COLUMN 2018年4月25日

【蹴られる東大 番外編】ハーバード大生と東大生が見る東大の「国際競争力」

 海外大学進学を目指す高校生の増加は、東大をはじめとする日本の大学の国際競争力低下と切り離せない関係にある。それを顕著に表しているのが、世界大学ランキングにおける東大の順位の低迷だ。

 

 一方、大学ランキングの順位に振り回されるべきではないという意見もある。東大は、大学ランキングとどう接すればいいのか。そして、世界各国から留学生を呼び込み国際競争力を高めるために取るべき方策とは。「蹴られる東大」の連載4回目に登場したハーバード大学の髙島崚輔さんと、髙島さんが留学前、東大で所属していた前期教養課程の高山ゼミで大学ランキングに関する報告を行った森海渡さん(法・3年)という国内外の学生2人の目から、東大の国際競争力や大学ランキングとの向き合い方を考える。

 

 

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「幸せな」東大ブランドから抜け出せ

 

 

 「そもそも、東大は国際的地位を向上させたいのかな?その必要はあるのかな?」髙島さんは問いかける。「留学生を入れたり英語で論文を出したりすれば大学ランキングの順位は上がる。やりようはいっぱいあるけど、正直それがいいのかどうかはよく分からないし、そもそも『大学ランキング=国際的地位』なのかも分からない。それより、どうすれば東大生が世界で戦えるようになるか考えることの方が大事ではないか」

 

 世界大学ランキングを見ると近年、「世界各国から多くの学生が集まっている」シンガポールや中国の大学の台頭が著しい。一方、東大はこれまで「日本の大学生のために何ができるか、という観点で施策を進めてきた」と髙島さん。外国向けのアピールをあまりしてこなかったため、海外での東大の認知度は低いまま。夏休みに日本に留学する学生はハーバード大学にも多いが、多くの学生の留学先は、留学先として提携校になっている同志社大学だ。東大のPEAK入試に合格したものの、東大を蹴ったハーバード大生も。「つまり、東大はハーバード大生に選ばれていないのが現状です」

 

 しかし、いろいろな国の人が東大を目指す環境に変わり、留学生が増加すれば「東大生にもすごくプラスの影響をもたらすのでは」。海外の学生にとっても魅力ある大学になるために、東大がすべきことは多いと髙島さんは指摘する。

 

 まずは東大の認知度の低さの解消だ。例えば、米国大出願時のプラットフォームであるThe Common Application(Common App)[1]には、英国や中韓など米国外の大学も情報を登録している。しかし、日本の大学でCommon Appに登録しているのは同志社大学のみ。「ハーバード大学ではアジア系の学生や日本に興味がある学生を除いて、そもそも東大は相手にされていない。The University of Tokyoが日本のトップ大学だと知らないから、『東京にある大学』くらいにしか思われていない」。Common Appへの登録は、ハーバード大を目指すような米国の高校生の間で東大の認知度を上げるのに役立つ方策の一つといえる。

 

 さらに、「どうして東大で学ぶ意味があるのかアピールすることが大事」と髙島さん。「東大に行けば何が勉強できるのか、海外の学生どころか、日本の学生にすらよく分からない。東大ブランドに安住し過ぎているのではないか」と疑問を投げかける。

 

 「でも、この状況はとても幸せなんですけどね」。母国語でまともな高等教育を受けられるからこそ、優秀な日本人の多くは東大を目指し、東大も海外の学生を呼ばずとも成功してきたのだと髙島さんは分析。逆に中国・韓国出身の学生には、「本当に一流の教育を受けようと思ったら、米国に来るしか選択肢がなかった」と話す人も多いという。

 

 しかし、国際競争力強化が叫ばれる今、東大は、海外の学生にも魅力ある大学へと変わらないと生き残れない時代にあるのかもしれない。「日本だけで幸せになれる時代ではなくなったと自覚することが、東大の国際的地位向上への第一歩なのではないでしょうか」

 

正しい努力でランキング上昇を

 

 

 髙島さんは、海外の学生にとって大学選びの一つの指標となる大学ランキングは「こだわり過ぎる必要はないが、国際的地位向上のためには重要な要素の一つ」だと話す。では、東大は大学ランキングの順位を上げるために、どのような手を打つべきなのだろうか。

 

 森さんの提案は単純明快だ。東大は、大学ランキングの重要性と配点表を意識せよ──

 

