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2016年6月21日

理想の医療とは?為末大氏×山本雄士氏×膳場貴子氏による対談 五月祭 医学部企画

 今年で89回目となる*五月祭が5月14日(土)15日(日)の2日間本郷キャンパスにて開催された。様々な企画がとり行われ、模擬店やステージパフォーマンスで盛り上がる中、年代問わず人気を集めた企画がある。東京大学医学部五月祭企画だ。東大医学部では毎年4年生が中心となり、五月祭にて様々な企画を行っている。2016年度の医学部企画全体のテーマは「情熱医学」。最先端の医療展示や手術などの体験企画、健康について考える講演会、医師と考える症例検討会など様々な企画が行われ、来場者数は2日間でのべ1万人を超えた。

 

*五月祭:毎年5月に本郷・弥生キャンパスで開催され、今回で89回を数える伝統ある学園祭。

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 5月15日、医学部本館にて”理想の医療とは?”というテーマで特別講演会が開かれた。登壇者は一般社団法人アスリートソサエティ代表理事の為末大氏、東京大学医学部医学科OBの山本雄士氏、フリーアナウンサーで東大医学部健康科学・看護学科(当時)OGの膳場貴子氏の3人。前半は為末大氏、山本雄士氏の講演、後半は膳場貴子氏と司会者を交えての対談形式で進められた。本記事では、為末大氏、山本雄士氏、膳場貴子氏による対談の一部を紹介する。

(文・久野美菜子 撮影・石井達也、久野美菜子)

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予防医療で今後求められる取り組みとは何か?

 

 冒頭、予防医療で今後求められる取り組みについて問われた為末氏は「スポーツ関係者の語るスポーツはオリンピックを始めとする大会を目標にしたものが多く、楽しむためのスポーツという考え方が希薄になりがちである。スポーツ界の側から一般の人がスポーツをしたいと思った瞬間にさっと差し出せる施設や仕組みがあればいい」と答え、運動を通じて予防医療に取り組みたいというアスリートならではの取り組み姿勢を見せた。

 

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 医師としての経歴も持つ山本氏は、「医療を狭く限定しすぎていることに現在の課題がある。医療が病気になった時だけのものだと思うと、社会との接点が少なく医療の持つ価値が発揮しきれないのではないか」との危惧を示した。また、膳場氏の「年間40兆円を超える医療費はどれだけ予防医療に使われているのか」という疑問に対して、山本氏は「40兆円は基本的には病気になったあとに使われる。病気になったら保険で賄うのではなく、病気にさせない部分のサービスを充実させていきたい。例えばワクチンや健康診断といった予防医療の活動を健康保険に入れようとする活動を行っている」と述べた。その一方で、「予防医療に費用を投じることで医療費がさらに高くなる」というジレンマもあると指摘した。

 

健康を保つには?

 

 健康を維持したい、病気になりたくない。これは年齢を問わず誰もが願うことだろう。健康を維持するために、私たちは何を心がければいいのだろうか?

 

「為末さんの医療と幸福についての話を踏まえて、病気に陥る前にできることに力をかけるべきではないかと思う」という膳場氏の言葉を受け、為末氏は「(健康増進プログラムの一環で)URという会社で落語と体操を組み合わせた取り組みを行った。いちごと大福を合体させるように、意外な組み合わせでも案外うまくいく」と語り、「運動することに対するモチベーションも人それぞれで、意地でも運動しない人もいれば友達に誘われれば参加する人もいる。何がインセンティブになるのか、心の研究も進められるべき」と指摘した。

 

 また、健康を保つには日々の運動に加えて食事にも気を遣わなくてはならない。高カロリーな食事に仕事終わりのお酒、毎日生きる上で避けがたい誘惑に負けないようにするにはどうすればよいのだろうか?

 

 為末氏は「アスリートの中にも、意志が強くない選手は多い」と話し、「意志が強くないことを自覚し、コンビニから遠くてグランドには近いところに住む、冷蔵庫に食べ物を置かないようにする」など、食べたくても遠いと面倒くさいと思う気持ちを上手く利用することを提案した。

 

 膳場氏は、「主人は結婚前は体重が100kgを超えていたが、健康が心配だと伝えると食生活を見直しスマホのアプリで健康管理をして30kgの減量に成功した。健康を保つ際、医療者に頼りがちだが実際は家族や周りの力の方が大きいのではないか」と話す。自分のためだけの健康でなく、家族のために元気でいたいと思う気持ちが食生活の改善につながったようだ。

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お互いを必要とし合うような社会を

 

 理想の医療について語られた今回の講演会。対談の終盤、最後のコメントを求められた為末氏は、「自分が重要な人間かどうか自分で決めることは難しいが、人から重要だと言ってもらえると重要だと思える。お互いを必要とし合うような社会をつくっていくことで結果的にやろうとしている健康社会は実現するのではないか」とコミュニティや社会のあり方も含め考えていくことを提案した。

 山本氏は、「今回あまり触れることのなかった終末医療のこともこれからの社会で考えていかないといけない。予防医療にこだわらず、人との繋がりの中で医療というものが再提示されるといい」と話し、「今回の対談のように、医療関係者だけでなく色々な立場の人と考えていきたい」と協働を呼びかけた。

 最後に膳場氏は自分や家族の経験を踏まえ、「人は合理性だけで動けない、自分一人では出来ないことも、周りの人を巻き込むことでできる」と語り、周りとの関係の重要性を強調した。

 

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