COLUMN 2019年9月13日

火ようミュージアム 奈良大和四寺のみほとけ

祈り、観て味わう仏像の魅力

 

 仏像は仏教の崇拝の対象として、各時代の文化を反映しながら約1500年にわたって日本社会に浸透している。人々を熱い信仰へと駆り立て、日本人のよすがであり続けた。今回は、9月23日まで東京国立博物館本館11室で開催されている特別企画「奈良大和四寺のみほとけ」から、仏像の魅力をひもといていく。

 この展覧会では7世紀から8世紀に創建された古刹である岡寺、室生寺、長谷寺安倍文殊院の「奈良大和四寺」に所蔵されている文化財を展示。国宝4件、重要文化財9件を含む名品で構成されている。

 

 最初に目に入るのは、長谷寺所蔵の2体の十一面観音菩薩立像だ。観音とは人々が苦しみ悩む「音」声を「観」じて救うことに由来する。出展された仏像は平安末期から鎌倉時代に作られ、その時代の傾向を受けた穏やかな容貌だ。国風文化によって和様化した仏像形式によるもので、観音菩薩にふさわしい慈愛が表現されている。

 

 

 また、他の菩薩と比べて瓔珞(首飾り)など華美な造形が随所に見られ、見る人を飽きさせない。しかし、これは現世の煩悩を取り除き悟りを開く仏教の教義とはちぐはぐな印象を受ける。華美な仏像は当時の上流階層の「煩悩」を想起させるからだ。仏像が仏教美術の側面を持つ以上、「煩悩」を感じさせずとも目を釘付けにする作品があるのではないだろうか。

 

 その答えは、奈良時代の仏像である岡寺の菩薩半跏像にある。古式な上瞼のみで表現された目や、自然だが微笑みを想起させる口角。女性的で華奢な肉体とその曲線の美しさ。これだけで慈愛を表現するには十分だ。宝冠など頭上の装飾品はあるが、長谷寺のものと比べると全体的に質素であり、わびさびの美意識を感じさせる。「煩悩」を想起させる華美さはなく、仏像の微笑みや肉体美が雑音なく見る人に伝わり心を打つ。

 

 時代は移ろうものであり、様式も変化し続ける。菩薩半跏像から先に進むと、螺髪のない如来像が目に留まる。平安前期に作られた室生寺の釈迦如来坐像は弘仁・貞観文化に当たり、中国からの影響がうかがえる。他の仏像よりも腕が太く、胸板も厚い。男性的でどっしりとした体つきで、口角も下がっている。見る人を包み込むような優しさは感じられないが、質実剛健なこの仏像は悟りを開く仏陀の姿をありありと示している。

 

 さらに注目したいのが、翻波式の衣紋だ。大波と小波を交互に配するこの様式は、独特の律動感で仏像に生気を与えている。この衣紋によって仏陀の姿が無味乾燥な像から脱皮し、芸術的にも優れた形となる。

 

 救いを求める人々のよすがとして、文化を踏まえた一級品の芸術として、仏像は今日も鎮座する。ぜひ仏像の魅力を肌で感じてほしい。時代を超えて真っすぐ心を打つものが展示室にあるはずだ。【貴】

 


この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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