 「日本には、『東大はすごい』という謎の信仰がある」。大学ランキングの順位は下がっても東大の「本当の大学力」は世界トップクラスだという言説が飛び交う日本の現状を、森さんはそう形容する。「もちろん多様な目的の下設立され、多様な学問分野を擁する大学を一定の評価軸に基づいてランキング化する行為自体、人によってかなり評価が分かれうる営みです。でも、大学ランキングの順位は『大学力』の指標として分かりやすい。実際毎年発表されるたびに世界中のメディアが報道し、一国の教育政策目標の基準にすらなっています。『ランキングなんて勝手に言わせておけば良い。ランキングを上げるための努力なんて本末転倒だ』と簡単に済ませてしまうべきではないでしょう」。仮に東大の「本当の大学力」が世界トップクラスだったとしても、世界中の人が分かりやすさより正しさを追求して、東大の「本当の大学力」に気付いてくれるとは限らないと懸念する。「『本当の大学力』を知るためにはその大学についてそれなりの関心をもって調べないといけないわけですが、わざわざランキング下位の大学についてまでそんなことをする人は少数でしょう」。また、大学ランキングも毎年、より公平で精密な分析のために基準や算出方法の改定が行われており「順位と『本当の大学力』の乖離なんていうものは、実際にはほとんどないのかもしれません」。

 

 しかし現在の東大の取り組みは、大学ランキングの順位上昇にはつながりにくいと森さんは指摘する。その原因は配点表の軽視。東大は留学生の増加策に熱を入れるが、留学生比率はTHE世界大学ランキングで2.5%、QS世界大学ランキングで5%の配点にとどまる。一方、日本の弱点である論文被引用数の配点はTHEで30%、QSで20%と非常に高い。「もちろん財源や組織間の調整などの困難は伴いますが、本気で大学ランキングの順位を上げたいなら、海外から高待遇で研究者をもっと呼ぶとか英語での発表を増やすとか、いくらでも『研究力』や海外での『論文被引用数』を高める施策を打てるはず。東大は、大学ランキングが世間に及ぼす影響を看過しているのではないでしょうか」

 

 

 対照的なのが、THE世界大学ランキングでここ2年、連続して首位を獲得しているオックスフォード大学だ。世界中から優秀な研究者を招聘して「研究力」「論文被引用数」を高め、チュートリアル[2]など学生の「教育」においても高い評価を受けている。さらに、世界中に卒業生のコミュニティーを張り巡らせ、広報を充実させて「国際性」を高めるなど、「大学ランキングの配点表を意識した努力」を重ねた結果、英国のEU離脱による留学生の減少が懸念された2017年も16年より得点が上がり、首位の座を守り抜いたという。「もちろん英語圏であること、伝統があること、自由な財源が豊富なことなど有利な点は多々ある」が、東大が参考にできる点も多いだろう。

 

 「ひとりでに海外から学生が集まることはありえない。東大にまだ、世界トップクラスの『本当の大学力』があるのだとすれば、それが適切に発信されていない現状はあまりにもったいない」と森さん。「優秀な仲間が東大ではなく海外大を選択する姿を、一学生ながらすでにたくさん見てきました。正直、一人の東大生として、東大の地位が下がり続けていることは非常に悔しいです。本当に手遅れになる前に、東大も、世界大学ランキングの影響力に対する危機意識と配点表に沿った努力が不可欠でしょう」

 

※次回は実際に海外大を目指す高校生がどのように大学を見ているのか、東大の学生団体主催によるイベントの取材を通じて読み解きます。次回掲載予定は5月4日です。

 

【蹴られる東大】

本音で語る、僕らが海外を選んだ理由(上) 海の向こうへの挑戦

本音で語る、僕らが海外を選んだ理由(下) 海の向こうで見たもの

学生目線で比べる東大と米国トップ大

ハーバードで2年間 気づいた「自分、東大、ハーバードの強み」

拝啓 悩める高校生へ 〜東大生とハーバード大生が伝える、2大学の魅力〜

東大を勝たせた教授が語る、東大に足りない「危機感」と改革

勉強に対する姿勢の差 東大生は勉強していると胸を張って言えるか

開成生はなぜ海外大を目指すのか・開成学園柳沢校長インタビュー

東大は本当に「蹴られて」いるのか 鈴木寛教授インタビュー

蹴られて当然?東大生もうなずく「とりあえず東大」の終わり


注 

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[1] 米国大学出願時の書類提出を一括で行えるウェブシステムで、このサイトを通して受験生の個人情報や選考に使われるエッセイを大学側に送付することができる。受験生にとっては出願の手間が減り出願しやすくなるため米国の多くの大学がCommon Appを利用する一方、MITのように独自の出願システムを通じての出願しか受け付けていない大学もある。

[2] オックスフォード大学での教育の特色とされる、教員1人に対し学生2〜3人という少人数で行われる討論式の授業。

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