流することでも得るものが大きいでしょう。

 

──高校と大学の違いは

 私が卒業した武蔵高校では、「自ら調べ自ら考える」が大切とされていました。そのため、勉強は自分でやるものだと叩き込まれていたんですね。大学に入ってからもそれは当然と思っていました。従って私としては、高校と大学で学びのありようは変わりません。ただ大学では高校よりも学問の専門性が上がるので、極めることのレベルも上がり、そこに難しさや面白さがありますね。しかし最近の学生を見ると、自力で一つの分野を深く掘り下げることなく、導かれるままに通り一遍の勉強をしている印象があります。せっかく大学に入学したのにそれではもったいないと感じています。

 

 

──高校生にメッセージを

 東大は学生も先生も非常に優秀で魅力的な大学です。また同時に、自由にやりたいことをやって、自分に自信を与えられる場所でもあると思います。自信があれば、自分の夢や目標を達成しようという活力も生まれてきますよね。東大はそれをどんどん育んでくれる場所なので、ぜひ東大に入って自分のやりたいことを極めてほしいです。

 

河合 祥一郎(かわい・しょういちろう)教授(総合文化研究科)

 1997年人文社会系研究科より博士号(文学)取得。99年ケンブリッジ大学よりPH.Dを取得。放送大学客員准教授などを経て、11年から現職。著書に『シェイクスピア 人生劇場の達人』(中央公論新社)など。

 

【関連記事】

【東大教員からのメッセージ】鄭雄一教授インタビュー 工学でひもとく道徳の構造

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る